表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/4

3.蜃気楼

ウォォォォォォォォン



「…………ねぇあの人のとこに預けて大丈夫かしら?」


「いつも良く面倒見てくれてるだろう?大丈夫さ。僕ら2人は今から事情聴取。ドギルノイズでヴェイザーの面倒見てくれる親族は父のみ。1人でホテルに居させるは論外だ。」


「でもあの人、最近ヴェイちゃんに妙なこと吹き込んでる。それでヴェイちゃんそのこと私達に得意気に語って……学校でもそんなだと友達いなくなっちゃう……それにあの人、何年も前にイルイヴイドゥンっていうカルト教団にいたんだっけ……やっぱりホテルで待たせない?」


「だめだ」


「…ヴェイちゃんもうすぐ10歳よ。1人で過ごすことにも慣れさせないと」


「だめだ。とにかく今はヴェイザーと父が居る時に放火されなかった事を幸運に思おう」


「マイホームが全焼してもポジティブシンキングかぁ…」


「保険入ってたから大丈夫さ」


「……ぁっ ヴェイちゃん起きたのぉー!」


「……うん」


本当は狸寝入りしていたヴェイザーは、母の小動物を()でる時に使うようなムカつく声に眠たそうに返事した。


「父さん、放火したの誰なの?」


「まだ知らされてない。今、ファイパ技術防衛及び探査隊…」


FTC(エフティーシー)」ヴェイザーが口を挟んだ。


「そう。そのFTC(エフティーシー)と警察の人達が共同で犯人を追っている。」


「…あと、その犯人は今父さん達の向かっているお爺ちゃんの家とは逆の方向に逃げた。犯人に殺されるなんて妄想は不要さ。」

 


『目的地に到着しました。降車する前にお忘れ物のないようご注意ください。』


黒い球状の乗り物、ポートボールが自動音声でヴェイザー含む3人の降車を促した。


 


「ヴェイ坊!よくぞ来た我が家へ!」


気づくとヴェイザーは自分を快く出迎える祖父の目の前にいた。祖父の後ろには1人で住むには大きすぎる3階建ての館のような豪邸がある。


「突然の連絡とお願いで申し訳ありません。お義父さん、ヴェイザーをお願いします。」


「ええんじゃ。2人とも災難じゃったな……ヴェイ坊は私にお任せあれ!」




「うわぁ!すごい!爺ちゃん何ココ!」


これまた気づいた頃にはヴェイザーは祖父の家の地下、ドーム状の薄暗くだだっ広い空間におり、感嘆の声を漏らしていた。


「真ん中に何かある!」そう言ってヴェイザーは足元の僅かな光源の道に沿ってフワフワと走り出した。


「気をつけるのだ。段差でコケるでないぞ」祖父が注意喚起し、ヴェイザーの後を杖先が異様に太い杖をつきネクタイをプラプラさせながら早足で追う。


「地球儀と、この大きいのは……?」


「そう地球儀。と、それは投影機じゃ」祖父が少し息をあげながらも答える。


カチッ


祖父が地球儀と投影機が乗っている台の側面どこかのボタンを押した。

すると天井に無数の輝く点が現れ、先程まで薄暗かった空間を煌びやかにした。


「すごい!何コレ!!」


「さすがに覚えとらんか……かなり前、約束したはずじゃ、もしヴェイ坊が私の家に来たら面白いものを見せると」


「あっ!うん。した!」


「流石じゃの!ヴェイ坊の記憶力は」


「爺ちゃん!もしかしてだけど、これが……真実の夜!!……のレプリカ?」


「ほぉ!ヴェイ坊は賢いのぉ!」


「そう!これこそが……真実の夜!!……この投影機はそれを映し出す装置!…」


「そしてこの施設はかつてプラネタリウムと呼ばれていたそうな……」


惑星(プラネット)……」


「そう!惑星(プラネット)が由来じゃろう。とは言いってもあの光のほぼ全ては恒星じゃがのぅ」


「太陽みたいな星のことだよね。……じゃあ、このキラキラ全てが!!」


「やっぱ爺ちゃん正しいよ!こんな夜空、無から創造して映し出すなんて無理だよ!爺ちゃんに教えてもらったこと、学校の皆んなにも教えたけど誰も信じてくれなかった。けど…絶対!太陽系はヴォイドにポツリと浮かんでるんじゃなくて星の海を漂ってるんだよ!正直、爺ちゃんの言ってること皆んなの反応見てたら、嘘なんじゃないかって少し疑ってたけど……今日のコレ見て確信した!星の海が観測出来ないのは世界の支配者が悪魔の力で宇宙を覆い隠してるからだって!!」


