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黒き水の華、白椿の誓い  作者: 朧月 華


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第17話 身の破滅という名の「贈り物」

東京国際展示場は、煌びやかな光に包まれていた。



ヤングデザイナーズコンペティションの決勝の夜は、街中の全てのメディアとファッション界の名士たちを、惹きつけていた。マグネシウムの閃光が絶え間なく焚かれ、空気中には、緊張と興奮が混じり合った香りが、漂っていた。



舞台裏で、葛城紗奈は、あの、「月詠」の最高の職人たちが、数百時間を費やして手作りした「星月夜」のドレスを身に纏い、鏡に向かって、隠しきれない得意げな表情と興奮を、浮かべていた。



このドレスは、デザイン画よりも、さらに、百倍も華麗だった。深い青色のベルベットの上には、数え切れないほどの砕いたダイヤモンドと宝石が敷き詰められ、照明の下で、きらきらと輝き、まるで、本当に、一片の星空を、身に纏っているかのようだった。あの複雑な金色の刺繍と羽飾りは、さらに、ドレス全体に、豪華な宮廷感を、与えていた。



「紗奈、今日のあなたは、本当に美しいわ!」葛城靜子は、傍らで、誇らしげに、自分の娘を、見つめていた。「このドレスがあれば、グランプリは、あなたのものよ!」



紗奈は、はにかんで微笑み、その視線の端は、遠くない隅に座り、相変わらず、素朴な白いドレスを着ている、澪に、向けられた。



今夜、澪は、「月詠」ブランドの代表として、また、綾辻家の令嬢として、観戦に来ていた。彼女は、相変わらず、俗世とは無縁の様子で、静かに、ジュースを飲んでいた。



紗奈の心に、優越感が、湧き上がった。



愚かな女。あなたは、まだ、私があなたの作品を着て賞を取れば、あなたも光栄に思うとでも、思っているのでしょう?



待っていなさい。今日、私が一躍有名になったら、間もなく、この綾辻家は、全て、私のものになるのだから。

(等着吧,等我今天一战成名,很快,整个绫辻家,都将是我的。)


決勝が、正式に始まった。



一人、また一人と、若いデザイナーたちが、自らの作品を携えて、舞台に上がり、披露し、説明していく。



ついに、紗奈の番が、来た。



彼女が、あの、華麗で目を奪う「星月夜」を身に纏い、ランウェイを歩き始めると、会場は、瞬く間に、低いどよめきに、包まれた。



あまりにも……輝かしい。



その、まばゆい光は、ほとんど、目を開けていられないほどだった。



メディアのレンズが、狂ったように、彼女に向けられ、この、息を呑むような瞬間を、記録した。



紗奈は、この、衆人環視の感覚を、享受し、その顔には、自信に満ちた笑みを浮かべ、舞台の中央へと歩み寄り、自身のデザイン理念を、語り始めた。もちろん、それらの理念も、全て、澪が、事前に「教えた」ものだった。



「……私のインスピレーションは、ゴッホの《星月夜》から得たものです。最も極致の輝きをもって、夜空の神秘とロマンを、表現したいと願いました……」



彼女は、とうとうと語り、観客席は、うっとりと、聞き入っていた。



しかし、審査員席で、委員長のピエール巨匠の眉は、彼女が登場した時から、ずっと、固く、結ばれていた。



彼は、あの、無数の豪華な要素が積み重なったドレスを見つめ、その瞳には、驚嘆どころか、むしろ、隠しきれない……嫌悪感が、浮かんでいた。



また、この手のものか。



金銭と素材の積み重ねで、デザインの貧弱さを、覆い隠す。



これは、もはやデザインではない。これは、芸術への、侮辱だ!



紗奈の説明が終わるのを待って、ピエール巨匠は、マイクを手に取った。会場中の視線が、瞬く間に、彼に集まった。



紗奈は、緊張と期待に胸を膨らませ、彼を見つめ、この国際的な巨匠からの、賛辞を、待っていた。



しかし、ピエール巨匠が口を開いた、最初の言葉は、まるで、氷水のように、彼女の頭のてっぺんから、爪先まで、浴びせかけられた。



「そこのお嬢さん」と、彼の声は、氷のように冷たく、何の感情も、帯びていなかった。「失礼ですが、あなたのこの作品は、『成金の饗宴』でも、表現したいのですかな?」



会場は、死のように静まり返った。



紗奈の笑みが、顔に、凍りついた。



「きょ……巨匠、あの……何を、おっしゃって……?」



「私が言いたいのは」と、ピエールの口調は、ますます、厳しくなった。「あなたのこの代物は、デザイン性など、皆無だということだ!ただ、高価な素材を、何の美意識もなく、積み重ねただけだ!それは、ずんぐりとして、俗悪で、空虚だ!あなたは、ゴッホに敬意を表しているのではない。あなたは、ゴッホを、侮辱している!」



巨匠の批評は、鋭利な刃物のように、容赦なく、彼女を切り刻んだ。



紗奈の顔が、「サッ」と、青ざめた。彼女は慌てて、観客席の靜子に視線を送り、また、隅の澪に視線を送り、頭の中は、真っ白になった。



どうして、こんなことに?



