プロローグ
事は1ヶ月以上前に遡る。
11月のくせに季節外れに暑く、11月から早々と暖房に切り替えた学校の上層部、さらには乾燥対策で置かれている加熱式加湿器の三重奏で非常むわっと、気を抜くとふらっと意識が逝ってしまいそうな空気を形成しだしたのを1日、耐えに耐え、遂に解放されようとしていた帰りのホームルーム終了直後、より正確にはホームルーム終了の挨拶の「ありがとうございました」の「た」を言った瞬間、教室の床に光る魔法陣が現れた。
クラスの大半がざわめき、一部のオタクがにっこり笑顔を浮かべる。
唯一の大人である、喜多原先生が教室のドアを開けようと駆け出す。だが、それは間に合わず、教室は光りに包まれた。
光が消え、視力が戻る。そこは、ヨーロッパの宮殿のような、小六の時に社会科見学で行った国会議事堂のホールに近いが所々、違う空間が広がっていた。そして、テンプレのごとく、周りには大量の魔法使いのような服装の人、正面にはザ・王様。赤地に金縁という、見るからに王様であり、首が折れそうなくらいずっしりと宝石のはめ込んだ王冠をかぶっている。
「ようこそ! 異世界の勇者様方!」
胡散臭いくらいにテンプレな挨拶。まあ、それぐらいしか入り方がないのだからしょうがないのだろう。
そこからは長ったらしい説明が続いた。
曰く、魔王が攻めてくるって預言書の書かれてるから助けろ、だそうだ、命令形で。もちろん、報酬の話はなし。払う気もないだろう。なにせ、異世界の住人なんだから人権があるのかすらわからない。命令形の時点で逆らえば殺すだろうし。表に出る前に始末してしまえば、国民に対しての世論も動かない。
「ちょっと待ってください! この子たちの意見はどうなるんですか! 同意もなしに勝手に連れてきて、魔王倒してくださいって、帰れる手段はあるんですか!?」
それまで黙って聞いていた、喜多原先生が声をあげた。高い声がホール中に反響する。普段の緩い声とは打って変わって緊張感のある、凛とした声。先生を初めてかっこいいと思った瞬間かもしれない。
――って、同意さえあれば魔王と戦っては良いのかよ。同意もなし云々の前に生徒の安全を確認しないのかよ。流石、サブカル大好き先生。ファンタジー要素には勝てなかったか……
一瞬、最高値まで跳ね上がっていた、先生への株がごっそり減った。
「黙れ! その女を捕らえよ」
王の両脇に立っていた騎士が喜多原先生を拘束する。
「やめてくださ……」
「よく見るといい女だな」
喜多原先生の顔を撫でる。
「客室に隔離しろ! 絶対に出すな!」
「「はっ!」」
騎士たちがホールを出、入れ替わるように別の騎士がホールに入ってくる。
「貴様ら、わかっているよな? あの女の命の安全は保証してやる。来る、魔王との戦争に向け、鍛錬しろ! 逆らったら、女の命はないぞ!」
その言葉を言ったあと、王は出ていった。
直後、グループで固まりざわつき出す。異世界転移のこと、先生が監禁されたこと、これからのこと――
二人の騎士が入ってきたことに気が付かずに。




