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黒き水の華、白椿の誓い  作者: 朧月 華


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第13話 龍園蓮の「処理方法」

メッセージを送信した後、澪はすぐには返信を受け取らなかった。



彼女は暗闇の中で静かに座り、スマートフォンの画面の光が彼女の顔を照らし、どこか冷たく見えた。



彼女は、蓮がどう返信してくるか、分からなかった。返信してくるかどうかさえ、定かではなかった。



彼に助けを求めることは、大きな賭けだった。



彼が彼女に抱く「興味」が、一体どれほどのものなのか。彼が、その水面下に隠された力を使ってまで、彼女のために、このような、表沙汰にできない「家事」を処理してくれるほど、大きいのかどうかを、賭けていたのだ。



もし彼が断るか、あるいは、通常の、ビジネス上の手段で対応することを選んだなら、それは、彼の目には、自分がまだ、面白い、いつでも捨てられる駒に過ぎない、ということを意味する。



だが、もし彼が……



時が一分、一秒と過ぎていき、澪がもうスマートフォンに何の動きもないだろうと思った、その時。「ピコン」と軽い音がして、画面が明るくなった。



相変わらず、あの「L様」からのメッセージだった。返信も、同様にシンプルで、ただ一文字。



【了】



何を処理してほしいのか、前後の事情も、何も尋ねない。



ただ一文字。しかし、そこには、人を安心させ、また、心臓を鷲掴みにするような、絶対的な、力強さが、込められていた。



澪はその一文字を見つめ、張り詰めていた体が、ようやく、少し、緩んだ。



彼女は、賭けに勝ったのだ。



翌日、綾辻家の屋敷は、何事もなかったかのように、平穏だった。



葛城靜子は相変わらず、優しく淑やかな貴婦人であり、葛城紗奈は、相変わらず、無邪気で可憐な小白花だった。彼女たちは、澪が拓海から贈られた新しいイヤリングを着けているのを見て、その瞳には、計画通りという笑みが、浮かんでいた。



澪もまた、自分の役を演じきり、彼女たちの陰謀に全く気づいていないふりをし、相変わらず、拓海との「仲直り」の甘い時間に、浸っていた。



しかし、見えない場所で、暗流は、狂ったように、渦巻いていた。



午後、綾辻家の主治医であり、既に靜子に買収されていた王医師が、いつものように、宗一郎の定期健診のために、訪れた。



彼が綾辻家を出て、自分の車に乗り込み、エンジンをかけようとした、その時。両側のドアが、同時に、開けられた。



黒いスーツを着て、無表情な二人の男が、乗り込んできた。その内の一人が、エーテルを染み込ませたハンカチで、手際よく、彼の口と鼻を、覆った。



王医師は、悲鳴一つ、上げることさえできず、座席に、崩れ落ちた。



彼の車は、別の男によって運転され、音もなく、車の流れに溶け込んでいった。まるで、一滴の水が、海に溶け込むかのように。



夕暮れ時、靜子は自宅で、どこか落ち着かない様子だった。



計画では、王医師が今日、新たに細工を施した「特効薬」を持ってくるはずだった。しかし、夕食の時間になっても、彼からの電話はなかった。



彼女は王医師の携帯に電話をかけたが、受話器から聞こえてきたのは、冷たい、電源が入っていないというアナウンスだけだった。



不吉な予感が、靜子の心に、湧き上がった。



深夜、拓海の会社で。



彼は、澪がくれた「ヒント」を元に、宗一郎の書斎の暗証番号錠を解き、あの新エネルギープロジェクトの重要書類を、手に入れたばかりだった。



彼は興奮しながら、書類をスキャンし、暗号化し、自分の裏の出資者に、送信しようとしていた。



彼が「送信」ボタンをクリックした、その瞬間。オフィスのドアが、外から、一蹴りで、破られた。



同じく黒いスーツを着た数人の男たちが、なだれ込んできた。その動きは、稲妻のように、速かった。



先頭に立っていたのは、蓮の腹心、黒崎隼人だった。



「何者だ?!何を、するつもりだ?!」拓海は、驚きのあまり、椅子から飛び上がった。



黒崎は答えず、ただ彼に向かって、冷たい、手招きをした。



すぐさま、二人の男が前に出て、拓海を、容赦なく、机の上に押さえつけた。もう一人は、パソコンの前まで歩み寄り、キーボードの上で指を素早く走らせ、特殊なUSBメモリを差し込むと、パソコンの中の新エネルギープロジェクトに関する全ての書類と、彼のハードディスクの奥深くに隠されていた、全ての、表沙汰にできないビジネスの裏帳簿が、迅速に、コピーされた。



「破壊しろ。」黒崎は、簡潔に、命じた。



別の男が、強力な磁気装置を取り出し、パソコン本体と拓海のスマートフォンにかざした。



「ジジッ」と軽い音がして、二台の電子機器から、同時に、一筋の青い煙が立ち上り、完全に、鉄屑と化した。



「お前ら……一体、誰の差し金だ?!」拓海は、自分が、手を出してはならない相手に手を出してしまったことを、ようやく悟り、恐怖に、叫んだ。



黒崎は彼の前に歩み寄り、まるで蟻でも見るかのように、彼を、見下ろした。



彼はポケットから、銀色の、澪が着けていたあのダイヤモンドのイヤリングの模造品を取り出し、ゆっくりと、拓海の、あの高価なスーツの襟に、留めた。



そして、彼は身をかがめ、彼ら二人にしか聞こえない声で、静かに、言った。



「我々の主人が、こう言っておられた。お前に相応しくないものには、手を出すな、と。」


「さもなくば、次に壊れるのは、お前のパソコンでは、済まなくなるぞ。」



そう言うと、彼は身を起こし、部下に、合図を送った。



一団は、来た時と同じように、速やかに、去っていった。まるで、突如として吹き荒れた嵐のように。ただ、めちゃくちゃになったオフィスと、床にへたり込み、全身を震わせる拓海だけを、残して。



同じ頃、澪のスマートフォンに、蓮からの、二通目のメッセージが、届いた。



今回は、二文字だった。



【済んだ。】



澪はこのメッセージを見て、窓辺へ行き、深く沈んだ夜の色を見つめた。



彼女は、自分が助けを求めるメッセージを送ってから、蓮が「済んだ」と返信するまでの、この、わずか二十四時間の間に、彼女には見えない、闇の世界の嵐が、静かに、吹き荒れたことを、知っていた。



彼女は、蓮がどのような手段を使ったのかは、知らない。しかし、彼女は、靜子と拓海の計画が、完全に、芽のうちに、摘み取られたことを、知っていた。



この感覚……


とても、奇妙だ。



運命を、他人の手に委ねるという、不安と。


まるで、絶大な権力を手にし、言葉一つで、事が成るかのような……快感が、入り混じっていた。



彼女はスマートフォンを手に取り、二文字、返信した。



【感謝するわ。】



すぐに、蓮からの、三通目のメッセージが、返ってきた。



【我々は、同盟者では、ありませんでしたかな?】



澪はこの言葉を見つめ、その口元の笑みに、初めて、心からの、複雑な、弧が、描かれた。



もしかしたら、虎と皮を争うことも、全てが、悪いことばかりでは、ないのかもしれない。



少なくとも、この虎の爪牙は、本当に……とても、鋭利なのだから。


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