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4.Terrorisme

挿絵(By みてみん)

ギュニョォン!!ギュニョォン!!ギュニョォン!!


不気味な音と紫色の淡い光の点滅。

 


 ピッギィーーーーーーーーーーーン!!!!


  ギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!


   ベベベベベベベベベベベべベチベチ!!!!

 

そして白い閃光と耳をつんざく重音が、キプナの視界と響界を塗り潰す。


 

ほんの一瞬、視界は硬直したミアと自身に衝突寸前の飛来物、こちらに襲いかかる黒い男を捉えた。


 

そして視界は再び白く塗り潰された。



 







サァァ



心地良い風の音がする。


雲の漂う広い空と、無数の小さな丘が広がる青々とした丘陵(きゅうりょう)が見える。



(エッ……ここはどこ?…………というか声が出せない?!)


気づくとキプナはAスタジアム観客席ではなく自然豊かな場所にいた。



ザッ ザッ ザッ ザッ


驚くキプナに構わず視界と体が勝手に動き出す。



(体が勝手に!…走ってる!………手足も首から上も一切思い通りに動かせない………自分の体のはずなのに……どうなってるんだ……)


(自分の体………いや違う!)


(思い出せ!僕は身長290cm、メガネをしてて頭の左側がハゲてて、歩く時いつも膝がほんの少し痛かったはず!)


(……やっぱりこの感覚と体は僕のものじゃない。)


(まずメガネをしていない、そして視界の左側に髪の毛が見える。)


(次に地面がものすごく近くに感じる。この感じだと膝立ち歩きの僕の目線でも、普通の身長の人の目線でもない。幼い子どもの目線のはず!)



ザッ ザッ ザッ ザッ


体はキプナが独り心の中で喋っている最中も走るのを止めない。



(走ってるけど膝に痛みが一切無い、息も苦しくない………この体どこに向かってるんだろう?)



ザッ  ザッ  ザッ


心なしか走るスピードが少し遅くなっている。

体は時折り正面ではなく自身の足元を見たりしている。



(!……この赤いランニングシューズ!!僕が10歳の誕生日の時お母さんがプレゼントしてくれた有名ブランドの……何てブランド名だっけ……とにかく超限定のヤツだ!!……でも1ヶ月後にサイズが合わなくなって……でもでもお母さんが直ぐにサイズの大きい同じヤツを頑張って入手してくれた!!!……………)


(…つまりこの体は僕が幼くて身長も普通だった頃の……記憶?夢?…………いや…たまたま同じ靴ってこともあるから断定は出来ないけど……)



ザッ   ザッ


体は走るのを止めゆっくり歩いている。

視界の真ん中には、丘陵の中で1番高い丘に向かって歩く2人の後ろ姿が小さく見える。


ザッ  ザッ ザッ ザッ ザッ


体は再度走り出し、前にいる2人の視界に入らないよう大きく回り込み、2人が向かっている丘の先にある低い丘の影でうつ伏せになった。

2人の正面の姿が向こうの丘の下から現れるのを双眼鏡片手に待機している。



(…双眼鏡持ってたんだ………何する気なんだろう僕……人間観察?………いやこの体を僕の幼い頃だと断定するのはまだ早い……)



モゾモゾ

 

うつ伏せになった体は長袖を着ている。小麦色の前腕が見える。


 

(…この肌……やっぱり僕なんじゃ………現実……夢……記憶……もうホントに訳が分からない)



しばらくして、向こうの丘の下から例の2人の姿が現れ始めた。

それと同時にこの体は双眼鏡を覗いた。



(………!!なんだあの人たち!?!それと右にいるのは!!!!)


