1.
「お母さん!お弁当っ!忘れとったっ!」
一度家を出たのに、大事な大事なお弁当を忘れていたことに気付いて、走って戻ってきたのだ。
母は呆れた様子でお弁当を玄関まで持ってきてくれた。
「やけん忘れ物はないか聞いたやろ?ホントにそそっかしいんやけ、梓は」
「ごめーん!今度こそ行ってきます!!」
笑って受け取ると、お弁当を鞄に突っ込みながら走り出す。
と、階段の踊り場に黒いモヤ。あ、今日もおはようございます!
何とか満員一歩手前の電車に間に合った。危ない、危ない…はあ、降りる駅まで立ちっぱかぁ。
不意に後ろからぎゅうっと押される。
「ちょ、ちょっと押さないでください」
「は!?もっとそこ詰めりゃいいやろ!」
そこ。
私の前の空間のこと言ってんのかな。でもここにはモヤがある。潰す訳にはいかなくて、私はそっと踏ん張った。そしたら、モヤがちょっと笑った気がした。
実はこのモヤ、小さい頃から見えてるんだけど…私にしか見えないみたい。お母さんに話したら「そんなもんおる訳ないやろ?他のひとに話さんでよ」と言われてしまった。解せぬ。
次の駅で扉が開くと、人の波に乗ってモヤも降りて行った。ここに通ってるのかな?そっと手を振ってみると、モヤの手?の辺りがもやもやっとしたので、手を振り返してくれたのかも。ふふっ。




