2.違和感
「うぅ……」
情け無い声を漏らし、ヴェイザーは恐る恐るギュッと閉じた瞼を開いた。
見慣れない天井。慣れない寝心地のベッド。
バッ
左腕を頭上に構え、巻いてある腕時計型情報端末コイルフォンに視線を合わせ起動した。
コイルフォンは真っ黒な画面を空中に投影した。
(新月か…)
頭上に構えた左腕をドサッとベッドに下ろし、右手で頭上に空中投影された画面をスワイプした。
すると真っ黒な画面を背景に日付が表示された。
「AR3448年3月2日 日曜日午前4時1分37秒……夢じゃないな……」
上体を起こし改めて思考する。両頬に涙が伝う。
(今夜は新月で、ここはホテル…相手の子は日を跨ぐ前に帰らせた。悪夢にうなされて泣く姿なんて見せられないからな。
そして今日は9時に学校集合。6時間ほど前、ミアに電話で呼び出され来るよう命令された。……あれはマジで最悪なタイミングだった…)
(タバコすお……そして支度だ)
約5時間後、8時45分。
ヴェイザーはファイウィーミッド ファイパ技術学校に到着。
(そういや何故この時間帯なんだ。エアドマスター開始は11時。あと2時間ほど余裕がある……というか学校に来いと言われたが学校のどこに集合するか教えられてないのだが………学校の敷地面積は約15平方kmと狭くない……普通に考えればエアドマスター会場のCスタジアム、もしくはいつも講義を受けていた教室……)
ヴェイザーはとりあえず、呼び出し人のミアに自身の居場所と詳しい集合場所についての質問をメッセージで伝え、学校敷地内入ってすぐの上り階段付近にある屋根付きのベンチに腰掛けた。
1時間後
(……来ないな)
ヴェイザーは未だにベンチに腰掛け待っていた。
呼び出した本人にメッセージを送り、何度か電話も掛けてみたが反応が無い。
幸いヴェイザーは同じ場に留まって待つことには慣れていた。
それから30分後
「お?」
コイルフォンを起動するとメッセージが1件着ている。
内容はエアドマスターの会場をCスタジアムからAスタジアムに変更するという運営からの知らせだ。
(旧式のスタジアムか…少し残念だ。)
半透明の画面の向こうに見知った顔が見えた。
相手はこちらに気づかず階段を上ろうとしてたので駆け寄った。
「ハロー、カイシュン」
「あっ!ああ、ハロー」
カイシュン、この学校で最も親しい男友達だ。いやだったと言うべきか。
彼はヴェイザーと違い3年制の学部に所属していた為、去年の今頃この学校を卒業した。
対するヴェイザーは学士を取得できる4年制の学部に所属しており、1週間後に卒業式を控えている。
ちなみにミアはヴェイザーと学部は違うが同学年で、彼女も1週間後に卒業式を控えている。
「凄い眠そうだな。カイシュンも昨夜ミアに呼び出されたのか?」
「ああ」
「ミアはまだ来てない。そこのベンチで待とう」
「…オーケー」
2分後
「ねぇー、ノクトは校長に勝てるかなぁー?」
「ノクト様なら勝てますよ!」
「フンッ!ノクトなんて校長に殺されちゃえばイイノヨッ!……でも、どうせなら…勝ってほしいナ……」
ミアの到着を2人で待っていると十数m先、学校敷地内入口の受付付近で、色んな意味で大小異なる美女3人が皆一様に同じ名前をあげ会話している。
どうやらノクトという人物はエアドマスターに出場するらしい。
退屈な男2人は彼女らをガン見している。
「……皆、美女だ」
「うん……」
「だが、あの3人は1人の男に夢中。ノクト……この学校の数少ない美女を独占…羨ましいな」
「……でも、こっちにはミアがいる」
「………そうだな。俺らには…昨日の今日で呼び出しておいて大遅刻かます男泣かせな女がついてる」
そう言いヴェイザーは三人衆から受付の方に視線を逸らす。
「ぬぉ……来たか」
視線の先に見慣れた女がいる。
黒いローファーに白いソックス。
膝下が隠れる丈の黒いプリーツスカート。
ボタンではなくジッパーのついた白いワイシャツ。
肌色は白。
顔には碧い宝石のような大きな瞳。
爽やかな青髪。
身長は155cm。
細い首。狭めの肩幅。華奢な胴体。
Bはともかく、WとHは人によっては奇形と妬むほどの惚れ惚れするシルエット。
だが、相も変わらず奇妙な髪型をしている。正直似合ってない。もったいない。誰も言及しない。
2人は残念な女に歩み寄った。
「お…ハロー!カイ、ヴェイ」
ミアは約1時間以上遅刻しておいて事も無げに挨拶した。
「……とりあえず謝罪の言葉を聞いた後、事情を聞く」
「ごめんなさい……でもカイも遅刻したのよねぇ?外で後ろ姿見たわよ。だからアタシだけ2対1の状況で謝るのはなんか不平等じゃない?………だからカイもこの場で謝ってみない?」
カイ 「えぇ!?……」
ヴェイ (コイツ正気か?)