 

丘に現れたのは女の子と男の子。

その2人のどちらもが、装いだけでなく身体的特徴が明らかに異様。

 

その中でもキプナから見て右にいる男の子はつい先程、いやたった今なのかもしれないが、Aスタジアム観客席にいるキプナとミアに襲いかかってきた黒い男にそっくりなのだ。

身長は110cmほど。

その男の子の肌はいくら見ても、肌が黒いの次元ではなく黒色。木炭を連想させる。

頭には大きなゴーグルをつけている。

髪も黒色。前髪がゴーグルのレンズにかかっており邪魔そうではあるが長くはない。

左のこめかみ辺りからアンテナのようにピンとした長い髪の束が後ろに向かって生えており、男の子がトコトコ歩くたびにピョンピョン動いている。

右頬に一筋の縦傷がある。

これらの特徴だけでもかなり異様だが、更に異様なのは手足だ。

両手とも指が6本ずつある。そのためかかなり大きく見える。

そして足も靴越しだが大きく見える。手同様指が6本ずつあるのかもしれない。

両手足の大きさが男の子の体にアンバランス感を生みだしている。



(これがもし…有り得ないかもだけど、ただの夢じゃなくて僕の覚えてない記憶を追体験しているモノだとしたら…………あの男の子は僕たちを襲ってきた黒い男の幼少期ってことに……そして僕はその男を幼い頃に見たことがある…………さすがに話が出来過ぎているかな…)


(……そもそもあの黒い男はホントに現実に存在してるのだろうか?僕があの黒い男を見たのはものすごく一瞬だ。見間違いや幻覚の可能性だってあるかもしれない)


(……とりあえずこの白昼夢から覚めたら、現実に黒い男がいるかどうかと、黒い男の指の本数を確かめないと)

 


そして黒い男の子の隣にいる身長が150cmないぐらいの女の子。

まずキプナは体の形に驚いた。

大きな胸に、彼女自身の太ももと同等以下の太さしかない胴囲、そして肩幅より広い臀部(でんぶ)に長い脚。

良く言えばスタイル抜群、悪く言えば奇形。あの体形が身長150cmほどに収まっているのは違和感がある。本来は身長170cmだったものを体形を変えず無理矢理150cmほどに縮小したかのようだ。

次に顔を見た。

肌は白色。

眼がすごく大きい。瞳は黒色。キプナはあの眼が球状をしているとは思えなかった。

左まぶたのまつ毛が右と比べて短い。

左眉毛が一切生えていない。

鼻は穴がない。それっぽい形をしているだけで機能しているとは思えない。だが女の子は口をずっと閉じたままで口で呼吸はしていない。

耳と口はおそらく異常なし。

右頬に下まぶた辺りから伸びた、黒い二筋の縦傷がある。

頭には何故か三角巾をつけている。前髪と横髪が出たままだ。

髪は黒色。髪型はロングのストレートでポニーテール。前髪は目にかからないぐらいの長さ。横髪は肩にかかるぐらいの長さ。

三角巾と合わせてなのかエプロンをつけている。

指の本数は両手とも5本ずつ、足の大きさに違和感はない。


(男の子は現実…と関連性がありそうだけど……あの女の子はなんなんだ?……………人間に擬態した…エイリアン?…………やっぱりただの夢なのかな…)



丘の1番高い所に到着した異様な2人は地面に腰を下ろした。

2人共、口を閉ざしたまま向き合っている。

しばらくして女の子が前のめりになり、男の子の顔に両手を添えた。

そして左手親指で男の子の右頬の傷をなぞりながら、右手人差し指でゴーグルの側面をコツコツと叩いている。


 

(あの2人、なぜ一言も喋らないんだ?……それに女の子の方は何してるんだろう?……新手の…スキンシップ?)

 


バッ!


突然、男の子の方も前のめりになり、両腕を女の子に抱きつくかの様に首に回した。


そしてキプナが気づいた頃には、男の子と女の子は互いに前のめりではなくなっていた。

男の子の両手にはヘアゴムと三角巾が握られている。


解かれた黒い長髪が風で揺れている。

 

女の子は訳もわからずといった顔で両膝を外側に開いて座り茫然としている。


 



 



ゴツ!


