非殺とは
俺はただ殺さないだけ。
相手は生きて罪の報いを受ける。
死んで楽になるのと、どちらが残酷なのか?
自問自答は迷いを生む。だが、俺はこの問いを常に持って戦わなければならない。そうする事で俺は機械では無く、自分の意志を持つ人間でいられる。
濁りきり、人を殺めることに慣れてしまった俺をWhiteと呼んで、人間扱いをしてくれた一徹さんが残した終わることのない問い。
俺の身体は自問自答にふける思考とは別に淡々と任務をこなす。
停船命令を受け保安庁の強制検査をやり過ごす為、殆どの戦闘要員が本来オイルが貯蔵されるプールを改造した大部屋に集まり息を潜めている。
換気孔からその様子を確認し、腰のポケットから平たいボンベを取り出す。
第二次世界大戦時に開発された神経ガス『タブン』をベースに改良された大量非殺制圧用神経ガス『Succubus』。人類を誑かす悪魔の名を持つ非人道的な装備。
致死力がないだけで、苦しみや後遺症ももたらすことがある。これを迷うこと無く散布。楽に殺す死神と、俺はどちらが残酷だろうか?
Succubusは遅効性。気付いたときには、その甘い毒は室内に充満し呼吸の他皮膚からも犠牲者を侵す。身体を激しく動かそうとした時に毒は犠牲者の自由を奪う。
息を潜め次の部屋に急ぐ。
通風孔を通して、船員の話し声が聞こえる。ブリッジの交代要員五人。四交代なので大体これくらいの人数であっている。
通風孔から二人の首筋に銃撃し即効性筋弛緩剤打ち込む。一息入れて格子を蹴破り部屋に舞い降りる。
格子が落ちる音に反応してこちらを見る三人の船員に、左足のレギンスに搭載した三連砲を向けコマンドを告げる。
zwei
金属のワイヤーで編まれた網が広がり三人に絡みつく。
Gewitter
一瞬のスパーク。電流にて無力化される三人。先ほどの二人と合わせて網とワイヤーで一括りにしてベッドの端に繋いでおく。
銃を構え扉の横につく。
戸を開けて反応を見る。廊下に気配なし。
飛び出して左右を確認。敵影なし。
幹部であるNeedleの部屋をディスプレイで確認し音もなく前進。銃口を上に上げ、すぐに狙いを付けられる高さにキープして廊下を走る。
T字路の角で分岐先を薬指に仕込んだ鏡を使って索敵する。Needleがいるであろう船室の前に船員の服を着ているが隙のない動きの男が二人。
フラッシュボムを投げ込む。カツンと床に当たり閃光が廊下を包む。と同時に俺のいる角に
銃撃が二発。フラッシュボムへの対応が迅速。
二人とも相当の手練。
高く飛んで壁を蹴り距離を稼ぎ、低い弾道を三角跳びでやり過ごす。かなり分かっている相手。俺が身を低くして近付いてくると読んでの発砲。
正攻法でいくとこちらが数で不利になる。ここは場を荒らす。
左のももの三連砲の照準を定めつつ防ガスマスクを引き上げ、コマンドを口にする。
eins
初速の遅い弾頭が男たちに迫る。
Feuer
二つ目のワードで弾頭が弾ける。凄まじい勢いで男たちを襲う。
俺は一気に近づく。
弾頭から放たれた猛烈な刺激物は容赦なく閃光で目潰しされた男たちの目を再度襲い、吸ってしまったが最後、むせ返り痛みにのた打ち回る。
容赦なく腕をねじ上げて折り後ろ手で拘束。もう一人は靴底のテーザーパッチを起動して失神させ二人仲良くワイヤーで縛る。
二人の銃の引き金にパテを押し付けて硬化スプレーをかけ瞬時に凝固させる。
手早くここまで済まし、扉の脇にしゃがみ込み中の気配を探る。
居る。
気配を消さず待ち構えている。
さて、Needle。
チェックだ。




