【4話 CAFE&BAR『ショパール』】
1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!
CAFE&BAR『ショパール』は【こだわり】の店が連なるエスタ通りの一角にある。深緑の外壁に濃いウォルナット材の看板。黒色のカフェオーニングには、『ショパール』の文字と猫の絵。
昼はCAFE、夜はBARのスタイルの『ショパール』は、開店準備に追われていた。
路地を抜けた豆田達は追手を警戒しながら『ショパール』の扉を開けた。
「あの。お客さん! まだ開店前ですよ!」
無理やり店内に入ろうとする豆田の前に、エプロン姿の店員が立ちはだかった。
「大丈夫だ。気にするな」
「いや、こっちが気にしますって!!」
豆田は店員の横をすり抜け、ズカズカと店の奥に入る。シュガー達もそれに続いた。
昼時でも店内は薄暗い。ぶら下がった裸電球とジャズのBGM。深緑色の壁に、濃いブラウンのインテリア。この『ショパール』の店内は、いわゆる『大人な空間』であった。
店の奥にあるBARカウンターでグラスの手入れをしている長髪細身のバーテンダーが向かってくる豆田に気付き、そっとグラスをカウンターに置いた。
「やー。豆田さん。開店前に珍しい。今日はどんなご注文で?」
「早い時間にすまない。アイスコーヒーのマルゲリータ乗せを!」
(え? どんな飲み物?!)
エレナが想像力を働かせている間に話は進む。
「かしこまりました。緊迫した状況なのですね」
「いや、いつも通りだ」
バーテンダーはクスリと笑うと、壁面の収納に飾られているボトルの一本を右に回した。
カウンター横の深緑色の壁が『ガタッ』と振動すると、その一面が浮かび上がり左にスライドする。その奥から隠し扉が現れた。
「どうぞ。お使いください。また必要な物がございましたら、何なりと」
「ああ。そうさせて貰う。エレナ。行くぞ」
豆田はそう言うと、アンティーク調の隠し扉を開き中に入った。少し身をかがめ警戒しながらエレナは恐る恐る後に続く。
「豆田探偵。ここは?」
「あー。ここは私たちの秘密の仕事場だ」
「秘密の仕事場?」
「まー。見ていたら分かる。ここだ」
短い通路の先にある扉を開けると、そこには小さな部屋があり、沢山のモニターがテーブル上に並んでいた。
「じゃー。シュガー。頼んだ」
「豆田まめお。任せて」髪を後ろで束ねたシュガーはテーブルの中央にあるデスクチェアーを引き、そこに座った。
「じゃー。まずは、GPS発信機をエレナちゃんとハンスさんが持っているか確認するわね」
「え? シュガーさんが確認出来るんですか?」
「ふふ。スグだからちょっと待ってね……」
モニターの電源をいれ、手持ちのノートパソコンと接続する。8台のモニターに周辺の地図、気象データ、為替、どこかの建物の内部構造などが映し出された。
「凄い! このモニターすべてをコントロールしているのですか?」
「ああ。凄いだろ? シュガーは凄腕のハッカーなんだ」
「ハッカーですか?」
「そうよ。エレナちゃん。もうすぐだからね……」
「シュガー。どうだ? いけそうか?」
「大丈夫よ! よし、これね。GPS発信機だけど、エレナちゃんじゃなくて、ハンスさんに仕組まれているわね」
「え? 私ですか?」驚いたハンスは慌てて服を脱ごうとする。
「ああ。ハンスさん。服は脱がなくて大丈夫よ。今からGPSデバイスをハッキングして、位置情報を改ざんするから」
「シュガー様。そんなことが簡単にできるのですか?」
「言っただろ。シュガーは凄腕だと」
豆田は自分が褒められたかのように何故かとても自慢げだ。
「よし。これでGPSの位置情報上では、ハンスさんは中央通りにいる事になったわ」
「シュガー! 流石だ!」
「ほう。シュガー様。もう大丈夫なのですか……」
「豆田まめお。ハンスさんのGPS発信機は、今のうちに取り除く?」
「いや、私に考えがある。そのままにしておこう」
「じゃー。豆田まめお。あと……。これはどうするの?」
シュガーはそう言うと、一つのモニターを指差した。豆田は人差し指を口元に持っていき『シィー』の合図を送った。
「……。分かったわ。じゃー。今から作戦会議ね」
「そうだな。シュガーのお陰で、時間を稼げたが、敵もバカじゃない。急いだほうが良さそうだ……」
「豆田探偵。分かりました」
エレナは覚悟を決めた表情を浮かべながら頷いた。
「じゃー。豆田まめお。何から調べる?」