キプナはお尻に痛みと冷たさを感じた。

 

「エッ?!……」


白昼夢は急に覚めた。


キプナは左まぶたをギュッと閉じ、左手を顔の前、右手は腰辺りに添えており、現実で迫りくる脅威に対して出来る限りの防御をしていた。

腰を浮かせていた両手を、急に別のところへ移動させたため尻餅をついていた。


(ここは……)


キプナは体勢を楽にし何度かまばたきした後、現実に目を向けた。



キプナは白昼夢を見る前同様、Aスタジアム観客席の階段に腰を下ろしている。


(なんだこれは?!!!)


キプナが周囲を見渡すと、観客席全体が黒い粘性の液体で真っ黒に染められていた。当然客席はかなりざわついてる。

キプナは自身の足元を見た、黒い液体に埋もれた白い鉄球が2つ落ちている。周辺の床をよく見ると数cm程度の黒い粒が無数に落ちている。


(この白い鉄球!確か僕にぶつかって………ない?!)


キプナは自身の顔と腰を触って痛みが無いか確かめた。

しかし何ともなかった。メガネのレンズもキズ一つ無い。


「………………!!!」


(ミアちゃんがいない!!!)


キプナはミアがいなくなっていることに気づいた。


「ヴェイさん! カイさん! ミアちゃんがッ!!……………?!!」


キプナは右を向き、数席離れた場所にいるヴェイザーとカイシュンを呼んだ。

しかし2人は席に座っていない、床に倒れている。

カイシュンは前のめり、ヴェイザーは仰向けに倒れている。


(……いったいなにが………呼吸はちゃんとしてる。でも頭を強く打ってるはず…起こさないと!)


 

『動かないでください』


 

キプナが2人に寄るため、腰を上げようとしたタイミングでスタジアム内のスピーカーから女性の声がした。

キプナは反射的に動きを止めた。

 

しかしこの声はこれまでエアドマスターの進行をしていた女性の声とは別モノだった。

客席がざわつく。



今スピーカーからエルラ以外の声したよな?


 誰の声だ?! 誰だ? エルラが声作ってるんじゃ?


  誰だ!クソが!!クソエルラじゃねーのか?!!


   誰だよ!!出てこい!!瞬殺だぁぁぁ!!!


    全員落ち着け!静かに!動いちゃダメだ!




ギュニィン!ギュニィン! ギュニィン!ギュニィン!

 

『ファイウィーミッドファイパ技術学校Aスタジアムを意志汚染区域(いしおせんくいき)及び引力汚染区域いんりょくおせんくいきに移行。汚染区域内外の行き来を禁じます。』

 


ギュニョォン!!ギュニョォン!!ギュニョォン!!


『エラー エラー エラー エラー 防護膜展開不可 防護膜展開不可。』


不気味な警告音と自動音声がスタジアム内外に響く。

客席が更にざわついた。


 


防護膜が復活しない?! 意志汚染区域になったぞ!


 どうなってるの! 皆動くな!動くな!静かにしろ!!


  それに!引力汚染って!! まずいぞ!


   戦闘許可も無しにここから出るなってか!!


    意志汚染の原因は黒い液体だ!囲まれたら死ぬぞ!!


     この黒い粒全部…引力片(いんりょくへん)じゃねぇか!!!


      逃げろ!!こんな所いたら死ぬぞ!!!



客席は騒然としている。だが席をウロウロする者はいても、観客席外に逃げ出そうとする者は何故か誰一人いない。




おい!!コートに知らないヤツがいるぞ!!!


 

客席の誰かが叫んだ途端、全員がコートを見下ろした。

キプナもコートを見下ろす。


「なッ!!!」




コート内も観客席同様、黒い液体でところどころ染められている。

コートには息を切らしているのか肩を大きく揺らしているガーソン校長と、黒い男が距離を離して向かい合っている。

そして何度目だろうか、また客席が大きくざわついた。




誰なのアレ!てか真っ黒!! 黒すぎだっろ!!


 挑戦者(ビャクエイ)どこいった?!!


  クソが!!クソアイツ誰だ?!クソが!!


   校長!!大丈夫ですか?!!


    瞬殺しろおおぉ!!!瞬殺しろおおぉぉ!!!


