すのうどろっぷの朝
すのうどろっぷの朝のひとときから始まる新章です。
平和を求める物語をお楽しみください。
すのうどろっぷの朝は早い。俺は朝4時半に起き六時に開店する。五時過ぎに店に着きバケットを焼きながら他のメニューの下ごしらえをする。
俺は開店からずっとこのルーティンをこなしている、傭兵時代のルーティンに比べればぬるま湯のようだ。懐かしいな、あの頃の自分への追い込みの数々を思い出し、やり過ぎてたと実感している。
開店直後に来るのは大体3人。
カランカランとドアチャイムが鳴り、師匠のドックタグが揺れる。
「おはよ~、マスター。いつもの頂戴」
この通り大概一番乗りは、ここからほど近い場所にある神居北中高校の国語教師の北川明美だ。古い友人でもあり俺の過去を知る限られた人間の一人だ。
トレードマークの長い黒髪に赤い縁のメガネ、女教師はスーツが戦闘服という哲学からビシッと決めたパンツルック。大きな胸のラインの陰に隠していくつかのホルスターの膨らみが見える。
明美はある事情があり、愛銃のコルトパイソンをその身から離すことができない。本物の銃を所持していることを隠す為に複数のモデルガンやガスガンを持ち歩き第一種の銃器狩猟免許も持っている。
狂ったレベルのガンマニアとして神居北では有名人で、まさか彼女が実銃を身に着けているとは誰も思っていない。
そんなこいつのルーティンは、すのうどろっぷの人気メニュー、ドネルケバブと信じがたい量の砂糖が入ったマンデリンを飲みダラダラ出勤まで、俺や常連とおしゃべりすることだ。
「漢文は日本語じゃないんだよ〜。国語に入れるな〜」
どうやら、今日は漢文の授業らしいな。ピタパンを焼きながら、サイフォンでマンデリンを入れる。ケバブの肉を軽く炙り焦げ目をつける。
カランカランとドアチャイムが鳴り二人目の常連が入ってくる。
「あぁ~、眠いね。マスター、いつものキョフテとピラウのプレート頂戴」
彼は篠原結。明るい栗毛の短髪で少しふっくらとした体格で四角い伊達メガネをかけた端正な顔つきの男性で優秀なプログラマー。
夜型の生活で、ここで食事をとって仮眠をとるのがお決まり。そんな彼の為にアイスルイボスティーを食事の前に出す。
「サンキューマスター。大佐のオーダーが厳しくて仕事がはかどらないよ。過去の亡霊の痕跡を消すのが難しくてね。派手に動きすぎなんだよ」
ニヤニヤと結が俺の方を見ながら、お腹が空いたことをアピールしてくる。
俺は苦笑いをしてピラフの語源となったと言われるトルコ料理のピラウを大盛りでプレートに盛り付ける。
こいつも、俺の過去を知る一人。朝の、すのうどろっぷは顔馴染みばかりだなと考えていると、またカランカランとドアチャイムが鳴る。
「ますたぁ~。おはよぉ〜ん」
二メートルと言う筋肉質な体躯をきらびやかなドレスで飾り、トレードマークの米軍大佐を示す黄色の飾りの付いた士官帽をまるでミニハットのごとく斜めにかぶっている。
丸太のような首の上には鍛え抜かれたな肉体にふさわしい老兵の眼光鋭い顔。だが、クネクネとシナを作り優雅にカウンターに向かってくる。
結と明美、俺も略式ではあるが軽く敬礼をする。駅前のスナック『ナイトアーミー』のカーネルママ。俺の元上官であり、結と明美の教官でもある。
俺の過去を知り、現役を退いてスナックを経営がてら表と裏の世界の仲介をしている。恐らく神居市で一番謎の多い人物だろう。
俺は、ママのオーダーのレンズ豆のスープ、メルジメッキ・チョルバスを火に掛け、皆の料理をできたものから提供していく。
結が恨みがましくママに突っかかり、イヤンイヤンとママがクネクネしている横で明美が漢文を読み始める。なかなかにカオスな店内にドアチャイムが鳴り、ドックタグが揺れる。
朝の、すのうどろっぷに四人目の客が入店する。




