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2・うりふたつな王女さま

 さわやかな風、賑わう町。今日は3ヶ月に一度の、リザンブルグ王国の祭典の日だった。

 城下町はさまざまな露店が並び、人々があふれ返っている。遠方からこの祭典を楽しみに来る者もおり、今日だけは王国の人口が2倍にも3倍にもなる。同行者とはぐれるのも、しかたがないことなのであった。


「スタンー、スーターンー? どこー? もう、どこに行っちゃったのよ!」


 早速、仲間とはぐれたらしきブロンドのショートヘアの少女が仲間の名を呼んでいるが、この広さ、人数では見つかりそうもない。


「せっかくお城を抜け出して来たって言うのに……。まあ、いいか。そのうち見つかるよね。お祭りは一人でも楽しめるし!」


 そう意気込んだ直後、少女のお腹が激しく鳴った。幸い、周りが騒がしすぎて他人には聞こえていないようだ。


「う……。そういえばお腹空いた……。お金はスタンが管理してるし……。うう……。やっぱりスタンを探さなきゃぁ……」


 お腹を空かせた少女は、よろよろと歩き始めた。


 *


 一方その頃、この城下に辿り着いた一組の男女がいた。旅人のようである。

 男は背が高く黒髪の青年で、腰には使い込まれた剣が備えられている。女は、まだ少女だが、アイスブルーのショートヘアにきりりとした瞳である。


「ようやく町に着きましたね、お嬢様」

「……お嬢様と呼ぶな、と言っただろ、デュラン?」


 少女は、むっとして言葉を返し、デュランと呼ばれた青年は、あわてて訂正する。


「失礼しました、ノキア殿。しかし、今日はどうやら祭りのようですね。宿が取れるかどうか、心配です」

「そうだな……。仕方がないが、一軒ずつ探すしかないな」

「もしはぐれたら、あの時計塔の下で落ち合いましょう」


 デュランは、街の中で一番高い時計塔を指した。あれなら初めて来た町でも、どこにいても目標にできる。そして一歩前に進み、ノキアに手を差し出した。


「なに?」

「はぐれるといけませんので、手を」

「……ありがとう」


 ノキアは、淡く微笑んでデュランの手を取った。


 *


「ひめさ……じゃない、セイラ様ーセイラ様ー、どこだすかー? まったく、ちょっと目を離したスキにこれだから……。迷子になった時の、落ち合い場所を決めておけばよかっただすね……」


 ここでもまた、人を探している男がいた。言葉は少しなまっている。しかし、こう人が多くては探しようもなく、また名を呼ぶ声もかき消されていた。


「仕方がないだすね、ほとぼりが冷めたらお城に戻ってくるでしょうし、オイラは一旦城に戻って……ん?」


 その時、男の視界に見知った少女の姿が入った。


「セイラ様!? セイラ様ー!!」


 男は懸命に名を呼ぶが、少女は振り向かない。男は、人ごみをかきわけて、少女の元へ急ぐ。


「セイラ様!」


 男が少女の腕を掴み引っ張ると、少女がもう一方の手で掴んでいたものが離れた。


「な、なに?」

「セイラ様、こう人ごみがすごくては大変だす。もう少しひと気のないところへ行きましょう!」

「え? なに? おまえ、誰だ!?」


 男が掴んだ腕は、ノキアのものだった。しかし、男は気づいていない。

 ノキアが、怪しい男だと、自分の剣の柄に手をかけたその時……。

 上空に何かが飛び出し、一瞬視界が暗くなった。

 人々は、何事かとその飛び出したものに注目し、目で追いかけた。

 それは、一瞬のうちに正確に、ノキアと男の間に着地した。


「ノキア殿になにをするつもりだ?」


 ノキアの用心棒であるデュランは、ためらいなく男に向かって剣を抜いた。

 剣を見た周囲の人は驚き、悲鳴をあげるものや歓声をあげるものもいた。


「なにを言ってるだすか! この方はセイラ様だす!! オイラは今日、セイラ様と祭りに来てはぐれていただす! それを見つけたから、こうしているだす!! あんたこそ、セイラ様になにをするつもりだすか!?」