     挑戦者(ビャクエイ)出てこい!!


      オレより黒いやつ久しぶりに見た!!


       なにアレ?!木炭の擬人化!!?


        結局スピーカーの声誰だったんだよ


         アイツが挑戦者(ビャクエイ)に変装してたってこと?!!


          身長ヒック!!手足デッカ!!

 

 

(あの黒い男!!……幻覚じゃなかったのか……)


キプナは黒い男の手元を確認した。

手にはグネっと曲がった黒い大きな刃の付いたトンファーの様な武装を持っている。その武装は前腕部に沿った部分だけでなく、ハンドルグリップを握っている拳前方にも弧を描く様に刃が付いている。

キプナは男の握り拳を注視した。


(…!!!指が6本ある……)


そして次に足を見た。

足も手同様、靴越しでもわかるほど大きかった。


(じゃあ……あの白昼夢は!………………考えてもよくわからない……)


キプナはとりあえず、その男の全身を観察することにした。

身長は160cmほど。

髪は黒色。髪型はオールバックで長髪を後ろで束ねている。

頭にはゴーグル、カチューシャ、耳当てを装着。

露出した顔の肌は黒色。

右頬に一筋の縦傷あり。

首から下を黒い武装で固めている。

肩に何かのロゴマークが刻まれている。

大きい真っ黒なバックパックを背負っている。




ズサッ!  ガチャ


黒い男が両手に持った刃を黒く染まった地面に突き刺した。そしてバックパックを背中から外し手元にやった。



黒い男の一挙手一投足をコート内の校長含め、全員が静かに観察している。



ガチャガチャガチャ


バックパックの上部が機械的に開いた。

黒い男はバックパックの中に片手を突っ込み、何かを引き上げた。




(……………………ミアちゃん!!!!)


 

中から出てきたのは、目を開いたまま意識を失っているミアだった。

脊髄以外のほぼ全ての関節を外されていることが衣服越しにでもわかる。四肢が背中の後ろで小さく折り畳まれている。

胸の動きから息をしているのはわかる。

彼女の青い虚ろな瞳がキプナの思考を阻害する。



黒い男はミアの首根っこを左手で掴んで持ち上げている。

そしてバックパックを地面に置き、空いた右手で地面に刺しておいた、刃のハンドルグリップを掴んだ。





 

音はしなかった。

キプナは一瞬何が起こったか理解できなかったが、直ぐに理解した。

黒い男が刃でミアの額をズタズタに切りつけたのだ。

ミアの白い顔面はあっという間に赤くなった。


 


『静かに』




客席が叫び出すより早く、スピーカーからまた謎の女性の声が聞こえた。

それと同時にコート内にいる校長が客席に向かって静止するよう左手をあげた。

客席から声が聞こえなくなった。

ミアの青い虚ろな瞳がキプナを覗いている。


 

キプナはスピーカーの声の正体がわかった。

あの黒い男だ。

スピーカーが話すと同時に黒い男の口も動いていた。どういう原理かは分からない。

青い虚ろな瞳がキプナを覗いている。



黒い男は再び右手に持った刃を地面に突き刺した。

そしてどうやったのかミアの血塗(ちまみ)れの顔を一瞬で綺麗にした。額に刻まれた傷がよく見える。

虚ろな瞳がキプナを覗いている。



黒い男はバックパックにミアを入れ、背中に戻した。

刃は地面に突き刺さしたままにしている。




『イビューサ校長、まだ動かないでください』


 

黒い男が再びスピーカーを介して喋った。

ボイスチェンジャーでも使っているのか相変わらず女性の声だ。

校長は前傾姿勢で今にも飛び出しそうだったが姿勢を直立に戻した。


 


キプナは感情と理解が追いついていない。


 

冷静になるためキプナは客席の話し声をとりあえず全面的に信用し、今何が起こっているのか整理することにした。


(……まずAスタジアムのコートは意志技術戦闘(いしぎじゅつせんとう)が行われている間は防護膜で囲まれてて、コートの内側から観客に危害を加えることは出来ない)


