【21話 豆田のチカラ】
1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!
「ふぉふぉ。流石、メキシコサラマンダーの再生能力をさらに増幅させた細胞を移植しただけのことはある……。あの2丁拳銃の連射攻撃からでもすぐに再生しておる。あとは帽子男が疲れ切るのを待つだけか。簡単なゲームだ」
ワーグナー博士は、余裕の笑みを浮かべると、しゃべる鳩の存在を思い出した。トラと鷲の混合生物『トラワシ』を呼びつけ座らせたワーグナー博士は、その上にドカッと座った。
「しかし、あの鳩はどのようなメカニズムで人語を話すのだ? アレを応用すれば、人語を話す生物が量産できるのではないか? まさに私が望む世界が手に入る!! モンスターが溢れかえる世界。私はそのモンスターを引き連れた魔王!! 素晴らしい世界だ!!」
希望に満ちた眼差しを天井に向け、ワーグナー博士は両手を広げた。
「あの鳩を手に入れられるなら、ここでの一件は、プラスに考えても良い。しかし、まだ『カメレオマン』は鳩を連れて来ないのか? どうなっている?」
ワーグナー博士は、豆田と『メキサラマン』の戦いを眺めながら、再度『カメレオマン』に遠隔で指令を送った。
***
ダリーの肩に止まるポロッポは、瞳を閉じ、周囲の音に集中していた。
(こいつ……。寝ているんじゃないだろうな……)
ダリーは余りに静かに集中するポロッポを見て、そう思った。
『グ―グーグー』
(やっぱりか!)
「ポロッポ! 起きろ!! 敵を探せ!!」
「? あー。ダリーさん。もう外はすっかり暗いですよ。鳥目の私には……」
「あと少し頑張ってくれ! 敵はどこだ?」
「あー。あそこです」
面倒くさそうにポロッポは、羽で天井を指差した。
「そこか!!」
ポロッポを信じ、その指差した方向に向かってダリーは、素早く銃の引き金を引いた。
弾がめり込んだ音がしたあと、『ドサッ』と、天井から何かが落ちた。しばらくすると『カメレオマン』は、その全身緑色の姿を現した。
ダリーの放った弾丸が綺麗に命中したようで、『カメレオマン』は、倒れたまま動かない。
「やりましたね! ダリーさん。わたくしのお陰ですね!」
「ああ。そうだな」
「シュガーさん! わたくしのお陰です!」
「はいはい。そうね……」
目の前までパタパタと飛んできたポロッポをシュガーは、適当にあしらいながらパソコンの操作を続けた。
「よし!! これで『LPビル』内にいた全員の退避が完了したわ!」
満足気な溜息を洩らしたシュガーは、物陰から立ち上がると豆田に向かって叫んだ。
「豆田まめお!! もういいわよ!!」
その言葉を受けた豆田は、口角を上げ、一度後方に跳躍する。
「さー。本当の『こだわり』ってやつを見せてやる! こだわりチャージ!!」
豆田の2丁拳銃がドロリと溶け、液体状の『こだわりエネルギー』に戻る。
フワリと浮遊する液体は、コーヒーカップの上に集まり、40センチの美しい球体を形成したあと、中央からパカリと割れた。その裂け目から淡い光がフロアに漏れ出る。
「なんだ? 何が起こっているのだ? わたしの知らない現象か?」
ワーグナー博士は、思わず立ち上がり、その光景に見入ってしまった。
黒い球体が割れた中から、淡く光るコーヒーカップが現れた。
「コーヒーカップ? そうか! ヤツはコーヒーの『こだわリスト』か!」
淡く光るコーヒーカップを手に取った豆田は、それを口に運んだ。
「この『こだわりの一杯』最高だ! こだわりが身体の隅々まで行きわたる」
「な、なんだ? 帽子男の身体が発光している! 何が起こっているのだ?!」
『こだわりエネルギー』を体内に直接摂取した豆田の身体は、淡く発光し、蒸気のような物がその身体からフワリと上がる。
「どんな能力かは知らんが、今のうちに! やれ! 『メキサラマン』!!」
ワーグナー博士の指示を受けた『メキサラマン』は、身を低くし構えた。空手の型のようなポーズは、サンプルとして身を捧げた男が長年培ってきたものであろう。
その構えは、熟練者のそれであった。
「やれやれ、ゆっくり相手をしてやりたいところだが、まだ敵が多い。悪いが一瞬で終わらせる! コーヒーソード!!」
「ソードだと?! 先ほどまでの再生能力を見ておらんのか? 剣による切り口など、すぐに再生するわ!!」そう咆えたワーグナー博士だが、その表情には畏怖の色が見えた。
作り出したコーヒーソードの剣先を『メキサラマン』に向けた豆田の瞳が鋭く光る。『メキサラマン』は腰を深く落とし、正拳突きを打つべく構えた。
