【25話 戦いのあと】
1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。
研究エリアのシステムをハッキングしたシュガーによって、施設内の実験装置は次々と自爆し始めた。『LPビル』全体がその爆発によって大きく揺れる。
野外駐車場まで退避したダリーは、エレナを担いだままそれを眺めていた。
「ビルが崩れていく……」
けたたましい程の爆発音が、辺りに響いていた。気を失っていたエレナだがその音で目覚めた。
「ダリーさん……? ここは?」
「目覚めたか。ここは『LPビル』の野外駐車場だ」
「え? あの燃えているのは?」
「あれが『LPビル』だ。シュガーさんがやってくれたんだろう」
「あ!! 爺やは? 豆田探偵と、シュガーさん?! それにワーグナー博士も!」
エレナは急に取り乱し、ダリーに詰め寄った。
「落ち着いてくれ! 爺さんは無事だ! 応急処置をして、そこのパトカーの中にいる」
その言葉を聞くのと同時にエレナは、パトカーに向かって駆け出していた。
「爺や!! 大丈夫?」
「エレナお嬢様。わたくし何とか無事です。それより豆田様がまだ……」
「まだ、あの中にいるの?」
エレナは、『LPビル』を見つめながら、胸に手を合わせ祈った。
***
「シュガー! 諦めろ! もうすぐコーヒーが冷める! 時間がない」
「嘘でしょ?! 豆田まめお。ここ17階よ! 2階から飛ぶのとは訳が違うわ!」
「ははは。それは問題ない。コーヒーソード!!」
『こだわりエネルギー』から、コーヒーソードを作り出した豆田は、その剣先を窓ガラスに刺し、人が通り抜けられるほどの穴をくり抜いた。
「さー。覚悟はいいか? コーヒーウイング!!」
コーヒーカップから浮かび上がった『こだわりエネルギー』は、薄く延ばされハンググライダーのような形に変わった。豆田は毛布にくるまったポロッポをシュガーに渡す。
「豆田まめお。もう一度、確認させて!」
「ん? なんだ?」
「コーヒーウイングって、こんな高いところから飛べるの?」
「んー。飛ぶと言うより、遠くに落ちる」
「そうよね……。飛ばないわよね。耐久力は大丈夫なの? 途中でコーヒーが冷めない? え? ちょ、ちょっと待って! いやーーーー!!!!」
豆田は、後退るシュガーを右手で抱き、『LPビル』17階の窓から飛び出した。シュガーの叫び声が響く。
***
『LPビル』の上層階が完全に崩壊し、風に流された埃と焼けた匂いが辺りに漂う。
「豆田探偵……。シュガーさん……」
涙を浮かべたエレナは、堪らず視界を地面に移した。
「ん? エレナ嬢。あれは?」
「え? どこ?」
「上だ! なにか飛んでいるぞ!」
「ハンググライダー? え?! うそ!! 豆田探偵!!」
『LPビル』の炎で明るくなった夜空の中、上空から旋回しながら降りてくるハンググライダーの姿が見えた。
「豆田探偵!!!!」
満面の笑みを浮かべながらエレナは大声で叫んだ。
「エレナ!! 無事か? すまない! その辺りに着地する。退いてくれ!」
「豆田まめお!! ちゃんと着地してよ!!」
「あ! コーヒーが冷めた」
「?でしょ? きゃー!!」
豆田達は、クライス刑事が乗るパトカーのボンネットに着地した。衝撃でボンネットがへこんだ。
「豆田探偵!! シュガーさん!! ご無事で!!」
「ああ。何とか上手くいった。着地がもう少し上手くいけば良かったが……」
「もう! 豆田まめお! ギリギリじゃない!!」
「はは。まー。結果は完璧だ!」
胸を撫でおろしたシュガーを見ながら、豆田は楽しそうに笑った。
「あの……。豆田探偵。その……。『ワーグナー』博士は……」
帽子を被り直した豆田はエレナの頭をポンポンと叩いた。
「エレナ。無事に依頼完了だ。ワーグナー博士の野望はラボと共に消滅した」
「豆田探偵! 本当にありがとうございます!」エレナは深々と頭を下げた。
「だが、残念ながら、ブランケットは見つからなかった……。すまない……」
「いえ……。ブランケットを探そうとしたお陰で、豆田探偵とシュガーさんに会えて、ワーグナー博士の計画を事前に阻止出来ましたので、それだけで十分です」
「エレナちゃん。ごめんなさいね。どんなデザインかだけでも聞いていたら良かったんだけど……」
「いえ、お心だけで嬉しいです」
「エレナ!! もう売りに出されているだろうから、それを探し出せばいい」
「そうですよね……。あのビルの中にはあるはずがないですよね」
「ああ。だから気を落とすな。ちなみにどんなデザインだったんだ?」
「トルコ絨毯のような柄の赤いブランケットなんです」
「へー。エレナちゃん。こんな感じ?」
シュガーはポロッポを包んでいる毛布をエレナに見せた。
「あ! そうです! 丁度、こんな感じで! って、あれ? もしかして?」
慌てながらエレナは、シュガーの持つ毛布を受け取った。ポロッポが地面に落ちる。
「これです!!! これがお母さんのブランケットです!! ほら、見てください! ここに私の名前が!! うぇぇーーん!!!」
エレナはブランケットを抱きしめながら、大声を上げ泣き出した。
「エレナお嬢様。良かった。本当に良かった」
パトカーから降りていたハンスも涙ぐみながら、エレナの肩を優しく抱きしめた。その傍らには、爆睡したままのポロッポが転がっている。
***
崩壊した『LPビル』周辺は、沢山のパトカーと消防車が詰めかけ、騒然としていた。
クライス刑事達は現場を収拾するために、急いで『LPビル』に向かった。
エレナとハンスは、新たに訪れた警官たちに事情を説明しているようだ。
「さ、あとは任せて帰るか!」
豆田とシュガーは、気配を消し、さり気なく移動する。
「豆田まめお。お疲れ様。上手く事件が解決して、良かったわね!」
「ああ。良かったが流石に疲れた」
「ホント。クタクタよね」
「帰って癒しのコーヒーをのんびり飲みたいところだ」
「私は甘いケーキを食べたいわ」
帽子を被り直した豆田は大きく伸びをした。
「あ!!」
「どうしたの?」
「忘れていた……。窓ガラスが割れたままだ……」
「あー!! えー。まさか今から……」
「帰って掃除だな」
「えー。流石につらいわ」
シュガーは、ガックリと肩を落とした。
「よし! じゃー。とりあえず現実逃避して、何か美味しい物でも食べに行くか!」
「賛成!! わたし、デザートのケーキが凄く美味しいお店を見つけたの! そこでいい?」
「そうですね。シュガーさん。それはわたくしでも食べられますか?」
「「ポロッポ!!!」」
シュガーの肩にいつの間にかポロッポが止まっていた。
「豆田さん! 依頼!!」
「はー。ポロッポ。ある意味流石だ。とりあえず店に入ったら、話を聞いてやる」
「豆田さん!! ありがとうございます!!」
「やれやれ、まだまだ長い一日になりそうだ」
苦笑いをした豆田は、帽子を被り直し、冷え切ったコーヒーを一口飲んだ。
夜空には綺麗な三日月が輝いていた。
完
ご覧いただきありがとうございます!
「面白い!」「続き読みたい!」と、思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!