(でもエアドマスター第3試合に出場した挑戦者のビャクエイさん…に変装した黒い男が防護膜を破壊した)


(……そして変装を解いた黒い男が観客席に侵入してミアちゃんを人質として捕らえた)


(……それと…観客席に侵入すると同時に、白い鉄球と黒いネバッとした液体と黒い小さな粒をばら撒いた)


(で、ばら撒いた物の中で、黒いネバッとした液体……これに囲まれたら死ぬ…のかな?……で、Aスタジアムが…意志汚染区域?ってのになったのはこれが原因。汚染というからには放射線と同じくらい危険だったりするのだろうか?)


(次に、床に無数に散らばっている黒い粒……これは引力片(いんりょくへん)って呼ばれていた。……名前からして、Aスタジアムが引力汚染区域?ってのになったのはこれが原因だと思う。これも意志汚染と同様、どう危険なのかは分からない)


(そして足元にある白い鉄球…………ん?!この鉄球少し開いて………中にあの黒い粒がたくさん!)


(この鉄球……攻撃以外に引力片(いんりょくへん)と呼ばれてた、この粒をばら撒く役目もあったのか……)


(で、この鉄球が僕に激突しなかった理由はいまだ不明……)


(自動音声いわく、今Aスタジアム内にいる人間はここから出ることが出来ない……そして観客席にいるファイパ技術者は、コート内にいる技術者と違って戦闘許可が出ていない。その為、ファイパの力を使えない…はず)


(危機的な状況……のはず……でも観客席から逃げる人や、校長以外に黒い男と戦おうとする人が誰一人いない……)


(考えられる理由としては…………FTC(エフティーシー)の規則がものすごく厳しい……またはあの黒い男が僕が考えているよりもずっと強くて、逃げることも戦うことも出来ない………それとも校長1人で何とかなるという考えなのか……他にも思いつくけどキリがない……とりあえず戦わない理由の1つとして人質(ミア)ちゃんがいるからというのは確実…………)


(あの男…なんで……ミアちゃんのおでこを…………傷つけた!!!!)


キプナはミアの虚ろな瞳を思い出した。

怒りのようなものがキプナの思考を止め、コート内の黒い男に意識を向けさせた。




黒い男は口を開きスピーカーを介して喋り始めた。



『ワタシはリノク アイ ウーブマブ』


『主の言霊を授かりし者』



 

(…リノク……あの男の名前……)

 


 

そしてリノクと名乗った男は、胸の前で指を組みやや下を向き、祈る様に唱え始めた。

 


『ニ ソウヲソウシテントナルヲノゾム』



 

(!……急に何を言ってるんだ?!……知らない言語?)


 


『ニ ナキニヲノゾム』



『テン ニヲオモウ テン ソウヲノゾク』


 

『ニ テントニソウスルヲノゾム』


 

『二ニ テントニトソウルヲノゾム』



 

(…ダメだ、やっぱ何言ってるか分からない………知らない言語だ…多分………Hsilne(フシルネ)ではないのは確かだ)




『ニ ニノトモトナル』



『テン ニトソウル』



『二ニ ニトソウル』


 

『ニノシ チニヌレテンニフル』


『ニノシ ソウボウヲスイシテントナル』


 


(ん?……相変わらず何言ってるかは分からないけど……なんだか……カイさんの出身の自治区で使われてる言語…漢片平(カンカタピラ)に似てる…)


(…………!!!)



コート内に動きがあった。

黒い男リノクが胸の前で指を組んだまま、刃も持たずに校長のいる方向にゆっくりと歩み始めた。

その間も謎の言葉を唱えるのをやめない。

対する校長は前傾姿勢で黒い男を凝視している。


 

 

『ニ テンニフル テン ニトユワレル』


 

『テンワハナタレタ』




『テン ニニチヲササグ』


 

『ニ ソウトテンヲソウル』


『リ ホウショク ノヒトリトカサナルトキ

  ニ ニノトクエソラジミノルニトナリ

   ニノノゾミ ニニハナツ』


 


『ニ ソウヲノゾミ ソウヲノゾマズ』



 

リノクは指を解いた。


 

 

『エ プルトン エル ポンス ア トゥ ル モーンドゥ』





キュルルルルルルルッ




一対の刃が黒塗りの地面を自走し、持ち主の元へ向かっている。




『願い嘆け観測者共』


『ジギタリスは朽ち果てぬ 爾のソウを終える迄』




 

ギュイン゙ッッッ!!!!!