想像と、全く、違うじゃない!



澪は、言っていたのに……



そして、まさにその時、さらに、致命的な一撃が、加えられた。



審査員席で、別の、国内で著名なデザイナーが、突然、口を開いた。「待ってください……この作品のデザインの細部、どうも、どこかで見たことがあるような……?」



彼は、自分のタブレットを開き、素早く、数回検索し、そして、その画面を、舞台後方の、大スクリーンに、投影した。



スクリーンに現れたのは、三年前に、フランスの、あるマイナーなデザイナーが、発表した作品だった。雖然、「星月夜」ほど華麗ではないが、その核心的な星空の要素、スカートの裁断方法、そして、肩の羽飾り……なんと、七、八割も、酷似していたのだ!



「盗作だ!」


「なんてことだ、盗作だったなんて!」



観客席は、瞬く間に、蜂の巣をつついたような、騒ぎになった!



メディアの閃光が、今や、栄光の証ではなく、審判の刃となって、舞台の上で、よろめくその姿に、狂ったように、突き刺さった。



「ち……違います!私は、盗作なんてしていません!」紗奈は、完全に、狼狽した。彼女は、支離滅裂に、弁解した。「これは、私が……私のお姉様が……あ、いえ、これは、私が、自分でデザインしたんです!オリジナルです!」



彼女の、うろたえぶりは、衆人の目には、疚しい心の、何よりの証拠と、映った。



「もういい!」ピエール巨匠は、我慢の限界に達し、彼女を遮った。その顔には、完全な失望と怒りが、浮かんでいた。「盗作は、デザイン界で、最も、許されざる罪悪だ!私は、あなたの参加資格を、取り消すことを、宣言する!そして、私個人として、あなたを、永久に、追放することを、提言する!」



「永久追放」という四文字が、まるで、驚雷のように、紗奈の耳元で、炸裂した。



彼女は、膝から、崩れ落ちた。



終わった。



全てが、終わった。



この茶番劇が、クライマックスに達した、その時。ずっと、隅で静かに座っていた、澪が、ゆっくりと、立ち上がった。



彼女はマイクを手に、舞台へと、上がった。



彼女は、崩れ落ちた紗奈のそばまで歩み寄り、その顔には、計算された、心痛と失望が、浮かんでいた。



「紗奈、どうして……どうして、こんなことを?」



そして、彼女は、審査員と観客に向き直り、深く、一礼した。



「審査員の皆様、ご来場の皆様、私は、『月詠』ブランドの代表、綾辻澪と申します。私の妹、葛城紗奈の盗作行為につきまして、綾辻家と『月詠』を代表し、皆様に、心より、お詫び申し上げます。」



彼女の態度は、謙虚で、誠実で、瞬く間に、同情を、勝ち取った。



続いて、彼女は、アシスタントの手から、長い筒状の、画筒を、受け取った。



彼女は、衆人の前で、そこから、一枚の画稿を、取り出し、ゆっくりと、広げた。



まさしく、あの——《星墜つ》。



「私たちの、お詫びの気持ちを表すため、そして、『月詠』の独創精神を証明するため、この場で、私たちのブランドが間もなく発表する、新作のデザイン画を、皆様に、お見せしたいと思います。それは、華やかではないかもしれません。しかし、それは、私たちが、デザインに対して抱く、初心と畏敬の念を、表しています。」



あの、シンプルで、空霊で、しかし、深い境地を湛えたデザイン画が、カメラを通して、大スクリーンに、はっきりと、映し出された時、会場は、再び、死のような静寂に、包まれた。



そして、今回は、震撼の、静寂だった。



審査員席で、ずっと、冷たい顔をしていたピエール巨匠が、勢いよく、席から、立ち上がった。



彼は、その画稿を、食い入るように見つめ、その瞳には、信じられないという、火山が噴火するような、興奮と狂喜が、宿っていた!



これだ……これこそが、真のデザインだ!



これこそが、彼が半生をかけて探し求めてきた、東洋美学の、究極の境地だ!



本来の姿に返り、大道は簡に至る!



彼は、舞台の上で、白いドレスを着て、その佇まいが、月光のように、清らかな少女を見つめ、その声は、興奮で、わずかに、震えていた。



「こ……このお嬢さん、失礼ですが、この作品は……」



「……あなたが、描いたのですかな?」

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