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【23話 巨大生物『ワーグナー』】

1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!

 目覚めた時、その視界は緑色の溶液で満たされていた。


(ああ。そうか……。私はもうヒトではないのだな……)


 自身の左手と尾を視界内に移動させ、その姿を確認する。


(おお。素晴らしい。この爪。そして尾の針。オブトサソリだ。完璧ではないか……。どれ、背中は……)


 ワーグナー博士は背中を丸め力んでみる。ケツァルコアトルスの翼に神経が通っているのを感じた。


(私はついにケツァルコアトルスの翼を手に入れたのだな。フハハハ。そして、この強靭な顎! 今すぐ鏡で見られないのが残念だが……。ふむふむ。両翼を動かす腕と尾の操作に慣れるまで、少しかかりそうだが……。まー、いい。あの帽子男をグチャグチャにしてから、じっくりと検討しよう……)


 思考中に帽子男の事を思い出したワーグナー博士は、急に込み上げた怒りに身を任せ円柱ガラスを殴った。厚さ1メートルの強化ガラスは、オブトサソリの爪に簡単に打ち破られ、ガラスがフロア中に散乱した。


『グオオオオオオオ!!!!』


 雄叫びと共に円柱ガラスから頭を出したワーグナー博士は、周囲を観察する。


(ほう……。あの広い17階の吹き抜けが、狭く感じる……。私は巨大生物になったのだな……)


 巨大混合生物となったその身を外に出すと、身体を振り、まとわりつく緑色の液体を払った。フロア中の壁に粘り気のある液体が、『ベチャリ』と、へばり付く。


(飛行テストはしておくべきだな……)


 ワーグナー博士はケツァルコアトルスの腕に力を込め、翼を羽ばたかせる。フワリとその巨体が宙に浮いた。


(十分な飛行能力はありそうだ。帽子男を始末して、すぐシュルツ総裁を抹殺しよう。そして、この街で一通りの能力テストをしたのち、某国に亡命するとしようか……)


 ワーグナー博士はまだ慣れないティラノサウルスの眼球を動かし、17階フロアの状況を確認する。


(どれだけ寝ていたのだ? まだ帽子男が近くに居ればよいが……。ん? 匂うぞ! そうかティラノサウルスの嗅覚か! 人間の時とは比にならない。コーヒーの匂いがプンプンしよる)


『グオオオオオオオ!!』

『出てこい!! 帽子男―!!!!』


 ワーグナー博士の凄まじい雄叫びが『LPビル』をガタガタと揺らした。


***


「凄い咆哮。ワーグナー博士が目覚めたの?」


 不安な表情を浮かべながら、エレナは揺れる天井を見てそう言った。


「エレナさん。どうやら、恐竜さんは豆田さんを探しているみたいですね」

「ポロッポさん! 分かるの?」

「ええ。わたくし、鳴き声の『こだわリスト』ですから!」

「凄い! 恐竜語も分かるのね!!」

「ええ。どうやらそのようです。わたくし自身の才能が本当に恐ろしい……。最早、天才としか言えないのではないでしょうか?」

「はは……。そうね」この状況で胸を張るポロッポに、エレナは呆れながら愛想笑いで答えた。


『グオオオオオオオ!!!』再度大きな咆哮が聞こえた。

「ポロッポさん! これは何て?」

「これは、ですね……。そこにいたのか帽子男! って、言っていますね」

「豆田探偵とワーグナー博士の戦いが始まるのね……」


 受付に座り黙々とパソコンを操作していたシュガーの手が止まった。


「エレナちゃん。施設を破壊する準備が出来たわ。もう退避した方がいいわよ。ダリーさん。エレナちゃんが怪我しないように外まで連れて行ってくれる?」

「え? シュガーさんは?!」

「私は残るわ。ちゃんと起動するか見届けないといけないし、それに豆田まめおを1人にする訳にはいかないの……。アシスタントだしね」

「シュガーさん……。じゃー! 私も残ります!! 私にはその責任があるし……」

「そう? 嬉しいけど、ごめんね」


 シュガーは、さりげなくダリーに視線を投げた。その意味を察したダリーは、エレナの肩を叩く。振り返ろうとしたエレナ首元に手刀を落とし、その意識を飛ばした。


 崩れ落ちるエレナの身体を素早く支えたダリーは、その身体を肩に乗せた。


「シュガーさん。コレで良いか?」

「ごめんね。嫌な役をやらせて……。悪いけど、時間がないの。すぐに退避して!」

「ああ。分かった。後は任せた」

「ええ。エレナちゃんが目覚めたら謝っといてね」

「ふっ。それは自分で言ってくれ」


 そう言い残してダリーは、エレベーターに消えた。


(さてと、後は祈るだけね……)


 ダリーを見送ったシュガーは、パソコンに映る17階の映像を眺めた。そこには巨大生物と対峙する豆田の姿が映っていた。


***


「デカいな。さて、どうやって仕留めたものか……」


 17階に上がった豆田は、柱の影に身を隠しながら、唸り声をあげるワーグナー博士を観察していた。『こだわりチャージ』した身体からは黒い湯気が上がっている。


「ティラノサウルスの身体に、オブトサソリの爪と尾。そして、ケツァるこる?の羽! に、ワーグナー博士の脳味噌か。すべてが上手く機能するなら、強敵だな……。とりあえず、毒を警戒しつつコーヒー銃で様子を見てみるか」