リノクの斬撃が校長の頬を(かす)め、地面と校長の身につけているマントを切り裂いた。



ビュンッッ!!




キプナは2人の姿を見失った。そして



 

ドゥッグォーーーーーーーン゙ン゙ッッ!!!


 ガッ! ガゴン゙ッ!! ガガガガガガガガ!!!


  グヌュオォォォォォォォォォォォン!!!



耳をつんざく騒音が再びスタジアム内に響き始めた。

戦いが始まった。


既にコート内の地面は原型を留めていない。

客席は無数の白い鉄球に襲われている。

そしてスタジアム中に広がる黒い液体が立体的に動き出し、コート内を高速で飛び回る校長を何度も広い表面積で包み込もうとしている。


(マズイ!!しゃがまないと!…………!!!)


 

ビュン ビュン ビュン ビュン ビュン!!



キプナが目を凝らすと、観客席を縦横無尽に飛び回る黒い残像が見えた。だがスタジアム中に広がる黒い液体のせいですぐに見失ってしまう。



(あの男まさか!!観客を盾にしているのか?!……これじゃ校長が安易に攻撃出来ない!)


(……それにこの黒い液体!動くのか!……………!!確かこれに囲まれると死ぬって誰かが!!だからあの液体は何度も校長を包もうとしているのか?!それにこの色、あの男が景色と同化できてしまう!……この状況…校長一人でなんとかなるのか?!)


(…… あんなにジグザグに飛び回ってちゃ、背中にいるミアちゃんの体がもたない!!!)


 

ガン ガン ガン!


3つの鉄球がキプナ近くの席や床に、粒をばら撒きながら激突した。


(危なかった!……メガネを外しておこう……当たって割れたら大変だ……)


キプナはメガネを外した。

景色は曇らない。

だが全てのものが赤くなり、心なしか世界が少しスローに見える。



ビュン ビュン ビュン ビュン ビュン!



リノクは観客席を経由しながら時折り、コート内の校長に急接近し斬撃を繰り出しては観客席に逃げるを繰り返している。

対する校長は、空中にいる瞬間は手のひらや足の裏から謎の渦巻く光球を発射し、地に足がついている瞬間は地面を(あやつ)り、襲いかかる白い鉄球や黒い液体、リノクの斬撃を退(しりぞ)けている。


 

ギュンン゙ッッ!!!!

 

防戦一方の校長だったが、リノクがコート内空中に現れたタイミングで地面を棘状にし攻撃を繰り出した。

リノクはその攻撃に対し、空中で体を横に半回転させバックパックを地面に向けた。

校長の地面攻撃はピタリと止まった。




クソテロリスト!!外道背面武装(ミア)をおろせ!!!

 

 皆しゃがめ!!校長が狙撃できない!!


  避けろ!避けろ!! イッテェェェェ!!!


   出来るだけ粒の多い所から離れろ!!


    変に動くな!!引力片はアイツの支配下にある!!あえて作動してないだけだ!!とにかく目立つな!!


     瞬殺!!瞬殺!!木炭男は瞬殺!!!


      ミアがジャムなっちゃう!!!おろせっ!!!


       校長ッ!!!早くしないと!!ミアが死ぬ!!!


        ミアがッ!! ミアがッ!!



