曇りの訳
その夜、夕食を済ませた後。
ご機嫌にプリンを食べながらゲームをしている涼太に、珍しく私から話しかけた。
「涼太、いつも涼太の隣に座ってる子いるでしょ?」
涼太はスプーンを口にくわえたまま、私の方を見た。
「ああ、栞?」
あの子、栞ちゃんって言うんだ。名前まで美少女。
「栞ちゃん、かわいい子だね。」
涼太は少しポカリとした表情で、
「そう?」
と言いながら、首を傾げた。
まだまだ子供な涼太は、あんな美少女が隣にいるのに気が付かないのだろうか?勿体ない。だけど、図星かもしれない。私はどうしても気になってしまっている。一応、聞きたい。
「もしかして~彼女だったりして・・・。」
すると、涼太はやりかけていたゲームをポイっと投げ捨て、怖い顔で私を睨みつけた。
私は涼太の表情を見て次の答えが来までの間、なぜか緊張する。
「彼女なわけないだろ!!キモイこと言ってんじゃねーよ!!」
可愛い弟がいつになくムキになって噛みついてくる。眉間にしわを寄せて本気で怒っている弟に私は動揺をする。
「だって、栞ちゃんはいつも来てるし、涼太と一番仲がよさそうだし、あんなにかわいい子だから・・・。ピッタリくっついて仲良くしてたら、涼太だって”ドキッ”としちゃうんじゃないかなって思ったんだよ。」
シドロモドロでそう言うと、
「”ドキッ”って何だよ!馬鹿じゃねーの?栞は男だぞ!!」
男の子?思いもよらなかった。
「?」
私はその言葉が直ぐに理解できずに、時間が止まる。
「姉ちゃん、もしかして栞の事を女って思ってるとか?」
涼太は右の口元をクイッっとあげて、不敵な笑顔を見せ、私は自分の誤解に赤面する。
「あいつ女に間違えられるの一番嫌いなんだよ!!絶対にあいつにそんな事言うなよ!!!少女漫画の読みすぎだろ!!変な妄想ぶち込んでくんじゃねよ!!キモッ」
涼太は本当に怒ってしまって、それからしばらく話もしてくれなくなった。
弟からくらった”キモッ”の一言は、とても恥ずかしくて顔の火照りがなかなか醒めなかった。
そして分かった。あの時の彼の表情の意味。曇ってしまったのは、私から”可愛い””美人さん”なんて言われたから・・・。普通の男の子なら、別になんとも思わない言葉だったかもしれないけど、あんな容姿でいる彼にとっては、物心つく頃から何十回何百回といわれ続けた言葉で、
”嫌な誤解をまたされた”
と思ってしまったのかもしれない。そう思うと、
”悪いことを言ってしまった・・・。きっと、傷つけてしまったろうな”
と、自分の吐いた言葉に対し、反省に近い後悔をしていた。