 男の言い分を聞いて、デュランはため息をついた。


「……失礼だが、人違いではないか?」

「人違いなわけないだす! これはセイラ様だす! なんなら、勝負してもいいだす! 我が名は、スタン・マッカリスター!」


 スタンと名乗った男は、剣を抜いた。勝負の前に名を名乗るのは、剣士としての礼儀である。

 デュランは仕方なさそうに首を横に振った。


「……よかろう。我が名はデュラン。デュラン・マクレガー」


 デュランもまた、一度下げた剣を再び構えなおす。

 いつの間にか周囲の人はいなくなり、空間ができている。

 少し離れたところで、町の人々が歓声をあげている。


「デュラン……」


 ノキアが心配そうな目を向ける。


「心配いりません、ノキア殿。ちゃんと手加減いたします」


 その言葉を聞いて、ノキアはほっとした顔を見せた。

 スタンはデュランの態度に腹を立て、地団駄を踏む。


「むきーーーーっ!! なめられたものだすね!! こう見えてもオイラは城の中では…………えーーーーっと、と、とにかくすごいんだす!!」

「ほう、そうか。では、私も安心してミタの剣術を披露することができるわけだ」

「ミ、ミタの剣術? それは……」


 スタンはたじろいだが、一度抜いてしまった剣を引くことはできなかった。


「いくぞ!」


 デュランの一声と共に、勝負は始まった。


「ひいぃぃぃぃっ!!」


 避けようにも避けられず、勝負は一撃だった。

 ミタの剣術を出すほどのこともなくデュランの峰打ちが脇腹に当たり、スタンはその場にうずくまった。

 周囲の人々の大歓声に、道行く人々は、何事かと足を止める。

 スタンを探していたブロンドの髪の少女も、その一人であった。


「一体なにがあったの?」


 少女が人ごみをかきわけて、なんとか一番前へ行くと、探していたスタンがうずくまっており、それを見下ろしている剣を持つ男の姿が見えた。


「ちょっと、スタン!? なにやってるのよ!? 探したんだからね!!」

「へっ!? セ、セイラ様!? す、すると、あっちのセイラ様は……?」


 スタンが、セイラとノキアの顔を見比べる。

 セイラとノキア、またデュランも、ふたりの瓜二つな風貌に驚きたたずんでいた。


「これは、驚いた……。こうもそっくりな人物がいるとは」


 ふたりを見比べると、ノキアの髪が若干青みがかっているのと、目の色が違うだけ。

 それ以外では、ほぼ見分けはつかない。

 

 四人は、人目につかない場所へ移動し、今までの経緯をセイラに話した。


「見間違えた!? ばっかね~、全然服装が違うじゃない!」


 セイラは、スタンを罵倒した。


「いや、しかし、こうもそっくりな人間がいるとは思わないだす……」


 スタンも、主人であるセイラの前ではたじたじであった。


「それもそうね。ふぅーん……」


 セイラは、ノキアをじろじろ見つめて自己紹介した。


「わたし、セイラ。あなたは?」

「私は……ノキアだ。こっちは、一緒に旅をしているデュラン」

「旅人なんだぁ。いいなぁ、わが道を行く! って感じで。あ、こいつはお目付け役のスタン。ヘマばっかりするけど、結構いいヤツよ」

「ひどいだす……今回のことだって、元はと言えば姫様が迷子になったせいで……」

「なんか言った?」


 ぶつぶつと言うスタンに対し、セイラが睨んだ。


「いえ、別に……」

「うっふっふっふっふ。わたし、いいこと考えちゃった」

「……なにか、嫌な予感がするだす」


 セイラは、きらきらした瞳でくるりと振り向いて、ノキアの手を取る。


「ねえ、ノキア。あなた、1日王女様体験、してみない?」

「はあ!?」


 ノキアとデュランが、同時に叫んだ。

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