「そうだな……。まずは半月前、シュルツ財団の宝物庫に窃盗団が入った時の映像を出せるか?」
「OK。待っててね……」
「あのー。その画像は消去されていて、何も手がかりがないんですが……」
「エレナ。そう思うだろ? だが、シュガーにかかれば……」
「豆田まめお。復元できたわ」
「うそ!! シュガーさん凄い!!」
「だろ?」やはり豆田はとっても自慢げだ。
「じゃー。豆田まめお。そこのモニターに映すわね」
「ああ。頼む」
消えていたモニターの1つが点いた。そこにシュルツ財団の宝物庫内の映像が映し出された。宝物庫内の静止画のような映像に突如人影が映る。
「こいつらだな……。2人組か」
「1人は、凄い筋肉ね。巨大な前腕。もう1人は、小柄な男ね」
「あ。シュガー。こいつ見たことがあるぞ」
豆田はそう言いながら、モニター上に映る人物を指差した。
「え? この小柄な方の男?」
「ああ。先程、クライス刑事が持ち込んだ映像に映っていたヤツだ」
「え? 豆田がマスクを被っているっていっていた人物? どうして分かるの?」
「ん? どう考えても同一人物だろ? この右の内側側副靭帯を痛めている歩き方に左の骨盤の歪み。それに胸椎5番からのカーブ」
「それだけで、同一人物と言えるの?」
「いや。それだけではない。さらに、歩行時に右足に体重を乗せている時間。呼吸の深さ。どれをとっても全く同じだ」
「はー。私には分からないけど、絶対同一人物なのね?」
「ああ。そうだ。と、いう事はだ。2つの事件を起こしていて、尚且つ、まだ多額の資金が必要な状態だと言えるな……。この犯人グループがエレナを誘拐しに来たのか?」
「豆田まめお。犯人に心当たりはあるの?」
「いや、私には全くない……。エレナはどうだ?」
豆田とシュガーのやり取りに、呆気に取られていたエレナは、急な質問に一瞬固まったあと、考えながら話し始めた。
「えーっと……。私のことを知っていて、多額の資金が必要な人ですか……」
「そうだな。少なくとも、まだ目標金額に足りていないようだ」
「お嬢様。もしかすると……」
ハンスは、おもむろに口を開いた。
「シュルツ財団の化学部門の方ではないでしょうか……。この前の総会で予算を打ち切られております。それに宝物庫の場所を知っていて、私にGPS発信機を取り付けられたという事からも、内部の人間による犯行の可能性が高いかと……」
「爺や。内部の人間を疑っているの?!」
「シュガー。とりあえず、その可能性で当たってみてくれ」
声を荒げたエレナを無視して豆田は、冷静にシュガーに指示を出した。
「豆田まめお。分かったわ。じゃー。まずこのひと月の間の電力消費を見てみるわね……。化学部門……。ミュンヘンの北、郊外ね」
シュガーは凄まじいスピードでパソコンを操作し、データをかき集める。
5~6分の作業の後、シュガーの手が止まった。
「豆田まめお。ビンゴよ。北の施設内の消費電力が2週間前から莫大に上がっているわ」
「そうかー。エレナを襲いに来た連中は、ここの施設の奴らで間違いなさそうだな……。手に入れた資金を使い、急いで何かをしていると考えた方がいいだろう」
「そんな……。内部にそんな犯罪を起こす人がいるなんて……」
エレナの瞳が潤む。ハンスはエレナにそっと寄り添った。
「豆田まめお。どうする? 今から誘拐犯を捕まえにいく?」
「いや、状況的には、そいつらが犯人だろうが、まだ証拠はない。それに私たちへの依頼はブランケット探しだ」
「確かにそうね……」
「シュガー。しかし、いま一番大事な事はそれじゃない!」
「え? 何? 他に何かあったっけ?」
あまりに真剣な豆田の表情を見て一同に緊張が走る。
「早くコーヒーミルの画像が見せてくれ!」
「え? えー?」エレナは、(こんな時に?!)と、ツッコミそうになるのを何とか堪えた。
「はぁー。豆田まめお。相変わらず、コーヒーが中心ね」
「いや、シュガー。いつもより大人しく待っていた方だ!」
「はいはい。そうね。ごめんね。エレナちゃん。画像探してくれる?」
「はい。あの、早急に探します」
「豆田まめお。私、脳が疲労したわ……。甘い物をお願い」
「了解。では、買い物ついでに、コーヒーも淹れてくる」
豆田は、そう言うと隠し部屋から出て、豆田はCAFE&BAR『ショパール』の店内に向かって行った。
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