キプナだけでなく他の観客もミアの心配をしている。

だが誰もリノクを止められない。



虚ろな瞳がこちらを覗いている。


 

キプナは走り出した。

宝石の様に美しい、あの大きな青い瞳を取り戻すため。


 

キプナはあの2人のいる場所へ向かっている。

試合に出ないのに何故か完全武装している、暴言厨のあの2人の元へ。



あの2人は瓜二つの格好をしている。

首から下はガーソン校長と全く同じ格好でFTC(エフティーシー)のロゴマークつきのマントに、FTC(エフティーシー)公式の戦闘服。

ガーソン校長と違う点が2つある、まず頭に妙な形状のヘルメットをしていること。当然顔は見えない。

2つ目は黒い男リノクが持っているものと全く同じ、一対の刃を両手に装備していること。


 

「あの お願いがあるのですが」


2人の元へ到着したキプナは背後から声をかけた。


 

「クソが!誰ダッ!!!ブチ殺………………っ??!!」

「瞬殺ッ!誰だッ!!!ブッ殺………………っ??!!」


2人が背後を振り返ると、腰パン姿のクソデカマフィアがこちらを見下ろしていた。


「…………クソ……何の用ダッ?!」

「…………瞬殺……何の用だッ?!」


2人は震え声で何とか口を開いた。



「僕をコートに投げてください」

 


「…ヘッ!?!?」

「…はッ!?!?」







グッ


意識を取り戻したヴェイザーは上体を起こした。


(!!……地獄だな…)


(……どこを見ても真っ黒。コートは原型がない……)


(……粒?……これ引力片じゃないか!それも大量に……だが全部の粒に同じヤツのファイパが黒い液体を経由して流れている。これなら自然には作動しない)


ビュン  ビュン  ビュン


(!! 木炭男!!…………なるほどアイツは俺たちを盾にしているのか。…あの校長が防戦一方)


(…こんな状況でも人が大勢いる……俺が気絶してる間にAスタジアム(ここ)が意志汚染区域と引力汚染区域に指定されて出られなくなったのだろう……)


(……そして観客席裏の屋内に逃げようとすれば、黒い液体に囲まれるか引力片を作動されるかで…死ねるな)


ヴェイザーは左を見た。

 

(…やはりミアとキプナがいない………カイシュン!!)


ヴェイザーはうつ伏せのカイシュンを発見し駆け寄り、仰向けにした。


(よし…息はある。……コイツも身体操術(しんたいそうじゅつ)使ってたから、おそらく大丈夫だろう)


ヴェイザーは周囲をよく見渡した。


(…………キプナ!?!?)


ヴェイザーの目には、キプナが観客席の1番下で、完全武装した2人に尻と両足の裏を支えられ(かつ)がれているのが見えた。

キプナはジャケットを脱いでおり、メガネとネクタイも外している。


(……キプナ、お前そこで何してる?!!……というかあの2人の格好……メソポトとスナイレンじゃないか!!あいつら何故キプナを担いでいる?!)


(!……キプナ左手に何か持ってるな……アレは意志技術武装(ウィルウェポン) MTBlade(マットブレイド)!……を連結したもの)


キプナはMTBladeのハンドルグリップを薬指と小指を持て余した状態で握っている。

元々長い刃を2つ連結して更に長くしているはずだが、キプナが持つと、前腕部より多少長い程度だ。


(…あの2人の内どちらかから借りたのか……使い方分かるのか?……一体何をする気だ)


(……そしてキプナはいたが、ミアはどこに?!……確か木炭男に何かされていたはずだ!!)



ヴェイザーは飛び回る木炭男を目で追った。


(……まさかあのバックパックの中に!…いやそうとしか考えられない!……あの木炭男、何が目的だ?!わざわざミアを人質取らずとも、観客席にいる俺たち全員が人質の様なものだろう……)


(……ミアはバックパックの中…人質…………キプナ!!お前まさか!!あの2人に自分を投げさせて、あの木炭男を倒すつもりか!?!!)


(狂ってる!!そんなことしたらお前の体はバラバラに!!……そしてメソポトとスナイレン、お前ら何故素直にしたがってる?!それと体重約600kgのキプナを2人がかりとはいえ軽々と担ぐのは身体操術を使わない限り不可能!!許可はまだ出て…………)


ヴェイザーは腕時計型情報端末コイルフォンを起動した。


(!!…1分前に許可が出ている!だがあくまで緊急時に限…………!!!!)



