【17話 メガロのマスク】
1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!
「エレナお嬢様。私の後ろに! クライス刑事! お嬢様を安全な場所までお願いします!!」
「爺や! 嫌よ! あんな化け物には勝てないわ! 爺やも逃げて!」
小さな子供のように泣き叫ぶエレナと、ハンスの間に身体を入れたクライス刑事は、超高分子量ポリエチレン製の盾を前方に向けた。
「ハンスさん。エレナさんのことは任せてくれ!」
「お願いします……」
ハンスは痛む足を引きずりながら、ネクタイで握ったサーベルを構えた。
「フハハ。ハンス。2週間一緒に過ごした仲ではないか……」
「もう心理戦は無駄ですよ。エレナお嬢様の前では、わたくし動揺いたしません」
「フハハ。果たしてそうかな?」
そう言い終わる前に、メガロはその場から姿を消した。ハンスは精神を集中し、メガロの気配を探る。
「そこです!! 執事流剣術! 差し出す剣!」
ハンスのサーベルが右前方の空間を突き刺す。メガロが切りかかるナイフにそれが当たり、金属音が鳴り響く。
「ほう。これを防ぐか……」
「はい。単調な攻撃ですので、問題ないかと」
「フハハ。挑発か? いつまでその態度でいれるかな?」
メガロは再度素早く動き、空間を縦横無尽に飛ぶ。
「もう、その動きは見切りましたよ!」
ハンスは、ネクタイを巧みに動かし、サーベルを操る。四方八方から迫りくるメガロのナイフを華麗に捌き続ける。
「フハハ。面白い。では、これはどうかな?」
一度立ち止まったメガロは、ネックレスに手をかけ一番右のボタンを押した。ネックレスから薄い膜が現れ、ピエロのマスクを覆っていく。ボコボコと波打った膜によってメガロのマスクは、鬼の形相に変化した。
「これを使うのは久しぶりだ。ハンス。誇っていいぞ」
コートの裏地に取り付けていたハンマーを取り出したメガロは、腰を落とし構えると、再度加速し始めた。
「ハンス!! くらえ!!」
「執事流剣術! 差し出す剣!!」
ハンスは接近するメガロに向かって剣技を繰り出した。メガロはハンマーを振りかぶり、渾身の力で振り落とす。鋭い金属音が鳴り、ハンスのサーベルの先端が宙に舞った。
「サーベルが折られた?!」
次の瞬間、ハンスの前腕にハンマーの衝撃が伝わると、エレベーターホールの端まで吹っ飛ばされた。背中を強打したハンスの顔は苦痛で歪む。
「爺や!!」
「エレナさん。危ない!」
ハンスに駆け寄ろうとするエレナをクライス刑事は、腕を掴んで制した。
「フハハ。とりあえず、ハンスを仕留めたあとは、エレナ。あなただ。少し待っていろ!」
「爺や!! 逃げて!!!」エレナの叫び声がエレベーターホールに響いた。
『カチッ。ウィーン』エレベーターから小さな機械音が聞こえた。
到着したエレベーターの扉が開き、その内部からコーヒーの芳醇な香りが溢れ出した。
(コーヒーの香り!! まさか豆田探偵!!)エレナは安堵からボロボロと涙を流した。
「おっ! エレナか。状況は?」
「爺やが!!」
エレナはその言葉を発するのが精一杯だった。涙にぬれる視界の中、必死にハンスの方を指差した。エレベーターホールの端にいるハンスとメガロを豆田は目視で確認する。
(あれが敵か……。右の内側側副靭帯を痛めている……。それに左の骨盤の歪み。胸椎5番からのカーブ。あの銀行強盗犯か……)
メガロを敵と判断すると、豆田はすぐさま右手を前に突き出して叫んだ。
「こだわりのチカラ! コーヒー銃!!」
