いつもの夕方
心春が昼間の常連たちが帰った後の食器を片付けている。急に静かになった店内に、カチャカチャという食器を重ねる音とBGMのジャズが流れる。
食器を洗い場に置きながら、おずおずと心春が話しかけてくる。
「マスターって普通じゃないですよね? 私を助けてくれたり…………聞いてもいいですか?」
ずっと溜め込んでいたのだろう、意を決して問いかけてきた。真っすぐに目を見て答えを知りたいという態度。俺は肩をすくめ心春に真実だけを明かす。
「十数年傭兵をしていました。それで、多少荒事には自信があります」
心春は目を丸くしながらも何か納得した様子で呟く。
「そうですか。それで済む感じじゃないけどそれが事実なんですね」
俺は大きく頷いた。
「分かりました。このお話はこれでおしまいです…………でも、今度あんな事がある時は教えて下さい。無事を祈りたいので」
本当にこの子は変わっている。受け入れたうえで俺のそばにいてくれるというのか。俺にとってリスクでしかないし、彼女にとっても得はない。しかし、隠すのはフェアじゃないな。
「明日の夜、今回の後始末をします。これが終われば、いつもの平和が戻ります。」
静かに告げると心春はふーっといきをついてから微笑んで俺の手を握ってきた。
「教えてくれてありがとうございます。ぜぇっ〜たい帰ってきてくださいね」
全く、調子が狂う。だが、不思議と嫌ではない。俺もほほ笑み返して、先ほどから用意していた羊肉入りのピラウとチョパン・サラタスのプレートのピラウと、いつものカフェオレを大盛りにして心春の前に置く。
心春は目をキラキラさせて、そそくさと席に着くと頂きますと手を合わせ、スプーンでピラウを頬張る。
「マトンだ〜! 歯ごたえ最高! そして、臭みはスパイスで消えてて旨みが噛む度に出てくる〜」
いつものように感想を言った後、黙々と食べる心春。ガツガツではないのに見る間にピラウと野菜が消えていく。何回見ても嬉しい食べっぷりだ。
そして、毎度の様に忘れられたカフェオレが冷めていくのだった。
閉店後、いつもの様にZephyrで心春を家まで送り、その足で郊外の寂れたシャッター商店街の明かりが漏れる店の前まで行く。
『バイクショップ・オッドアイ』と書かれた年季の入った看板。エンジンを止めると中から声がする。
「亘っち、ま〜た乱暴に扱ったっしょ〜。音で分かんだかんね。シャッター開けっから中に入れな! まったくも〜」
ガゴンっと音が鳴りシャッターが電動で上がっていく。
薄明かりをバックにエメラルドグリーンの髪をお団子二つにまとめ、左眼にモノクル、首に指輪をぶら下げたチョーカーをつけダブっとしたオーバオールにタンクトップ姿が浮かび上がる。
腕を組み仁王立ちをし、頬を膨らませてプンプンと吹き出しがでそうな顔で出迎えてくれる女性。
「久しぶりだな、モノクル」
俺は顔を引き攣らせながら、馴染みのメカニックに挨拶をした。