一瞬の静寂のあと、『メキサラマン』は後ろ足で地面を蹴り、豆田との距離を一気に詰める。瞬く間に豆田の目前まで迫った『メキサラマン』は、渾身の力を込め、右拳を突き出した。豆田はそれを紙一重で躱しつつ、コーヒーソードを横一文字に振り切った。
『メキサラマン』の胴体に亀裂が入った。
「バカめ!! その程度の攻撃など、すぐに再生するわ! やれ! 『メキサラマン』!」
帽子のツバを引いた豆田は、小さな溜息を一度ついた。
「残念ながら、もうこの生物は再生しない」
「はぁ?! 何を言っているんだ!! 動け! 『メキサラマン』!!」
ワーグナー博士は、後退りしながら『メキサラマン』に指示を出し続ける。が、『メキサラマン』は再生することなく、その上半身を胴体から落とした。
「な?! なぜ再生しないのだ!!!!」
「ワーグナー博士。生物の『こだわリスト』だろ? 生物の再生メカニズムくらい分かるだろ?」
「何だと?! どういうことだ? 前駆細胞の増殖プログラムに関与したのか? まさか?! 斬撃の摩擦でシグナルタンパク質が熱分解したというのか?! ありえん!! そんな摩擦温まで達する剣速! 化け物だ!!」
「はは。解説ご苦労様。ま、そう言う事だ」
「ひぃー。く、来るな!!」
怯え切ったワーグナー博士は、残された混合生物達に自身を守るように指示を出し、フロアの奥に逃げだしていった。
残された混合生物の集団は、豆田に向かって一気に襲い掛かかってきた。
「コーヒーが冷める前に片付ける! コーヒーマシンガン!!」
コーヒーソードは液体に戻り、コーヒーカップ上に移動する。
集まった『こだわりエネルギー』は形状を変え、マシンガンとおびただしい数の弾丸に変わった。
「さー! 殲滅するぞ!!」
豆田の放つマシンガンの弾丸によって、混合生物達は次々と倒されていった。
***
「あの探偵。凄まじいな……」
豆田の攻撃を遠目で見ながらダリーはそう言った。
「でしょ? あの状態の豆田まめおなら、大抵の敵は大丈夫よ。それより、逃げたワーグナー博士が気になるわ」
「もう捕まえればいいだけじゃないのか?」
「いい? 人間は追い詰められると、何をするか分からないものなの……。油断すると危険だわ」
「はぁー。そんなものなのか?」
「そうよ。急いで17階から上の監視カメラをハッキングするわ」
髪を後ろでまとめたシュガーは、パソコンを操作し、ワーグナー博士の管轄エリアにハッキングを仕掛けた。
「あのー。シュガーさん。まだ帰らないんですか? もうわたくし、眠くて眠くて」
「ポロッポ。今、忙しいの! そんなに帰りたいなら、1匹で帰って!」
「何と?! この功労者であるわたくしに帰れと?! わたくしがいなかったら、皆さん、あの『消える敵』にやられていたと言うのに! お礼も無く、帰れ! と!」
「あーー。もう分かったわ! ポロッポ! じゃ。この戦いが終わったら、あなたの依頼を豆田に頼んでみるわ! コレでいい?」
「おお!! シュガーさん! それは本当ですか? それならわたくしもう少し頑張れます!」
「じゃー。とりあえず邪魔しないでね! エレナちゃん! ポロッポの面倒を見てくれない?」
「何ですと?! 面倒?」
目を見開いたポロッポは、またシュガーに食ってかかろうとする。エレナは、慌ててポロッポに話しかけた。
「ポロッポさん! 豆田さんにどんな依頼をしたいの?」
「ん? 聞きたいですか? では、話しましょう!」
ポロッポの脈絡のない話が続いた。
「その時ですね。わたくしはこう言ってやりました! お前のヘソはどこにある?! って! じゃーね。そいつは俺は鳥類だからヘソはない! って、言い返すんです!」
「えーっと。まだ話が見えないですけど、つまりポロッポは何を依頼したいの?」
「あれ? 伝わりませんか?」
「ええ。残念ながら、全く……」
「あれー? あのー。簡単に言いますと、わたくし、わたくしにしか出来ない仕事がしたいのです!」
「えー。それは素敵! 沢山あるんじゃないですか?」
「そう思いますか? では、エレナさん、雇って貰えますか?」
「ん……。あの、それはやっぱり豆田さんに依頼するのだし……。私が雇ったら、依頼出来ないでしょ?」
「……。そうですね!」
エレナは上手く誤魔化せたと、心の中でガッツリポーズをした。
「そ、そうだ! シュガーさん!! 上の階のハッキング終わりましたか?」
「ええ。無事に出来たのだけど、大変な事になったわ」
「え?」
「コレを見て!」
シュガーはパソコンのモニター画面をエレナとダリーに向けた。
「え?! こんな物が!!」
「嘘だろ?! 正気じゃない!!」
エレナ達の顔から血の気が引いた。
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