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7・作戦開始

 アイゼンブルグは、リザンブルグより北方の国。領土も経済的にも、リザンブルグより大きく豊かな国である。

 セイラに扮したノキアを先頭に、一行はアイゼンブルグ城を訪問し応接室へ招きいれられた。


「これはこれはセイラ殿。本日はいかがなされたかな?」


 アルバート王子の顔を見るなり、ノキアは顔を引きつらせるが、今はセイラになりきらなければならない。

 ソファから立ち上がりドレスの裾を持ち上げて一礼する。


「せ、先日の非礼を詫びにきました」

「ああ、よいのですよ。僕もあれで目が覚めたといいますか……運命をより強く感じた、といいますか……」


 王子が自分の世界に入っているうちに、扉の前に待機していたセイラとデュランは作戦実行に出る。

 ノキアは、お茶を濁しながら王子と会話をして時間を稼ぐしかない。

 二人の無事を祈りながら、自分の正体がばれぬよう願いながら、ノキアは楽しめないお茶を口にした。

 


 こそこそしているとかえって怪しまれるため、変装を解いたセイラとデュランは、堂々と金庫のある部屋の前まで来た。


「これはこれは、セイラ様。このようなところに何用で?」


 さすがに警備兵が多い。セイラは、横目でスキがないか見回したが、そのようなものはなさそうだ。


「王子に頼まれたものを取りに来ましたの」

「左様でございますか。では、中にいる管理官にお申し付けいただければよろしいかと」


 管理官に「リザンブルグの重要書類を」と言っても、出してくれるわけはないだろう。

 問題は、ここにいる警備兵をどうするか、ということである。セイラは、笑顔で警備兵に近づく。


「ところで警備兵さん? 王子が呼んでらしていたの。私との時間を安全に過ごしたいから、周りの警備兵を増やしたいって」


 そう言うと、警備兵は困ったように頭をかく。


「またですかぁ? ここの警備も重要なんですよ」

「ええ、わたしもそう言ったのですが……王子はああいう性格でしょう? 聞いてくださらなくって……」


 セイラは頬に手を当ててため息をつく。その演技を、デュランは黙って見ていた。


「仕方ないなぁ、で、どこに行けばいいのですか?」

「西の塔に、できるだけ人数を集めてくれ、とのことですわ。わたしも後から参りますので、先に行っていてくださいますか?」

「わかりましたよ。王子のワガママは、いつになったら直ってくださるんでしょうね。おい、王子がお呼びだそうだ、行くぞ」


 他の警備兵に声をかけ、その場にいた警備兵は、全員西の塔へ小走りで向かった。


「……やりますね、王女様」


 デュランが、感心する。


「王子の性格を逆手に取った作戦よ。王子がワガママでよかったわ」


 セイラは、鼻を高らかに笑った。

 




 その頃、セイラに扮したノキアの方も、王子を西の塔へ行かせるための作戦に入っていた。


「久しぶりに、西の塔へ上ってみたくなりました。あそこからの眺めはすばらしいですから……」

「いいですとも、君の望みなら、それくらいお安い御用ですよ」


 王子がノキアの肩に触れようとしたところを、不自然にならないように、ノキアはささっと離れる。


「では、私はその前にお化粧を直してまいりますので、王子は先に行っていてください」


 王子と離れた後、ノキアは化粧室でドレスを脱ぎ、変装用のカツラと眼鏡を着用した。

 これで、どこから誰が見ても、最初に王女と共に来た護衛の一人である。

 ノキアは、二人と合流するために、東の金庫室へ急いだ。



 金庫室から警備兵が去った後、中は老人の管理官一人であった。

 この管理官も、セイラを子供の頃から知っている人物である。


「おや、セイラ殿。お久しぶりですなぁ。またいたずらに来ましたかな?」


 管理官は、優しげに笑う。


「もう、昔のことはいいでしょう? 今日はね……」


 セイラは、どこからかスプレーを取り出し、管理官に吹きかけた。


「セ、セイラ殿、それは……」

「ごめんねぇ、睡眠スプレーなのよ」


 管理官は床に倒れ、いびきをかいて寝てしまった。


「早く金庫を!」


 デュランに言われ、セイラは金庫を探した。

 たくさんあって、どれがどれだかわからないが、資料類は一番左の金庫だと管理帳に記されていた。


「デュラン、セイラ、あったか!?」


 ノキアがやっと金庫室に辿り着く。


「今、探しているところです」

「リザンブルグの紋章……。あった、これだわ!」


 セイラは、巻物状になっている重要書類を筒にしまい、懐に入れた。


「では、早く脱出を」


 デュランが二人を促すが、セイラは金庫の中のもうひとつの物に気がついた。

 水晶のような宝石が金庫の中で輝いている。セイラは、思わずそれに見惚れ手を伸ばす。


「なにかしら、これ……。とっても綺麗……」

「セイラ、なにをやっている。早くしないと……」


 ノキアの言葉を余所にセイラが水晶を手に取ると、警報が鳴り響いた。

 どうやら、防犯用の魔導具だったようだ。


「えっ!?」


 あわてて水晶を元に戻すが、警報は鳴り止まない。それどころか、金庫室の扉が閉まろうとしている。


「まずい! 二人とも走れ!」


 デュランの掛け声で、一斉に走り出した。

 扉は間一髪ですり抜けたが、警報で警備兵がこちらに向かっている姿が見えた。


「まずい……。ノキア殿、警備兵は私が引き付けておく。セイラ殿を頼む」

「わかった。セイラ、道を教えてくれ」

「わ、わかったわ、こっちよ!」


 ノキアとセイラは、走り出した。

 

