10・決めたこと
数日後、セイラの意識が戻り体調も回復し、ノキアは王女生活から解放された。
しかし、王女と瓜二つの人間が歩き回るのは禁止され、眼鏡の変装を余儀なくされた。
そうなれば、ノキアとデュランがここに留まっている理由はなくなる。
明日にでも旅立とうかと相談していたところ、セイラに「もう一日だけ」とせがまれて、一日延期となった。
なんでも、パーティーを開くということなのだが、詳しいことは教えてもらえなかった。
「我々の送迎会、というわけではなさそうですね」
デュランが、考え込む。
「うん。でもまあ、これで変装しなくて済むと思うと、気が楽だな」
「しかし、淋しくなりますね」
デュランの言葉に、ノキアはうつむいた。
「……そうだな」
旅立つということは、別れの始まりでもある。
セイラやスタン、城の人間と別れの時がやって来る。それは仕方のないことなのだが、ノキアとセイラはお互い、今まで同年代の同性の友人がいなかった。そのはじめての友人が、自分と瓜二つの人間であったことが、余計に淋しさを募らせる。
「私、セイラと話してくる」
「ええ、その方がいいでしょう」
女性同士ふたりきりでと、デュランを置いて、ノキアはセイラの部屋を訪ねた。
セイラの部屋の扉をノックすると、少し元気のないセイラが顔を出した。
まだ、完全に体調はよくなっていないようである。
しかしセイラは、いつもの元気を取り戻そうとするように、笑顔でノキアを迎える。
「どうしたの、ノキア?」
「二人で、話がしたいと思った」
無理に笑顔を作らずともよい、とノキアは胸が痛んだが、黙っておいた。
「お別れ前の、挨拶?」
「そういうつもりではないのだが、その……すまなかった」
数日もの間、意識不明の重態という事態に陥り、ノキアはそのことで自分を責め、悔いていた。
「どうしてあやまるの?」
「おまえを無事に帰してやれなくて……守りきれなかった」
「ノキアは、わたしを守ってくれたわ。そうでなければ、わたしは今ここに立っていないもの」
「しかし」
ノキアは納得できずに否定の言葉を発したが、それを遮るように、セイラが口を開いた。
「ありがとう」
セイラは、微笑を返していた。
ノキアには、礼を言われる意味がわからなかった。
「わたしは、ノキアにたくさん助けてもらったもの。入れ替わってもらったり、自分の危険を顧みずに守ってもらったり。ノキアじゃなければできなかったことだわ」
「でも……」
「だめよ、そんなことを言っちゃ。ノキアは、もっと自信を持たなくちゃいけないわ」
目を伏せるノキアの手を、セイラが取った。
「すまない……いや、ありがとう」
ノキアが言うと、セイラは優しく笑った。
「わたしね、決めたことがあるんだ。それを、明日のパーティーで発表する。ノキアにも、きいてほしかったの」
「決めたこととは、なんだ?」
「明日のお楽しみ。びっくりさせたいの」
セイラは、意味ありげにウィンクした。
「では、明日を楽しみにするとしよう」
「あら? 追求しないんだ?」
「その様子では、教えてもらえそうもないからな」
「うふふっ、ばれちゃってるのね」
「なんとなく、そんな気がしたんだ」
ノキアは、肩をすくめて笑った。お互いのことがなんとなくわかってしまうのは、やはり容姿が似ているからだろうか。
二人は、語り合いながら長い夜を過ごした。