「…………ヴェイザーよ……観測したモノが精巧だからという理由で何でも信じるのはよろしくない…目で捉えられる世界が真実とは限らないのだ。それに人間は目で捉えた事のないものも精巧に創造できるのだ、例えば神。例えば天使。そして悪魔」


「……でも爺ちゃん、神も天使も悪魔も皆んな人や獣や虫とかこの世の一部を特徴として持ってるよ?……」


「ほぉ…賢いのぉ!だとすれば星の海が観えなくとも金星、木星、火星、水星は光の粒として見えるじゃろう?ならばそれを参考にこのプラネタリウムを作ることも不可能じゃないのだ」


「…………………………」ヴェイザーは返答に困り黙り込んだ。


「おっと!つい熱くなってしまったわい!すまんのぅ…ヴェイ坊……自分で吹き込んでおいて、純粋に信じる気持ちを…愚弄してしもうて…」


「……爺ちゃん、月も見ることってできる?」


「もちろんじゃ。そう言えば今日は新月じゃったのぅ。この投影機は実際の時間と場所を反映しておる、じゃから観えんかったのだよ。せっかくじゃから、プラネタリウムでの月も観ておこうかのぅ」


そう言い祖父は台の下辺りを開きタブレット端末を取り出した。


「満月でよいか?」


「うん」


「……えぇと…どうやるんだっけのぉ…」祖父は柔らかい地べたに腰を下ろし、ポチポチと試行錯誤している。


ヴェイザーは台上の地球儀のある一点が赤く光っているのに気づいた。


「爺ちゃん、光ってる」


「現在地が光っておるのだよ」


ヴェイザーはその光に触れた。すると投影機がグッと少し動いた。


「その光を指でずらせば、現在地以外の空も見えるぞぃ!頼むから昼空にはせんどくれよぉ」


ヴェイザーは構わずその光をドギルノイズの真裏にずらした。


グオーーーーン!


「うほっ!眩しっ!」

 

投影機がグルっと回り一瞬、場がピカっと明るくなった。が、再び暗くなった。


「あれっ…真裏だからてっきり明るいと思ったんだけど……暗い…星も何も見えない。バグった!?」


「壊れておらんぞぃ。ドギルノイズの真裏の空はずーっと厚い雲の層で覆われていて昼でも夜のように暗いのじゃ」


そう言われヴェイザーが地球儀を見ると、赤い点を中心に灰色が円形に広がっている。

パッと見、その灰色はかなり広い範囲を占めている。数字で考えると地球儀の表面積の20分の1ぐらいだろう。


「学校で習ったじゃろぅ…その灰色の部分は現在FTC(エフティーシー)が調査中で詳しいことはわかっとらんと」


「うん」


「好かん連中じゃよ…イルイヴイドゥンと同等かそれ以上に……」


フゥン    グオーーン


天井に投影されていた暗闇が消え、少しして再び星の海が2人を照らした。

地球儀の赤い点はドギルノイズの上に戻っていた。


「ほれ、月じゃよ」


「うぉぉ!」


黄色に輝くC(シー)字型の満月が星海を背に輝いている。


泡殻(ほうかく)の中に星が入ってるみたい!!」


「ほぉ!泡殻(ほうかく)を知っておるのか!やはりヴェイ坊は賢いのぉ…」


「誰でも知ってるよ!月の黄色くない、透明の部分のことでしょ?」


「そうじゃ。私がヴェイ坊くらいのころは月はC(シー)字の部分のみで、その上を球状の透明な外殻が覆っているなど夢にも思わんかった。最近の子らは凄いのぉ」


「ねぇ爺ちゃん。月は横側から見たらオムレツみたいな形なんでしょ?」


「そうじゃよぅ」


「でもいつも月はC字の形」


「そうじゃのぉ」


「たしか月も地球と同じでクルクル自転してるんだよねぇ?」


「そぉじゃそぉじゃ」


「ならなんでいつもC字の姿しか見られないの?」


「それは月の自転周期と公転周期が一致してるからじゃ」


「どうしてその周期が一致していると同じ姿しか見られないの?」


「じゃ試してみるかのぉ。ヴェイ坊は月じゃ、私は地球。私の周りを体の正面を私に向け続けながら一周…つまり公転するのじゃ」


ヴェイザーは祖父から数メートル離れた後、カニの様な横移動で言われた通り、祖父の周りを一周した。


「したよ……」


「よし。賢いヴェイ坊よ、私を公転する間に自分の体の向きがどうなったか考えるのだ」


「……………………!! ちょうど一回転してる!なるほどぉ…だから月はずっとC字なんだ!」

 