カイシュンは驚きの声をあげ、ヴェイザーは困惑した。
「確かにカイシュンも遅刻した。だが……………」
(正論言っても無駄か……)
「カイシュン、謝れ」ヴェイザーは泣く泣く命令した。
「えぇ…………遅刻して大変申し訳ございませんでした。以後このようなことが無いよう気をつけます」
カイシュンはいい加減なミアを馬鹿にするかのように、腰から上を90°近く傾け丁寧に謝罪した。
「んじゃ、謝罪の言葉も聞けたことだし事情を話すわ」
「昨日アンタらをエアドマスター開始2時間前に来るよう言ったのは、開始前にキプナに学校敷地内を案内したかったからよ」
(キプナが来るのか!いや、技術者でもない彼が学校敷地内に入れるのか?その前にキプナがこの場に居ない!)
「キプナ来れるのか?」ヴェイザーは頭の中で困惑したのち質問した。
「もちろんよ!エアドマスター運営からのメールに、入学確定者も来れるって書いてあった!で、キプナはまだ来てないから案内の話しは無しね」
(ミアが遅刻してる時点で無い)
「キプナ…まだ、ドギルノイズに越してきてないはずだよな?……」ヴェイザーは恐る恐る質問した。
「そうよ」
「キプナの家から学校までの距離は?」
「だいたい7000km」
カイ 「えぇ…………」
ヴェイ (コイツ正気か??)
「……で、なんで俺らは歩きながらしゃべってる?」
「そりゃCスタジアムに行くためよ。それ以外ある?」
「普通キプナを待つだろ…あと会場はCスタジアムからAスタジアムに変更された」
「了解。キプナはアタシ達がいなくたって自力で何とかするわよ。入口付近に敷地内地図と掲示板あるんだし。」
3人はAスタジアム2階、北観客席に到着した。
北側の観客席はほぼ満席だ。
(こりゃ座れたとしても落ち着かないな。……お、南側は空いてる。だがもうすぐ始まる。1試合目は立って観るか。移動はあとだな)
「アタシお手洗い行ってくる」
「もうすぐ始まる。観なくていいのか?」
「2試合目から観ることにするわ」
「了解だ。1試合目終了後、南観客席に移動する」
「オーケー……あ!あと、アタシが居ない間に喫煙所で吸ってきたらブッ殺すわよ!」
そう言ってミアは観客席裏の室内に消えていった。
「…カイシュン。あれは言い過ぎだよな」
「………クソクサイ カザカミニタツ キツエンシャ」
「ん?、どう言う意味だ」
「喫煙者に人権は無いってことだよ。太古からそー言われてる」
「……そっかぁ」
ゴッ ガゴ
『会場の皆様!お待たせしました!!』
『只今より!ファイウィーミッド ファイパ技術学校名物!エアドマスター!!開始いたします!!!』
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!