ビュンッッ!!!


木炭男がコート内に現れ、校長の死角から斬撃を繰り出そうといている。

 


ヴェイザーの体は駆け出していた。

理由はメソポトとスナイレンがキプナを担いでいる手をグッと手前に引き、投げる動きを開始したからだ。




「止めろッッ!!!!ソイツはッ



ブン゙ッッッッ!!!!



 

叫んだが遅かった。

キプナの体はものすごい勢いで、コート内にいる木炭男の背後に迫っている。

ヴェイザーには空中にいるキプナの両脚がグチャグチャになっていく様子がよく見えた。



(なんてことだ………ん?!!あいつ左手にMTBlade(マットブレイド)以外に何か持ってる…アレは拳銃!)


ヴェイザーはキプナがMTBlade(マットブレイド)のハンドルグリップと、銃口を真後ろに向けた拳銃を重ね持ちしているのを見た。引き金に親指をかけている。


(バカッ!!!お前は知らないだろうが…撃てたとして、近接戦闘中の技術者に基本弾丸は効かない……たとえその拳銃が特殊な意志技術武装(ウィルウェポン)だったとしても技術者でないお前には扱えない……)


 


ギュンッ!!


崩壊していく体の痛みに耐え、何とか意識を保ったキプナは、木炭男の後頭部やや右側目掛けて刃を振った。




バッ!


木炭男はその攻撃を紙一重で左によけた。

 

キプナの体が木炭男の右の虚空を通過する。



 

ズパンッッッ!!!!

 

地面に接触する直前、キプナは引き金を引いた。


 


ガゴッッ!!!




放たれた弾丸は木炭男の耳当てを貫き、頭蓋内部へ侵入した。



 


ゴ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ



キプナの体は針状に変形していた地面を無数に薙ぎ倒しながら落下した。


木炭男は耳当てに空いた穴から血を流し、地面に倒れた。



 


(……弾が…完璧に命中した…………なぜ………)


(いやそんなことどうだっていい……キプナの四肢が………グチャグチャに……内臓はどうなって………生きて…いるのか…………それにキプナが……人殺しに……………あの心優しいキプナが……なぜこんなことに……)




会場には悲鳴や歓声、避難誘導の声が響き、かつて無いほどに混沌としている。

だがヴェイザーの耳には一切響かない。




コート内の校長が木炭男の方に駆け寄り、バックパックをこじ開けた。

中からは見慣れた青髪の女性が額に傷を負い、四肢を背中の後ろで小さく折り畳まれた状態で出てきた。


(ミア!!!)



(……………2人とも………たのむ…生きててくれ!!!!)

 

ヴェイザーは観客席から身を乗り出し、コートに飛び降りた。












Hsilne

漢片平


 Willcombat

 意志技術戦闘(いしぎじゅつせんとう)


 Willhazard zone

 意志汚染区域(いしおせんくいき)


 Pullhazard zone

 引力汚染区域いんりょくおせんくいき


 Pullbit

 引力片(いんりょくへん)


 Lynowk I Ubmab

 リノク アイ ウーブマブ


 soul of language

 言霊(ことだま)


 Willweapon

 意志技術武装(いしぎじゅつぶそう)


 Mesopot

 メソポト


 Snairem

 スナイレン



ラクガキ


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

正直、第2話と第3話無くても良かった気がします…

第5話の投稿はだいぶ先になります。

渋爪根介です。見苦しいですが予防線を張ります。

エピソード本文、前書き、後書き、前書きと後書きに含まれるラクガキ等はド素人が作成したものです。絵に関しては作画崩壊してます。読者の皆さまを様々な理由で不快にさせる場合があります、大変申し訳ございません。その際は気軽にご意見ください。

思ったことがあれば何でも気軽に感想とかに書いたりしてください。お願いします。励みになります。

少しでも読みやすくするため(建前)、エピソード本文、前書き、後書きを不定期に改稿したりしています。毎度申し訳ないです。

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