「ほぉ!もう気づくとは賢いのぉ!!」


「…あっ!ねぇ!回ってる間、上見てて思ったんだけど!…あそこから……あの辺りまで線状に雲みたいなのが輝いてる!あと、その中の……あれ!他より目立ってない!?他にもその外の……あれと…あれ!」ヴェイザーは必死に身振り手振りし祖父に伝えた。


「ほぉおぉぉん!!ヴェイ坊は賢者じゃぁ!!」


「ゴホッ!グホ!ヴゥン゙!……………すまん、むせた……あの線状の光る雲みたいなのは星がたくさん密集している所じゃ。そしてヴェイ坊が示した3つの星は、今観られる星の中で最も明るいモノじゃ。よく気づいたのぉ!!」


「でさっ…あの星の密集した所と、あの3つの星には名前とかないの?!」


「あるぞぃ!」


「まずあの星の集まりは川じゃ……神の川と呼ぶ者もおる」


「川………流れてるの?」


「いや川に似てるだけじゃ。動いてはいるがの」


「何で神の川なの?」


「それはわからんのだ、すまんのぅ」


「ん…じゃあ星の名前!」


「よしきた!まず川の中にあるのが――――――――――






         でさぁ、ソイツ衛星写真見た後も 地球は平面なんだー って言うんだよ」


「ほっほっ、面白いのぉ。まぁドギルノイズの滝近くで育てば、そう考えてしまうのじゃろうなぁ」

 

「……おっと…随分と話し込んでしまった…お母さんとお父さん、まだ帰って来ないからのぅ……そろそろ寝支度するかのぅ」


「えぇ……まだ話し足りない……」


ポポパン!ポポパン! ポポパン!ポポパン!


「ぬぉ?!呼び出し音……帰ってきたかのぉ」


「では、ここを出るとするかのぉ」


「…帰りたくない……」


「ほほ…そうか。では呼んで来るからしばらく待っておれ」


そう言い祖父はヴェイザーを置いて地下室から出ていった。

1人で居てもつまらないのでヴェイザーはこっそり祖父の後をつけた。


 

祖父は玄関に到着。ヴェイザーは家に入って右手に進んだ先にある、曲がり角から覗いている。


「待たせてすまんのぉ。今開けるのだ」そう言い祖父はドアを開錠し押し開いた。


玄関先には両親ではない誰かが1人。外は暗く家の中は最低限の照明しか点いていない為、容姿がよくわからない。完全に夜に溶け込んでいる。



ズドンッッッ!!!!


轟音と火花が夜をぶち抜いた。



ヴェイザーの頭は視覚情報の処理を拒んだ。



カコン カカココン  パラパラパラパラ


薬莢(やっきょう)と放たれた弾丸が(とも)に地面を(はず)む有り得ない音を合図にヴェイザーの頭が回り始めた。

 


撃ったのは祖父だ。

祖父はドアを開けチラッと玄関先の人物の顔を見上げた瞬間、傘立てから散弾銃を抜き、杖ごと両手で持ち胴体目掛けてぶっ放した。

これならまだあり得る光景だ。しかし同時にあり得ないことが起きた。

祖父の放った弾丸は相手の体を抉る(えぐ)ことは無く、数cm手前の空中で止まり、そのまま力無く地に落ちた。



ドッ


祖父が床を蹴り、体は正面に向けたままかなりの距離後ろに跳躍した。ヴェイザーの居る方に向かって祖父の背中が近づいて来ている。

いつも腰を曲げ杖をつき、ネクタイをプラプラさせながら歩いている姿からは想像出来ない人間離れした俊敏さだ。


ドッドッ!


祖父の動きを合図に待機していたのか玄関先にいた人物含め2人が家の中に乗り込んで来た。

 

 ギギギュイーーン


それと同時に3階からと思われる遠い場所から微かに謎の金切り音が聞こえた。ヴェイザーはあの2人の仲間が家を破壊し侵入してきたのだろうかと妄想した。

 

玄関から侵入した2人は全く同じ武装をしている。

黒いガスマスクに全身を覆える黒いフード付きのマント、手にはサイレンサー付きの小銃を抱えている。

ヴェイザーは一通り目視した後、顔を引っ込めた。



ズドドンッッッッ!!!


