兵庫のコウノトリへ④
—さぶん ばしゃばしゃ ざばざば ばさばさ…
「ここにも ない
さっき見たところにも 無かったし あと 見ていないところは…」
勢いよく振り返り 方向転換をしようとした その時
「きゃあ!」
足元にあった石で 足を滑らせ 思いっきり転んでしまった
腰の辺りまで水に浸かってしまい 彼女は自分のことが
この上なくみじめでふがいなく ちっぽけな存在に思えてくる
この川よりも もっと深く ドロドロした感情に
自分の気持ちが 全部 持っていかれてしまうような感覚
もう何もかもが嫌になって 再び立ち上がる気力すら 失いかけてしまいそうになった
すると—
「おい こんなところで何してんだ」
彼女はびっくりした
ここは川の真ん中で もう日も暮れかかっている
岸から声を掛けられたにしては あまりに近くに 人の気配がした
彼女は恐る恐る 顔を上げて振り返ると そこには 一人の男の子が立っていた
よく見ると 自分と同じ高校の制服に 見覚えのある顔
クラスメイトの 男の子だった
こんなところで何をしているのか 訪ねようと口を開くよりも先に
彼女の目から 涙が零れ落ちた
駄目だ 耐えろ 堪えなきゃ
そう自分に言い聞かせ続けるものの もう限界だった
ずっと一人で我慢して 耐え忍んできて 堪えて やり過ごして来れたのに
それがなぜか 彼の顔を見た途端 どういう訳か
自分の奥底にあった 行き場のない感情が ドバドバとあふれ出てくる
だけど 彼は表情一つ変えず 一切慌てた様子も見せないで
私の状態が落ち着くまで ただずっと そこに立って 待っていてくれた
しばらくして ようやく私は息が整い 話せるようになってきた
「ペンダントを なくしちゃったの」
「ペンダント?」
彼は一瞬 不思議そうな顔をした
無理もない
ただのペンダント一つで こんなに前進水浸しになるほど必死になっているなんて
一見 変な人でしかないだろう
「それ どんなペンダントなの」
彼は言いながら その場にしゃがみこんで辺りの石を 一つ一つどかしていく
私は慌てて止めた
「え いいよ!
ずぶ濡れになっちゃうし 風邪でも引いちゃったら 大変だし」
「けど 大事なものなんだろ」
私は はっとした
そう 私にとっては とても大事なペンダントだった
「家族で撮った写真が入っているの 両親がくれたものだったんだけど
もう 居ないから…」
そこまで言って 私は慌てて 口を閉じた
ほとんど喋ったこともない人に いきなりこんなことを言われても
困惑させてしまうだけだろう
だけど 彼は違った
「じゃあ 絶対見つけないとな」
それだけ言って 彼はひたすらに辺りを見渡しては 石をどかして
ペンダントがないかどうか 探す作業に入ってしまった
一方で 私はきょとんとしてしまった
この人には 感情がないのだろうか
表情の一つも変えないで 淡々としていて
だけど 私の探し物には 付き合ってくれて
私には 彼のことがよく分からない
なぜ 一緒になって 探してくれているのか
同情なのか 情けなのか 可哀そうだからなのか
でも どうもそんな感じには 見えなくて
一人で 頭をぐるぐる 悩ませながらも 探し物を続けていると
彼の大きな声が 少し遠くから 聞こえてきた
顔を上げると 思っていたよりも離れた場所に 彼は立っていた
「おーい! これだろ?
家族写真が入った ペンダント!」
彼は 満面の笑みを 浮かべていた
「ああ そうか」
これが本当の 優しさなんだ
私はふと 気づかされた