スピーカーからの音声がエアドマスター開始を告げ、客席が沸き立った。
『本エアドマスターの進行は毎年お馴染みスピーカー受肉女こと私! エルラ べグ ティミュージです!』
『では!早速第1試合、始めちゃいっますっ!』
『最初にコートに君臨するのはもちろんあのお方!』
『現役時代の功績は数知れず!我ら技術者の固き礎!
堅物!イケオジ!鼻曲がり!時代遅れ!老害!
罵る奴らは礎の底に埋めてきた!!
お前も地盤にされたいか!?!?!』
『我らがヘッドマスター!!!
ガーソン イビューサ!!!!!』
語呂の悪い言い回しと共にスピーカーが校長の名を言い切ると、観客席下の東入場口からその校長がコートに現れた。
そして再び客席が激しく沸き立った。
ウォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
ガーソン!!ガーソン!!ガーソン!!
雑魚共ヲヲヲヲ!!瞬っ殺っしろおおおぉぉ!!!校長!!!!!
ダセェェゾォォォ!!クソアナウンサー!!!
『うるせぇぇ!』
『………続きまして!!
挑戦者 ミミフォ ラウルエル!!!』
次は西入場口から1人の男が出てきた。
ワァァァァァァァァ!!
雑魚は帰れェェェェ!!!ガンバレェェェ!!!!
瞬殺しろぉぉぉ!!!瞬殺しろぉぉぉぉ!!!!!
『るせぇぇぞ!!暴言厨は帰れ!!』
毎年スピーカーと観客は喧嘩している。
『………勇敢にも1試合目を買って出た挑戦者ミミフォ!果たして!校長の首を取ることはできるのだろうか!!』
(ミミフォか。勇気あるな。あいつなら10秒持つかもしれん。武装は基本に忠実で変に目立とうとしてないしな)
挑戦者ミミフォ。
男。22歳。身長は175cm程度。
ヴェイザーと同学年。親しくはない。
タイマンでの戦闘能力は同学年の中では中の上。
武装はファイパ技術防衛及び探査隊、通称FTC公式の戦闘服とヘルメットにブーツ。そのため肌は一切露出していない。
両腕の前腕部にトンファーのように刃がくっついており、ハンズフリーで刃を振るうことが出来る。
右手はフリー。
左手にはライフル弾発射機構付きのやや縦長の盾を持っている。
バックパックは短期戦のため当然ない。
前傾姿勢、右手は広げた手のひらを地面に向け、左手に持つ盾は弾の出る箇所を校長に向けて構えている。
ギュォォン! フォォン! ギュォォン! フォォン!
『ファイウィーミッドファイパ技術学校Aスタジアムを意志汚染警戒区域に指定。防護膜展開。間も無く意志技術戦闘許可区域に移行。』
ファイパ技術での戦闘、意志技術戦闘が行われる際に鳴る警告音と自動音声だ。
数秒後に戦闘が始まる。
フォン!!
音と共にコートを囲む透明の防護膜が淡く赤色に発光した。
戦闘開始の合図だ。
(ん?なんだ…今なにか変だったような……)
ヴェイザーは何かに違和感を持ったが、気にせず試合を観ることにした。
ドギィンッ!!ドギィンッ!!
校長は背中に隠していた高威力の拳銃を右手で取り出し挑戦者を2度撃った。
しかしその銃撃は構えなおした盾に防がれた。
ドッ!
挑戦者は校長の銃撃と同時に地面を蹴り、前方にグンッと進んだ。
それと同時に校長の足元の地面が光り、その光が、前方に跳躍し宙に数十cm浮いた状態の挑戦者下の地面まで移動した。
グブォォッッッッ!!!!!
挑戦者が再び地面を蹴ろうとした時には、付近の地面は吸い込むような音をたてて無くなり深い穴となった。
穴の内側から、地面で形成された無数の棘が挑戦者を睨んでいる。
あの光は校長が地面を変形させる際に発生するものだ。そして
ギニュンッッッッッ!!!!!!