特製豆田ブレンドで淹れたコーヒーから『こだわりエネルギー』が浮かび上がる。直径40センチほどの浮遊する球体を形成した『こだわりエネルギー』は、すぐに分裂した。その1つが銃になり、残りが無数の弾丸に変わった。
瞬く間に豆田の構える右手にコーヒー銃が収まり、浮遊する弾丸が装填された。残りの弾丸は、豆田の周りを浮遊している。
「いけ! 弾丸!!」
そう叫んだ豆田の元から飛び立った弾丸は、メガロの振り上げるハンマーに直撃し、その上部を消し去った。メガロが状況を理解した時には、豆田の次弾がメガロの右前腕を貫通していた。エレナは、その凄まじい攻撃に息をのんだ。
「ぐわ! 何もんだ?!」
「ん? 私は豆田まめお。探偵だ」
「貴様。このメガロにこんなことをしていいと思っているのか?」
喚くメガロを豆田は無視し、周囲に目線を向けた。
(爺さんは、左大腿部から出血。エレナとクライスは無傷。あそこに転がっているのは銃の『こだわリスト』か……)
「クライス刑事。ご苦労。予定通りだ」
「豆田探偵。来ないかと思いましたよ」
「後は任せてくれ。シュガー!! ハッキングの用意を!」
「豆田まめお。もちろんもうやっているわ! まず16階のメインシステムに潜入するわね」
「任せた。爺さん! 動けるか?」
「豆田様。なんとか動けます」頷いたハンスは、痛みが走る全身を動かし何とか立ち上がる。
「よし。では、クライスはハンスとエレナと共に、ここから脱出してくれ」
「俺を無視するな!! 貴様動いてみろ! ハンスを殺すぞ!」
立ち上がったハンスの背後に素早く回ったメガロは、懐から銃を取り出すと、その銃口をハンスの身体に付けた。
「おい! 利き手ではなくても、この至近距離からハンスを殺すのは簡単だぞ!! そこの帽子男、銃を捨てろ!!」
「爺や!!」
エレナの声がフロアに響いた時には、豆田は次弾をハンスの足元に放っていた。
『バコン!』床材が割れる。
「え?!」ハンスはその衝撃でバランスを崩し倒れる。
「そこだ!!」
不意にハンスが倒れたことで、あらわになったメガロに向かって、豆田は更なる弾丸を飛ばした。コーヒーの弾丸はメガロの左肩を貫通し、階段側の窓ガラスを割った。
「ぐおっ!!」メガロは握っていた拳銃を床に落としてしまった。
「まだやるか? 動けば、お前の頭部に弾丸をめり込ますぞ」
(くそ。まだやれる!)メガロはマスクの裏で歯を食いしばった。
『バチン!!』メガロのマスクに衝撃が走る。マスクの左側が剥がれ落ちた。
「まだ、理解していないようだな。戦意を持てば、次弾は貴様の命を奪う」
「あ、圧倒的じゃないか……」
そう呟いたメガロはその場にへたり込んでしまった。マスクの陰から見えるメガロの眼から戦意が消えていった。
「クライス刑事! ボーっとするな。手錠だ」
「あ。ああ。そうか……」
豆田の言葉で我に返ったクライスは、手錠を取り出し、メガロに向かって走っていった。
中折れ帽子を被り直した豆田は、視線をシュガーに向けた。
「豆田まめお。ちょうど監視カメラをハッキングしたところよ……。ちょっと見てくれない?」
豆田はシュガーが開くノートパソコンの画面をのぞき込んだ。
「これは何だ?! うようよ動いているぞ! エレナ分かるか?」
「あ!! 分かります! 豆田探偵!! 大変なんです! ワーグナー博士は生物を改造する実験をしていて、このフロア中に、その生物が保管されているんです」
「あぁー。なるほど……。エレナ。それはあんな生物達か?」
「え? キャー!!」
16階フロアの奥から、見たこともない生物が現れた。
軽い溜息をついた豆田は、コーヒー銃の照準をその生物に向けた。
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