「グァッッ?!!」

「ウグァッッ!??」


カカココン

 

 

銃声と苦鳴もしくは断末魔らしき声が聞こえた。

そして今回は薬莢の弾む音のみだ。

ヴェイザーは恐る恐る曲がり角から顔を覗かせた。


 

祖父ではない2人が無惨な姿で連なり倒れていた。



「ヴッッ!ウッッッ!」


ヴェイザーは胃から込み上がるものを必死に抑え、冷静でいることに努めた。

とにかく今は祖父が生きていることを幸運に思おうと努めた。


「…! ヴェイザー!」


祖父は息を切らしながら曲がり角にいるヴェイザーに駆けつけた。


「え……あっ…」


ヴェイザーは本能的に人殺しの祖父から半歩後退(あとずさ)った。


「ヴェイザー…………私をまだ信じてくれるなら…ついてきて欲しい…早く移動せんとマズイのだ……」


「……………爺ちゃんは悪なの?……」


ヴェイザーが震え声で聞いた。


「……悪…じゃな……極悪人じゃぁ……孫を…死の淵に招くなど……」


ゴオオオオオオオオオオオ


「燃えてる?……………………!!」


ガゴーーーーーーッン!!!!

 


近くの天井が落ちた。



ゴオオオオオオオオオオオオオオ



そして2階から噴き出した炎がヴェイザーに襲いかかる。


ビュン


「ウグッ!」


突然、内臓がひっくり返るような衝撃が胴体に走った。

祖父が物凄い速度でヴェイザーを抱き込み、玄関前で行った人間離れの跳躍で間一髪、ヴェイザーを火の手から救ったのだ。

 

そして祖父はそのままヴェイザーを抱え、床を一定間隔で蹴り、速度と超低空飛行を保ちプラネタリウムのある地下の入り口に向かい、到着した。

そこでヴェイザーは降ろされた。


祖父は死にそうなほど過呼吸になりながらも床に埋め込まれた地下への入り口を開錠している。

ヴェイザーはその隣で嘔吐、祖父に疑念を抱く余裕は今無い。


ヴェイザーはひとしきり吐いた後、祖父に質問した。


「…………なんで上の階が燃えてるの?!火事なの?それとも他にも誰かが家に侵入したってことなの?!」


「……そ…うじゃ……侵入……者…………」

 

「…なら、なんで外に逃げないの?!…あそこは行き止まりだよ?!」


「…外は…………奴らの゙…仲間が……待ち構えて……るかも知れん゙……プラネ…タリウムに゙……ポート…ボールが……それで脱出じゃ……錠を解いた…開けとくれ」


「……あ、うん」ヴェイザーは聞きたいことが山ほどあるが祖父の息が整うまで待つことにした。


「すまぬ……これらを…代わりに持っとくれ……」


そう言い祖父は硝煙臭い散弾銃と杖を手渡した。


「重ッ!」


銃が重いのは分かっていた。だが杖も何故か同様に重い。



地下階段を20段ほど下り、手狭なエレベーターホールに出た。

手すりを掴んでる祖父に杖を返した。

祖父はコツコツゆっくりと急ぎつつ、エレベーターの乗り場に寄った。


ポチポチ


祖父は操作盤の呼び出しボタンを押し、乗場戸に耳を当て寄りかかっている。

 

「ぬぉぉぉぉ……動いておらぬぅぅ……」祖父はその場に力無くずり落ちた。


「……家が燃えとるのに……警報器が鳴らんから……まさかとは思っとったが……うぬぅぅ………電灯は点いておるのにぃ……」


「爺ちゃん…階段で下りるしか…」


「ぬぅぅ…それしかあるまい……」



コツコツコツコツ


再び2人は階段を下り始めた。


「ねえ…さっきみたいにビュンビュンして下りられないの?というかあの凄い力は何なの?!」


「ファイパじゃ…聞いたことあるじゃろぅ……それによる身体操術(しんたいそうじゅつ)………身体能力を一時的に何倍にも高める……FTC(エフティーシー)が独占しとる(わざ)じゃ…」


