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【20話 探り合い】

1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!

 物陰から飛び出たポロッポの叫び声を聞いたワーグナー博士は、呆気に取られていた。

 訳の分からない言葉を叫んだあと、あの鳩は人間の言葉を話したのだ。


(なんだ? あの鳩は人語を話すのか? 素晴しい!! 欲しい……。手に入れ解析してみたい……)


 ポロッポの存在は、ワーグナー博士の探求心に火を点けた。


(ここから、脱出するのも大切だが、あの貴重なサンプルには、もう二度と会えないかもしれない……。何としても無傷で手に入れたい……)


 思い切り叫んだポロッポはエレナに、その身体を掴まれ物陰に消えた。


「ほう。エレナお嬢様も、あそこにお隠れか……。では、エレナお嬢様を人質にあの鳩を手に入れるか……」


 ワーグナー博士は、胸ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認した。


「さて、カメレオンとメキシコサラマンダーの細胞を入れた兄弟。名前は何であったか? まー。名前などどうでもいい……。奴らが目覚めるまで、後5分か……。奴らにエレナお嬢様を任せるか……。それまでの間、わたしが帽子男の相手をしてやろう」


 混合生物の集団の最後尾にいたワーグナー博士は、生物を両側に移動させ中央に道を作ると、エレベーターホールに向かって進んだ。


***


 ポロッポの行動をヒントに、豆田は戦いながら深い思考に入っていた。


「ペンギン語が通じない……。言い換えれば、呼びかけに応じない。つまり、反応がない。洗脳されていると考えれば良いか……。ワーグナー博士は生物を操る『こだわリスト』と考えてよさそうだ」


 思考をまとめた豆田はシュガーに視線を向けた。それにすぐ気付いたシュガーは、口の動きで豆田にメッセージを伝える。豆田はそれを目視で確認する。


(クライス刑事達の退避まであと、5分。時間を稼いで……。なるほど、そのあとはアレが使えるか……)


 混合生物の集団からの攻撃が急に止み、奥からワーグナー博士が現れた。


(ワーグナー博士を仕留めれば、生物達の洗脳は解けそうだ……。しかし、それが良いのかはまた別問題だ)視界を混合生物達に向けた豆田は、その種類の多さに嫌気がさす。


(よくこんなに集めたもんだ。飛行タイプが数十匹。逃がせばミュンヘン市内が危ないか……。現状ワーグナー博士の管轄下にある方が安全とも言えるか……。仕方ない。とりあえずは時間を稼ぐ……)


 豆田とワーグナー博士、双方の時間稼ぎが始まった。


「フハハ。いやいや、恐れ入りました。帽子男さん。中々のこだわりをお持ちで」

「そちらこそ、この莫大な生物を操るのは、素晴らしいこだわりで」


 お互いの顔を見て、ゆっくりと笑い合う。


「あなたのお陰で、わたくしの計画が白紙になりそうですよ」

「ほう。私一人の影響で白紙になる計画など、大した計画ではないな」


 ワーグナー博士の額に青スジがメキメキと浮き上がった。


「所詮、低俗な輩にはわたくしの崇高な思考など理解できるはずもありませんね」

「ん? 低俗は貴様だろ? 大の大人が、人様に迷惑かけながら、しょうもない事に『こだわる』な」

「なんだとーーー!!! 私の研究がくだらないと!!」


 ワーグナー博士は時間稼ぎをしていたことをすっかり忘れるほど、怒りがこみ上げる。


「いやいや。その研究はくだらなくない。くだらないのは、お前の思考だ」

「もう、貴様とは会話にもならん! お前たち! やれ!!」


 ワーグナー博士は白衣を振り反転すると、集団の後方まで下がった。そして、混合生物達に『殺せ!』指示を出した。


 ワーグナー博士が目覚めさせた混合生物の集団が一斉に豆田に襲い掛かる。


***


 次々に襲い掛かる混合生物達と戦闘を繰り広げる豆田の様子をエレナ達は物陰から見守っていた。


「シュガーさん。豆田探偵おひとりで。大丈夫ですか?」

「ん? エレナちゃん。豆田まめおは、あれくらいは大丈夫よ。わたし達が助けに行ったとしても邪魔になるだけ」

「凄く、信頼されているんですね」

「まーね。豆田まめおのことは一番近くで見てきているからね。豆田まめおの『こだわり』は、本物よ。安心して。それより、私達は私達の出来ることをしないとね」

「私達にできる事ですか?」

「そうよ。私はハンスさんと、クライス刑事達を安全に、ここから出して、豆田まめおが思いっ切り戦えるようにすること」


 シュガーが操るパソコンのモニター画面には、もうすぐ退避を終える刑事達の姿が見えた。シュガーは、館内のスピーカーから、合成音声を流し、刑事達の行く先を指示しているようだ。


