ただいま帰りました
Zephyrが寂れたシャッター街に入る。まだ深夜と呼べる時間だがバイクショップオッドアイのシャッターからは灯りが漏れている。
シャッター前にZephyrを止めると、待っていたかのようにシャッターが上がり、中から小柄な影が飛び出して来る。
「おかえり〜亘っち♥」
明るい声だが涙を流しながら抱きついて来て、小さい肩を震わせ俺の胸で泣きじゃくり始めるモノクル。
「よがったよぉ〜、よがったよぉ〜〜」
大きな声を上げて泣く女の子。俺を人として認めてくれた一徹さんの心を受け継いだ大切な人。
俺の帰る場所。
「ただいま、モノクルの子ども達は俺の命とWhiteの名を守ってくれたよ」
モノクルの頭を撫でながら報告する。彼女はしばらく泣き続けた。
ひとしきり泣いた後、恥ずかしそうにはにかみZephyrを引き取り、代車として一回り大きなKatanaを奥のガレージから出してきてくれる。
装備品一式を返し日本刀の名を持つバイクに乗り店に直接向かう。五時半、仕込みには間に合わないが通常開店はできそうだ。いつもと勝手が違うバイクに慣れながら、まだ人がまばらな駅前を進む。
丁度ネオンが消えたスナック『ナイトアーミー』の前で鍛えられた身体をナイトドレスで飾った屈強な男女が俺に敬礼をしている。
目立ちたくはないのだが、不思議と悪い気分はしない。軽く頭を下げて店の前を通り過ぎる。
雑居ビルの裏手にKATANAを置く。狭い階段横の倉庫から、すのうどろっぷの看板を引っ張り出して階段前のスペースに立て掛ける。
階段を上がり廊下を進むと、店の扉にもたれ毛布にくるまっている女の子がいる。
「心春、風邪をひきますよ」
優しく声をかけると、目を覚ましガバっと立ち上がる。そして、肩を掴み顔を近づけ俺をじっと見つめた後、涙を流し始める。
「マスター、おかえりな………さ……い」
涙を流し、言葉を詰まらせながら俺を迎えてくれた心春に笑いかける。
「ただいま帰りました。寒かったでしょう?エゾゲリン・チョルバを仕込んであります。大学に行く前に食べていきなさい」
心春は泣きながらも、目をキラキラと輝かせ俺の後に付いて店内に入ってくる。
カウンターにつき毛布を丸めてトートバッグにしまい込み、代わりに可愛いラッピング袋を出して俺に渡してくる。
袋の中には平たい小判のようなクッキーが詰められている。
ドックタグがこんなに沢山。
俺の家族はこんなにいるってことかな?
心春に背を向けて目の端を拭い冷蔵庫からトマトベースの米や豆の入った具沢山のスープを取り出し鍋にかける。
カランカラン
ドアチャイムが鳴り、2枚のドッグタグが揺れる。
Hiroyuki jietu
すのうどろっぷ・マスター
と書かれた2枚の銀色の板切れが。
この物語は私がカクヨムにて企画として書いたものを、主催者様のご厚意で連載化したものです。
第一章が企画物を加筆して連載化した部分。第二章からは私のプロットによるものです。
今回ひとまずの終幕まで参りました。
しばらくのお別れです。
また雪の一雫が落ちる夜にお会いしましょう。