「……あと…今は……疲れて……使えん…」


「でも急がないと追いつかれる!それに!ポートボールもエレベーターみたく止まってるんじゃ!………」


「たぶん大丈夫……のはず…当分は…この地下は見つからんよ……おそらく。…そして…地下の存在が……まだバレとらんということは…地下深くにあるポートボールは…無事動く……はずじゃ…」


「………ねぇ、アイツら何なの?!俺の家を放火した奴と同一犯なの?それとも、まさかFTCなの?!FTCがこんな事しているの?!」


「…………さぁな…私は若い頃、色々ヤンチャしてたから…その恩返しかのぅ……放火犯とは関係ないとは思うが………わからんのぉ………………」


「…………もう何が何だかよくわかんないよ……でも心当たりが有るなら、こんな事になる前に…もっと対策しようがあったんじゃ…」


「…ほほ…これでも怪しまれ放題な頃、色々手を回した方なんじゃがのぅ…………」



「………………あ!アイツら弾、効かなかった!なんで?!でも…その後……弾食らって………死……」


ヴェイザーはあの2人の死体を思い出し、また吐きそうになった。


「のぉ!大丈夫か!……怖い思いさせてすまんかった」


祖父は痙攣する右手でヴェイザーの背中をさすった。


「……もうダイジョブ……それで…何で…弾が空中で停止したの?」


「あれもファイパによるもの……意志技術紋業泡殻いしぎじゅつもんごうほうかく。ファイパの力を使えぬ者の攻撃や衝撃などを自動で防ぐ。これまたFTCが独占しとる(わざ)、私には無い術じゃ。」


「……でも!2発目は……当たった………」ヴェイザーは再び思い出し吐きそうになったが耐えた。


「それじゃよ」祖父はヴェイザーの持つ杖を指差した。


確かにこの杖は異様だ。重いし杖先が妙に太い、そして銃よりも硝煙臭い。


意志技術武装(ウィルウェポン) SSGLod(エスエスジーロッド)。散弾の出る棒のようなものじゃ」


「ファイパの力を持つ者は先に話した身体操術で大体の危機を回避できる。じゃが弾丸は難しい。そこでこれまた先に話した意志技術紋業泡殻で避けきれぬ攻撃は自動で防いどる。」


「じゃがSSGLodは意志技術紋業泡殻を無効にする工夫がされとる。工夫としては弾速が遅いのと、発射された弾に細い糸のようなモノが付いてて、それが杖と紐付いておることじゃ」


「へぇ…その工夫が何で防御を突破できるの?」


「着いたのだ。それは今度教えるのだ」


 

プラネタリウムの中に入った2人は早足で中心に向かった。


カチカチカチカチ


地球儀と投影機の乗った台に着くなり、祖父は側面のボタンを操作した。すると


ズォーーーーーーーーン  ガゴンッ カチカチカチ


この施設にある壁面全体がグルッと動き、元々扉の無いプラネタリウム出入口を壁面で塞いだ。


「……よし。ヴェイ坊、ちと下がるのだ……………あともうちょい下がるのだ」


ヴェイザーは言われた通り台から離れ、祖父も続いて台から離れヴェイザーの隣に来た。


プウォウォン フウォウォン フウォウォン


そして警告音が響き、床にはWARNINGの黄色い文字の羅列が表示されている。

投影機と地球儀の乗った台が床の下に吸い込まれ、代わりに黒い大きな球体ポートボールがヌッと現れ、床から数cm浮いて静止した。


トトトト トトトト


祖父がポートボールに近づき球面の上で指を踊らせた。すると近くの球面がスルッと上部に収納され入口になり、下からはスロープがスッと出てきた。ヴェイザーはブドウを連想した。


「さぁ乗るのだ」


ヴェイザーは祖父に散弾銃を返し、スロープを上り座席に座った。



ドッドドッドッゴォーーーーン!!!!!


揺れと物凄い落下音がした。



「ぬぉ?!マズイ!!!」

 

祖父は再び球面で指を踊らせる。


スルンッ ガチィーーン


ポートボールがヴェイザーだけを乗せて閉じた。


「爺ちゃん!!!」


独り閉じ込められたヴェイザーはポートボール内にある操作出来そうなもの全てをガチャガチャ動かした。しかし反応が一切無い。


ポートボールの内側からは上下左右360°外の様子が(うかが)える。

祖父はヴェイザーを置いて、先程まで出入口が存在していた壁付近へと向かった。

散弾銃と杖を両手でガッシリと重ね持ちしている。



『緊急走行路形成システム作動。現在、走行路を形成中。発進までしばらくお待ちください。』


少ししてポートボールから反応が返ってきたがヴェイザーの望むものではなかった。


「何言ってる!……俺を出せ!爺ちゃんを回収しろ!!」



ギギュイン゙ッ!!