激しい音と蒸気をあげ、棘は挑戦者目掛けて伸びた。
無数の棘が挑戦者の戦闘服に突き刺さり、戦闘服下の生身に突き刺さる寸前で安全装置が作動した。
挑戦者は瞬く間に身体全体を赤色の厚い膜に覆われ、怪我さらに言えば死を逃れた。
勝敗が決した。
『戦闘終了!!!!』
『勝者 ガーソン イビューサ!!!!!!!』
ウオオオオオオオオオォォォォォォォ!!!!!!!!
スピーカーが言い終わると共に、観客席からは歓声が上がり、防護膜が今度は青色に淡く発光した。
戦闘終了の合図だ。
(ん?やっぱ防護膜の発光が……まだ確信は持てない。もう一度見れば……)
ヴェイザーは防護膜の発光に違和感を覚えた。
(とりあえず南観客席に移動するか…………お!)
南観客席の方に目をやると屋内入口付近に巨人がいた。
「おい、見てみろ」ヴェイザーはウトウトしているカイシュンに声をかけ、巨人を指差した。
「あぁ…………うほ!デッカ!」
多少は目が覚めたようだ。
あいつはキプナ。
身長290cm。16歳の漢の子。
縦だけでなく横にもデカい。
頭の左側全体が火傷跡の様なもので覆われており、毛が生えていない。その大きな傷跡の上には、黒い彫り物が施されている。
頭の右側には毛が生えており、髪型はバングアップ。
髪色は黒。
左眉毛の半分が傷跡に呑み込まれ生えていない。
左耳の上が少し削れており、傷跡がある。
頬が痩けて見える。
メガネをかけている。
肌は小麦色。
何故か黒いジャケットに黒いスラックス、黒い革靴のガチガチのスーツ姿。
下には白いワイシャツが見え、赤いネクタイを巻いている。
ヴェイザーとカイシュンは屋内を通りキプナのところまで移動する。
南観客席に出るとキプナの隣に既にミアがおり何か言っている。
「遅刻したくせに景色眺めてぼーーーっとしおってからに!少しはアタシ達を見つけようとしたらどうなの?もうとっくに1試合目は終わっちゃったわよ!」
(コイツ……………)――――――――――
ヴェイザーは観客席の1番下、6席ほど連続で空いていて左手側に階段があり、なおかつ背後の席に誰も座っていない場所を指差した。
(あそこならキプナは階段に腰を下ろせる。それに加え背後と左右に人が座っていない席をカイシュンに設けることが出来る。あいつは小さいことですぐピキるからな)
皆、腰を下ろし一息ついた。
ヴェイザーはミアの様子を見た。両手を両膝に置き少し前のめりになり、顔を上に傾け遥か北をポケ〜と見ていた。
ヴェイザーはその姿が、ミアが誰かしらに後ろめたさを持っている時の仕草の一つだと知っている。
軽いため息を吐き、体を背もたれと共に後ろに傾け、少し声を張りけっこう左に居るキプナに質問した。
「なぜ今日ここに来ることにした?」
「ミアちゃんに今日のファイパ技術学校の催しは入学予定の人は必ず出席しないといけないと言われたからです」
(アイツ……)
ヴェイザーがほぉと頷いた後答える。
「……………出席する必要ないよ」
「え?」
キプナの反応にハハッと笑いかけ、ヴェイザーは流石に無いよなと思いつつも質問した。
「もしかして昨日の夜、ミアから電話でそのこと聞いた?」
「はい!そうです! その催し明日あるから住所送っとくから って言われて通話切れました…ハハハ」
(???……ダメだアイツ正気じゃない……というかキプナお前、よく平気な顔してられるな…)――――――――――
ギュォォン! フォォン! ギュォォン! フォォン!
『ファイウィーミッドファイパ技術学校Aスタジアムを意志汚染警戒区域に指定。防護膜展開。間も無く意志技術戦闘許可区域に移行。』
あと数秒後に防護膜が発光し第2試合が開始する。
挑戦者はノクト。学校敷地内入口で三人衆が口にしていたあの男本人だ。
そんな中ヴェイザーは何故ノクトの様な人間に美女が寄ってくるのか真剣に考えていた。
フォン!!