「デュラン、大丈夫かしら?」


 走りながら、セイラがノキアに問いかける。


「デュランなら大丈夫だ。私の最期を看取るまでは、絶対に死なない」

「……えっ?」


 どういう意味だろうと、セイラは目を見開く。


「それよりも、人の心配をしている暇はなさそうだぞ」


 二人の目の前には、王子と警備兵数人が立っていた。


「そんなことじゃないだろうかとは思っていたけれど、まさか本当にこうなるとはね」


 ノキアは剣の柄に手をかけ、セイラを背に庇うように立った。


「読まれていたのか?」

「多分……。それに、王子ならわたしと一緒で、隠し通路も知っている。先回りも可能だわ」


 後もどりはできない。しかし、前方には王子と警備兵。逃げ場はない。

 王子は肩をすくめ、やれやれといった風に首を横に振った。


「残念だよ。君のことは信じていたのに……」

「なに言ってるのよ! そっちが先に盗んだんでしょう!?」

「セイラ!」

「ふふふ……認めたね? 書類を盗んだということを」

「あっ……」


 しまったと、セイラは口を押さえた。

 黙っていれば、シラを切り通すこともできたかもしれないのに。


「やれ。ただし、王女は傷つけるな」


 王子の号令で、警備兵は一斉に剣を構えた。

 警備兵は4人。他の警備兵は、デュランのところと、他の場所で待機しているのだろう。

 ここを切り抜けても、難関は多い。

 しかし、まずここを切り抜けられなければ脱出は不可能である。

 ノキアもまた、剣を構えた。


「仕方がない……。行くぞ! 我が名はノキア・ミタ・カーラウト!」


 名乗りながら剣を抜き、地面を蹴って走り出す。


「なにっ、ミタだと!? て、鉄砲だ、鉄砲を用意しろ!」

「はああああああっ!!!」


 王子は指示したが、すでに剣を振りかざしている者に間に合うはずもなく、警備兵4人は、あっという間にノキアに叩きのめされる。


「ノキアも、ミタの使い手だったんだ……」


 ミタの剣術の使い手は、デュランだけだと思っていたのだろう。

 セイラは、ノキアの剣術を見て驚いていた。

 ノキアは、残り一人となった王子に狙いを定める。


「ま、待て! 反則だろ、おまえがミタの使い手だなんて……! そ、そうだ、待て、こうしよう……!」


 言いながら、王子は懐を探った。

 懐の中で、カチリ、と音がした。それがなんなのか、ノキアにはすぐわかった。


「なーんてな」


 王子は、にやりと笑いながら、拳銃を発砲した。

 動きを読んでいたノキアは、かろうじて避けたが、衝撃でウィッグと眼鏡が飛んだ。


「あの近距離で避けただと!? くっ……拳銃はまだ試作段階で、連続では…………え?」


 ウィッグと眼鏡の飛んだノキアの姿を見て、王子は困惑した。

 ノキアは、念の為もう一つ、ローズピンクのウィッグを身につけていたのだ。


「セイラ殿が、二人……? どうなってるんだ……?」


 そのスキを見て、ノキアはセイラの手を掴み、引っ張った。


「今だ、走れ!」

「しまった! これは使いたくなかったが……仕方がない!」


 王子は、最後の手段に何かを投げた。


「いけない! あれは、アイゼン最新型の爆弾よ!」

「なにっ!?」


 ノキアが、セイラを抱きかかえようとしたその時、セイラがつまづいて転んだ。


「セイラ!」

「大丈夫、走って! あっ……!」


 起きあがろうとした拍子に、書類の入った筒が転がり落ちた。


「ダメだ、戻るなっ……!!」


 ノキアは制止するが、セイラはそれを慌てて拾う。

 再び走り出すと、すぐにノキアがセイラの手を引っ張った。

 しかし、それとほぼ同時に爆弾が光を放つ。

 ノキアはセイラを胸に抱きかかえ、伏せようとしたが遅かった。爆発の直撃は逃れたが、爆風で廊下の向こう側まで吹き飛ばされ、体を強く打った。城壁が少々崩れ、細かい破片がノキアの上に降り注ぐ。

 ノキアは、ほんの少しの間だけ、気を失った。

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