見送られ旅立つ意味
カランカラン
ドアチャイムを鳴らして鋼一家が帰って行った。心春は、手早くカウンターの食器を集めて洗い場に片付ける。
心春が洗い物をしている間に持ち帰り用のサバサンドを手早く作り、カフェオレをテイクアウト用の容器に入れて保温バックにいれる。
「それが終わったら少し早いが送ります。ここに、持ち帰り用の賄いを置いておきますよ」
閉店の準備を手早く始める。
「マスター」
心春が少し震える声で続ける。
「明日も、すのうどろっぷは開くよね?」
優しい子だ、そして私の事情も組もうとしている。だが、当たり前の事を告げる。
「当たり前じゃないですか、明日の賄いも楽しみにしていてください」
その後はほとんど会話は無く心春の家の前に着くと、背中の心春が抱きついてきた。
「行かないで欲しいって言ったら言うこと聞いてくれますか?」
震えている心春。俺はあえて問いかけ返す。
「そうしてほしいのですか?」
我ながら意地の悪い聞き方だ。
心春は俯いて暫く考えた後、手を離しバックシートから飛び降りて後輪の脇の荷物を持ち、賄いの保温バックを大事そうに抱えるとニコッと笑い。
「さっきのは無しでお願いします。いってらっしゃ~い」
手を振り背を向けて玄関に向かう心春。
この子を悲しませない。待っている人の為に戦う意味をもう一度心に刻みつけて声出す。
「行ってきます」
Zephyrを反転させて次の目的地を目指す。
オッドアイでZephyrに特殊装備と俺の非殺専用装備一式を身に着け、潜水装備を装着し上からカモフラージュコートを羽織る。
その姿を見てモノクルが話しかけてくる。
「Widow………ごめん。まださぁ、あの時貴方が実弾使ってたら、父は死んでなかったんじゃって考えてしまうの」
愛莉澄の本音。
一徹さん、愛莉澄の父親が亡くなったのは俺の甘さ…………あの人の装備が悪いんじゃない。あの時、俺がちゃんと拘束さえしていれば彼女を悲しますことはなかった。今でも後悔している。
殺戮マシーンだった俺に人間らしさを説いてくれた初代モノクル、愛川一徹さんとの出会いが俺を変えた。
だが、俺が変わったことによって皮肉にも彼を守れなかった。
一瞬の油断だった。無力化したはずだった暗殺者の凶刃がモノクルの背を貫いた。すぐさま、暗殺者の首を折ろうとした俺の手を押さえながら言った彼の最後の言葉。
「汚すな、つかみ取ったんだお前は。Whiteの名を。俺の我儘を叶えてくれ」
暗殺者を逃がした上に保護対象の死亡。大きな失態だった。
愛莉澄は泣きながらモノクルを手にして俺に宣言した。
「WidowmakerいやWhite。あなたの手は二度と汚させない。それが父の願いだから」
それから二年。彼女の非殺武装で殺さずの傭兵Whiteとして活動した。
師匠と出会い、引退後は俺の体の一部になってしまった日常装備と一徹さんから受け継いだZephyrの整備をしてくれている二代目モノクル。
「なしなし! 今のな〜し。私自慢の子どもたちと遠足楽しんで来てね。お土産待ってるよ~ん」
ギャル語のモノクルの目から水が流れたが、見えないフリをして手を振り環状線を北上する。
サンライズカムイ港。カムイニュータウンのもう一つの目玉となるはずだった場所。豪華客船が停泊できる港。大型貨物船も出入りをして貨物列車による流通の拠点として使用されるはずだった。
大型娯楽施設の誘致失敗により公共交通機関も計画見直しをされ、超大型の港は完全な廃墟と化した。
まさに神居市の負の遺産であり、闇組織の格好の住処になっている。
向かう途中、検問がいくつかありニュータウン方面を封鎖していることがうかがえる。
現在俺のヘッドセットからは特殊な周波数の電波が出ており警察、自衛隊に位置情報が流れておりZephyrは止められることなく検問をすり抜けて走り抜ける。
ニューカムイタウンの周辺地域に入る。ライトを消してナイトビジョンで道を確認しながら電気駆動で音もなく走る。
潮の香りが感じられる区画に近づいてくる。さぁかくれんぼの幕開けだ。