1試合目同様、音と共にコートを囲む透明の防護膜が淡く赤色に発光した。
(ん?…ぬぁっ!見逃した…………)
案の定、防護膜の発光を確認することを忘れていた。
ブォッッ!!!!ギュンッッッッ!!!!!
『戦闘終了!!!』
『勝者 ガーソン イビューサ!!!!!!』
ウオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!
そしてまた1試合目同様スピーカーが言い終わると共に、観客席からは歓声が上がり、防護膜が青色に淡く発光した。
今回はしっかりと確認出来た。
(ほぉ…やはりそうか……よし、あとは3試合目の戦闘開始時の光を見て確信を持とう)――――――――――
左の方でミアがキプナに2試合目の解説をしている。
(…今に思えば、キプナが学校にいて、ファイパ技術について質問している状況…なんだか感慨深いな)
(キプナがここにいる……もし俺の仮説が正しいのなら…本当にあの防護膜が内側から破壊可能な旧式の欠陥品だったら……いや、こんな妄想は不要か。
そもそも故意に破壊する奴などいないだろうし、破壊可能だが容易では無い。
校長を相手取りながら、コート内を高光度の閃光弾で照らし、直方体の防護膜の8隅にほぼ同時に強い衝撃と引力を与える。無理だな。
例え何かあってもキプナを運びながら逃げれば良い。
この歳でこんな幼稚な妄想をするのは俺とカイシュンくらいだな……2人の会話に混ざるか……)――――――――――
第3試合開始前
ヴヴヴ!
左腕に巻いていたコイルフォンが震えた。
袖を捲って起動しようとする間も無く、空中に画面が投影された。
画面は赤枠に囲まれており、左上にはEMERGENCYと表示されている。
ファイパ技術防衛及び探査隊、通称FTCが配布したコイルフォンを現在所持している者のみに有効な強制画面投影機能だ。
この画面を投影させたのは、現在独りコートで突っ立っているガーソン校長だ。
以下投影内容抜粋
投影画面及び内容は自身以外の者に悟られぬよう確認し、その後も何事も無かったよう振る舞うこと。
エアドマスターに第4試合以降出場する予定だった者、学校敷地内入口とAスタジアム入口で受付担当をしていた者、その他にも複数の技術者が気を失った状態で学校敷地内の複数箇所で発見された。
監視カメラ等の電子機器が複数破損しているのを確認。
校内の侵入検知システムが複数の非FTC関係者の侵入を検知。
侵入者は現在も学校敷地内に居ると思われる。
現在FTC本部に、学校敷地内全体の意志汚染警戒区域の指定、現在Aスタジアム観客席にいる者の緊急時の意志技術戦闘の許可、FTC本部からファイパ技術者の派遣等を申請中。
本エアドマスターは第3試合をもって終了。
周囲を十分警戒。以上
『……会場の皆様。盛り上がっているところ大変申し訳ございませんが、本日のエアドマスターは第3試合をもって終了とさせていただきます』
スピーカーが改まった口調で伝えた。
「これはどういう事ですか?」キプナが聞いてきた。
どうやらキプナは会場の異様さを感じとったようだ。
「気にしなくていい」
ミアとヴェイザーが同時に答えた。
(そう、投影された画面を見ることの出来ないキプナに気にさせてはダメだ。…………)――――――――――
ギュニョォン!!ギュニョォン!!ギュニョォン!!
気味の悪い警告音、淡い紫色の点滅。
防護膜が破壊されたのだ。
(結果論…やはりそうだった。俺の目に狂いは無かった。
戦闘開始時と戦闘終了時の防護膜の発光……その輝度が最新の防護膜より僅かに低かった。やはり旧式の欠陥品だった。……………!!)
ピッギィーーーーーーーーーーーン!!!!
ギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!
ベベベベベベベベベベベべベチベチ!!!!
白い閃光と耳をつんざく鋭い音、無数の硬いものが激突する音、無数の粘性の何かが衝突する音、先程まで防護膜が封じ込めていたそれらが連なり激しく響く。
そして防護の役割を果たせなくなった膜の向こう側。
自身のすぐ近く、左斜め前、膜を大きな刃で破り裂き、こちら側に侵入しようとする者がいる。
(誰だ!!)