文字通りの金切り音と共に、祖父の近くの壁が瞬く間に紙を切り裂くが如く、いとも簡単にバラバラにされた。

 

そして祖父の前に3人の黒ずくめの侵入者が現れた。

その内の1人は蛇のようにグネッと曲がった大きな黒い刃をトンファーのように両腕に装備している。壁を切断したのはソイツに違いない。



ガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!


侵入者2人の小銃連射の音が戦いの火蓋を切った。


 ドビュン!


それと同時に、刃で武装した侵入者は祖父を無視しヴェイザーの居るポートボールに向かって跳躍した。



ドッ!


祖父は小銃連射を低姿勢かつ地面スレスレの跳躍で(くぐ)り抜け、2人の足元、まとめて片付けられる位置に接近


ズドドンッッッッ!!!


祖父の放った散弾を2人は左右に分かれて避けた。

しかし右に避けた者の上半身は蜂の巣になった。

祖父の手元をよく見ると散弾銃の銃口は真っ直ぐ前を向いているが、杖の先は右を向いている。



『走行路形成完了。発進しま


ギュインッッッッ!!!!


侵入者の斬撃がポートボールの上部を両断。開いたガチャカプセルのような見た目になった。

地下脱出の芽は潰えた。

座席足元で縮こまっていたヴェイザーは切断されなかった。

だが刃を持った侵入者が座席の上で足元にいるヴェイザーを見下ろしている。そして容赦なく刃を


ビュンッ!!!


散弾銃が刃を持った侵入者後方から銃口を向けて飛んできた。


スパンッ!


目の前の侵入者は反射的に飛び上がり、ヴェイザーを切り下ろすはずだった刃で散弾銃を切り上げた。


ズドンッッッ!!!!


その隙を祖父が逃すことは無かった。

先ほど蜂の巣にした侵入者を背負い、背後からの銃撃を防ぎ接近。

飛び上がった侵入者の右脇腹から脳天にかけてを斜め下からぶち抜いた。



ドンッ


刃を持った屍が血を撒き散らしながらポートボール前方に落下した。


祖父は(たまよけ)を背負ったまま、文字通り半壊したポートボールに飛び乗った。



スパンッ



「あ…」



ゴドン



ヴェイザーは祖父の頭を膝枕している。



ドカッ



続いて屍を背負った祖父の体が隣の座席にもたれ掛かってきた。

ヴェイザーは頭だけの祖父を膝枕している。

 

 

そして状況を理解した。

先程まで祖父の後ろを小銃で追撃していた侵入者が接近し、屍からもぎ取った刃で祖父の首を切断したのだ。



小銃と刃を持った侵入者がヴェイザーを見下ろしている。

 


ヴェイザーは祖父の頭に目を落とす。

開き切った蒼い瞳がこちらを見つめている。

ヴェイザーも祖父をまじまじと見る。

フサフサの白い長髪。

薄く白い眉。

シワとシミだらけの少し黒ずんで見える白い肌。

おでこの右側に茶色のシミがたくさんある。

口周りは髪の毛のように白く長い髭が生えている。

下の方から溢れる赤色が祖父の白色を侵していく。

祖父の赤色が今まで感じなかった吐き気を催す異臭の感覚を呼び覚ました。


再び頭上を見上げた。



刃がゆっくり迫ってくる。



おんなじだ。さっきもそうだった。

そう…こんなふうにゆっくり時が流れて……

そしてまた間一髪のところで………………………………




「…あぁ………爺ちゃん…」



ヴェイザーは祖父の頭を強く抱きしめ目を閉じた。



 

スパンッ――――――――――








ゴオオオオオオオオオオオオオ



炎が崩落した豪邸を包んでいる。

街灯の光が体が揺れるたび鋭く伸び縮みしている。



気づくと祖父の頭ではなく、知らない誰かの首周りに腕を回している。おぶられている。

自身の左手には血塗(ちまみ)れの、祖父の巻いていたネクタイが握られている。

祖父は死んだのだ。

 

「あぁ……うぅ……」


実感と共に涙が湧き視界が歪む。

 