「私は、クライス刑事達が退避したら、この上の階のハッキングを開始するわ。ダリーさん。私達のことを守ってね。あ! そうだ! これ、クライス刑事から預かった拳銃。銃の『こだわリスト』なら、銃がいくつあっても大丈夫だろ。って」

「あ。銃か。そうだな。必要だ」


 ダリーは、その言葉で自身の拳銃の残り弾数が一発もなかったことを思い出し、鼻で笑った。シュガーから拳銃を受け取ったダリーは、その拳銃に『こだわりエネルギー』を流した。


(銃の『こだわリスト』が聞いて呆れる。残り弾数がないのに、エレナ嬢を守るとは良くいったものだ……)


 自身のことを笑ったことでダリーは程よく緊張が抜けた。そして、戦況を改めて確認する。


「刑事達が退避するまで、時間を稼げば何とかなるんだな?」

「そうよ」

「あとどれ位だ?」

「もうすぐ! もう玄関まで来ているわ」

「分かった。俺の命にかけてもその時間は死守してやる! ん? そこだ!!」


 ダリーは、何もない前方の空間に向かって、弾丸を走らせた。


「ダリーさん!! 何するんですか?!」


 目を丸くしながらポロッポは、大きな叫び声をあげた。


「鳩!! 後ろに下がっていろ! 何かいるぞ!!」

「鳩?! 鳩ですと?! ポロッポです!!」

「あー。ポロッポ! そこ! エレナの後ろだ!」


 困惑するエレナの裾を引き、自身の後ろに隠した。


「エレナ嬢。大丈夫か?」

「ええ。大丈夫! 何かいるの?」

「気配を感じたんだ。気のせいではないはずだ」


 エレナは周り中に気を配る。しかし、何も感じることが出来ない。

 ダリーの顔から余裕が消える。神経を周り中に張り巡らせる。


「気のせいか? いや、そんなはずは……」

「気のせいじゃないんじゃない? あの数の混合生物がいるのよ。姿を消せる生物がいてもおかしくないわ」


シュガーはパソコンを操作しながら、そう言った。


「姿を消す? カメレオンみたいにか?」

「可能性はあるってこと……」


 ダリーは怪しそうな場所に向かって弾丸を走らせる。しかし、弾丸が床に当たる音がするだけだった。エレナ達の顔に緊迫の色が見える。


「あのー。シュガーさん。ちょっといいですか?」

「なに? ポロッポ」

「さっきから煩いんですが、静かにして貰えます?」

「普通に話しているだけでしょ! そんなこと言わないの!」

「普通ですか? カサカサ煩いんですが……」

「え? カサカサ?」

「ええ。そこに」


 顔をしかめながらポロッポは、羽で目先の床を指差した。


「ダリーさん!! そこ!!」

「OK!! くらえ!!」


 ダリーが放った弾丸が何かにぶつかり、鈍い音がした。


「ポロッポ! 凄い! どうして分かったの?」

「シュガーさん! わたくし鳩ですよ! 人よりそもそも低い音は得意です。それに忘れてませんか? わたくし、ポロッポは鳴き声の『こだわリスト』ですよ! 聴力には自信があります!」

「じゃー。ポロッポ!! ダリーさんに敵の場所を教えてね」

「お任せを!!!」


 ポロッポはダリーの肩に乗り、偉そうに胸を張った。


***


(シュガーの方にも敵が流れたか? あの銃の『こだわリスト』が善戦しているようだ。さてと、私はコイツの相手だな)


 豆田の目の前には、先程までワーグナー博士の護衛だった兄弟の1人が立ちはだかっていた。

 

『メキシコサラマンダー』別名ウーパールーパーと呼ばれた愛くるしい両生類と、ヒトとの混合生物である『メキサラマン』は、ヒトの身体に、『メキシコサラマンダー』の頭部を乗せたピンク色の生物であった。


 豆田を敵と認識したその個体は、地面を蹴り一気に距離を詰めると、怒涛の攻撃を仕掛けてきた。豆田はそれを紙一重で躱しながら、コーヒー銃の弾丸を放ち続けた。


 コーヒーの弾丸は、着弾した部位を吹き飛ばすが、『メキサラマン』の身体はすぐに再生していく。


(くそ! 何発当ててもすぐに再生してくる。このままでは埒が明かないぞ)


 何度も再生する混合生物『メキサラマン』を前にして、豆田の顔に焦りの色が見えた。


ご覧いただきありがとうございます!


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