ヴェイザーには黒い武装の木炭色の肌の男が、膜の内側から出てくるのが見えた。
ヴェイザーは一瞬、ソイツから目を逸らしコートを見た。
コートの空中には複数の飛来物に対処する校長がいる。
挑戦者の姿はどこにも見当たらない。
(挑戦者がいない?!)
そして左斜め前に再度視線を合わせる。
(………………!! コイツのバックパック…色は真っ黒で違うが形が挑戦者の物と同じ!!
…この木炭男……もしや挑戦者か?!
だとしたらコイツは……FTC関係者に変装してエアドマスターに出場した事になる。
防護膜を意図的に破壊した時点でそうだが、校長が周知した事態…その犯人の可能性大だ。
だとしたらマズイ!!……ファイパ技術で……身体操術で身を守らねば!!
しかしまだ許可が出ていない……もし今、体感速度、視覚、聴覚の調整、紋業泡殻の形成以外でファイパを使えば…最悪ムショ行き……)
気付くと、木炭男はキプナとコートに背を向けたミアに向かって、空を蹴り進み襲いかかろうとしている。
(…!! コイツッ!!)
ヴェイザーは身体操術を発動した。
身体が一気に軽くなった。
(………!!そうか、そうだった!防護膜以前に大きなオカシイ点があった。)
そして何かに気付いた。
(キプナだ。そして俺たち雑魚4人組だ。
キプナは非FTC関係者、本来ここに入れる筈がない。
だがこの事態を計画した奴…奴らはエアドマスター運営を装ってメッセージを送った。
ファイパ技術者でない、かつ学校に入学するのが確定しているキプナ。そのキプナと関係の深いミアに。
学校敷地内入口と会場入口の受付担当を気絶させたのはキプナのような入学予定者をバレずに観客席に来させるためだろうか?…だとすると遅刻も考慮…………
そしてミアはファイパ技術者の中でもかなり弱い方の俺とカイシュンを携えている、ミア本人もそこまで強くない。
目の前の状況と擦り合わせると、おそらく観客席に侵入した際に安全に人質を確保する為だろう。
人質が目的ならミア以外にも、この会場に来るよう催促された弱い技術者が複数いるのだろうか?
…コイツは俺たちの所に来た。
理由はコートから背を向け隙だらけなミアと技術者でないキプナがいちゃついてたからだろう。
キプナは人質にするにしては弾除け特化すぎる……狙いはミアか?
だがこんな事して何になる?
校長に勝つ為?……絶対にない、手が込みすぎている。
何が狙いだ?…………とにかく2人を助けねば!!)
思考を止め、2人のもとへ駆け寄るヴェイザー。
その前方に、同じく身体操術を発動し2人を守ろうと駆け寄るカイシュンの姿があった。
(よし……カイシュン、行くぞ)
ドゴッ
「グァッッ!?!」
ヴェイザーの右側頭部に激痛が走る。
(!?!…………鉄…球?)
先程まで変装していた木炭男が防護膜を破壊する直前、四方八方に飛ばしていた白い鉄球。
その鉄球が死角から現れ、ヴェイザーの右側頭部に命中した。
体が前のめりに崩れ落ち、意識が薄れる。
そんな中見えたのは
ヴェイザーと同じく、力無く倒れるカイシュンの後ろ姿。
両手を後ろに突いて腰を浮かし、目を見開いたまま固まっているキプナ。
同じく目を見開いたまま気絶しているミア。
ゴキゴキ ゴッ ゴキゴキゴキゴキゴキ
バタバタバタバタバタバタバタバタバタ
そのミアの有りと有らゆる関節をゴキゴキ外し、バッタバッタと小さく折り畳む、木炭男の姿。
ヴェイザーは意識を失った。
Hsilne
漢片平
Veiser P E Morning
ヴェイザー ピー イー モーニング
Erra Beg Timusi
エルラ ベグ ティミュージ
Mimlifo Laulel
ミミフォ ラウルエル
ラクガキ
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渋爪根介です。見苦しいですが予防線を張ります。
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