「……ねえ、事情聴取で何か聞かれたら、ちゃんと…」


「放火されて俺だけ何とか外に出られた……それ以外何も覚えてない………でしょ…」涙声で答えた。


「その調子でお願い。それ以外何も喋らない。わかった?」


「うるさい……」



ヴェイザーを助けたのはこの女だ。


顔は後ろ姿でよく見えない。

髪型は少しパーマの入ったボブ。金髪。

純白のフード付きの大きなマント、首には純白のガスマスクのような仮面を下げている。

マントの下には防弾チョッキ。

一見するとあの侵入者たちの色違いで仲間、もしくはリーダーのように見える。

だがこの女が侵入者の頭を狙撃銃で撃ち抜き、殺される寸前のヴェイザーを助けた。

そしてヴェイザーをおぶった状態で外に待機していた黒ずくめの武装集団3人も同じ手段で瞬く間に屠った。

彼女もまた人殺しだ。

そして彼女の言葉は目の前で家族を殺された9歳児に容赦が無い。

だがヴェイザーは彼女に安心感を覚えていた。



「ねぇ…お姉さん…何か知ってるんでしょ?……俺、今日の事分からないことだらけ…教えてよ…」


「何にも知らないよ」


「嘘つくな!こたえろよ!」


「そう、嘘よ。そして何も教えない」


「なんでっ!」


「あなたのお爺さんみたいに死にたくないもの」


「…………………………!」


この時ヴェイザーにある考えが()ぎった。


「……………あぁ………………ぁぁ」


そして再び視界が歪み始めた。


「あなたは何も悪くない。もちろんあなたのお爺さんも」


「…違う……俺のせいだ……俺が…みんなに………教えたから……」


「それだとあなたのお爺さんのせいにもなる」


「…………………………」


「とにかく…今日のことは忘れて、これからは自重しなさい」


「………………………………………うん」


「賢いのね」



 

(しばら)くして彼女は夜空を見上げた。

 


「ねー、こうも都会だと星が全然観えないよね?」


そして突然妙なことを言い始めた。

 

「……………何…言ってるの…都会じゃなくても…見えないよ……」


「そー?田舎じゃ()が観えたんだけどなー」


「えっ!…………」

 

ヴェイザーは彼女も真実の夜のことを知っていると気づいた。そしてこの会話がちゃんと自重できるかを試していることにも気づいた。

 

「そりゃ………田舎だから……川くらい…大量に流れてるよ……」


「いいね。合格。じゃ、ここらで降ろすから上手くやりな……」


「あっ!なんで?!()()()()()が見える!」


「やっぱ不合格」


「ねえ!お姉さん!なんで見えるの!?」


「教えないッ!」









ヴェイザーは意識を取り戻した。

 

そして不思議と軽い(まぶた)をゆっくり開けた。


「ぬっ……眩し………」

 

スタジアムの屋根と空を漂う目障りな天空都市セロノポッドが見える。


(仰向け……たしか、前のめりに倒れた筈……いや…鉄球の進む方向に合わせて体を回転させ、地面に接触する後頭部は右手で覆い、ダメージを分散したんだっけな……)


(また…あの夢を見た……だがいつもの悪夢と違い…続きがあった……いや夢よりかフラッシュバック現象に近いか)



スタジアムの屋根よりもっと手前、無数の白い鉄球が宙をスローモーションで四方八方に直進している。


(……どうやら地獄はまだ終わっていないようだ。……ミアはどうなった……たしか、あの黒ずくめ………いや木炭男に…)


ヴェイザーは上体を起こし改めて状況を確認することにした。


グッ


いざ上体を起こすと首周りが少し重くなった。


「ん?……」


左手が胸元の形見を強く握り締めていた。












Hsilne

漢片平


 Ilividn

 イルイヴイドゥン


 Willweapon

 意志技術武装(いしぎじゅつぶそう)



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

また話が進まなくて申し訳ないです。

渋爪根介です。見苦しいですが予防線を張ります。

エピソード本文、後書き等はド素人が作成したものです。読者の皆さまを様々な理由で不快にさせる場合があります、大変申し訳ございません。その際は気軽にご意見ください。

思ったことがあれば何でも気軽に感想とかに書いたりしてください。お願いします。励みになります。

少しでも読みやすくするため(建前)、エピソード本文、前書き、後書き、を不定期に改稿したりしています。毎度申し訳ないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