 コーヒー銃を構えた豆田は、柱の影から意を決して飛び出した。照準を『ワーグナー』左爪に向けて、引き金を引いた。弾丸は一直線に走り、爪に着弾するが簡単に弾かれてしまう。


「無傷だと?! あの爪、相当硬いのか?!」


『グオオオオーーー!!』ワーグナー博士の雄叫びがフロア中に響く。


 豆田を発見した巨大混合生物『ワーグナー』は、その巨大な尾を力いっぱい振り回す。その尾が当たる度に、コンクリート製の壁は『ゴボリ』と削られていく。


「まだ制御出来てないのか?! 大振りで隙だらけだ」

『グオーー!!』

「完全に身体に馴染む前にやる! コーヒー双銃!!」


 豆田の持つコーヒーカップから、『こだわりエネルギー』が浮かび上がり、もう一丁の銃を作り出した。両手に銃を構えた豆田は、巨大混合生物『ワーグナー』に向かって、弾丸を乱れ撃つ。


『グオオオオーーー!』

「そんな攻撃! 効きもせぬわ!!」

「くそ! 全く効いてないのか?! ん? 何を話しているのか分かる!」


 困惑する豆田の左肩に生温かい物体が触れた。


「豆田さん。わたくし天才ポロッポが、通訳してあげますね」

「ポロッポ! 逃げなかったのか?」


 肩にとまったポロッポを乗せたまま、豆田は『ワーグナー』の攻撃を躱す。


「あのですね。先程シュガーさんのお手伝いをした時に約束したのですが……」

「何を約束したんだ?」

「豆田さんに、わたくしの依頼を聞いて貰える事になりました」

「ん? そうなのか?! 聞いてないぞ!! って、ポロッポ!! その話は今じゃ無い!!」


 跳躍する豆田の足先ギリギリを、『ワーグナー』の巨大な尾が横切った。ポロッポは前脚に力を込め、豆田のシャツにしがみつく。


「豆田さん! しっかり避けて下さい!」

「煩い! 黙ってろ!! 集中できない!」

「あ!! 豆田さん! 次、右からですよ!」

「あーー。もうこの大変な時に! コーヒーシールド!」


 コーヒーシールドを瞬時に作り出した豆田は、迫り来るオブトサソリの尾を受け止める。が、サソリの針が、シールドを『ズブリ』と突き抜け、豆田に迫る。ポロッポはその瞬間に豆田の肩から飛び立った。


『ワーグナー』は受け止められた尾にさらに力を込める。毒が滴る針先が豆田の当たる直前、豆田は急に力を抜き、尾のチカラに身を任せた。豆田の身体はぶっ飛ばされ、壁にめり込んだ。


(くそ。なんとか毒は回避できたが、一撃一撃の力が尋常じゃない! オブトサソリの尾と爪だけでこれだ……。この攻撃を掻い潜っても、次はティラノサウルスの噛みつきが待っている。で、現状ヤツは無傷。何か策を練らないと、コーヒーが冷めてしまう!)


 身体の半分が壁にめり込んで停止する豆田の前にポロッポは、パタパタと訪れ、心配そうな表情を見せた。


「豆田さん。そのボロボロの状態で、わたくしの依頼を受けられます?」

「くそ! この鳩め! 自分のことしか考えてない! シュガーが言ったのは、話を聞くだけだろ?! 依頼を受けるとは言ってないはずだ!」

「何ですと?! そんな言い逃れを!」

「違うか? 思い出してみろ!」

「……。忘れました……」

「とりあえず、話は聞くが、すべて終わってからだ!!」

「な!!」


 壁から立ち上がった豆田は、右手のコーヒー銃をソードに持ち替えた。


(工夫がいるな……。ティラノサウルスの本体は、骨格と筋肉がある分、動きが読みやすいが、あのオブトサソリの尾と爪が厄介だ。今は未だ根本を見れば、攻撃のタイミングは読めるが、ワーグナー博士があの巨体に適応すると、手に負えなくなるぞ)


 豆田は覚悟を決め、フロアを疾走し始めた。

 巨大生物『ワーグナー』は、ティラノサウルスの嗅覚と視覚をフル活用し、豆田の動きを補足し続ける。


『素晴らしい!! ティラノサウルスの嗅覚と視力!! どちらもヒトと比べ物にならないほど鋭い! こうも敵の動きが手に取るように動きが読めるとは! ホレ、ここだ!!』


『ワーグナー』の放ったオブトサソリの尾が的確に豆田を襲う。豆田はその軌道をコーヒーシールドでずらす。尾は床にめり込む。豆田はそれを足場にし、一気に『ワーグナー』の身体を駆け上がる。


『登ってくる?! この神聖な身体を登ってくるだと!! 許さん!!』


 巨大生物『ワーグナー』は尾をブンブンと回しながら、ケツァルコアトルスの強大な羽を羽ばたかせ宙に浮く。豆田は堪らず、尾から飛び降りた。

 17階の吹き抜け空間に、巨大混合生物『ワーグナー』は浮遊する。


『思いの外、帽子男はやるようだが、この距離では何も出来まい。そろそろ身体にも慣れてきた事だ。データも十分とれた。さて、あとは一気に仕留めるか……』


 巨大混合生物『ワーグナー』は、冷ややかな視線を豆田に向けた。



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