【16話 ダリーの決断】
1日、2話掲載。朝夕6時公開予定。全25話です。楽しんで頂けたら光栄です!
「エレナ嬢。俺が今からメガロの隙を作る。その間に、あんたはあのエレベーターから逃げろ」
「皆を置いて行けないわ!」
「エレナ嬢。誘拐した俺が言うのも何だが、あんたさえ逃げ切れれば、ここに助けにきた警察達も最悪逃げる事が出来る」
「私が逃げられれば皆が助かる可能性があるってこと?」
「そう言う事だ」
エレナは渋々納得したような表情を見せたあと、何かを思い出したようだ。
「じゃー。あのエレベーターの認証セキュリティはどうしたら良い?」
「ああ、アレか。素早く出撃する時の為に、エレベーターを降りる時は必要ないようになっている」
「分かったわ。じゃー。私は、ここから外に出る事を目指すわ。あなたも死なないでね……」
「……。ああ……」
ダリーは、そう言ったがメガロ相手にそれは難しいと感じていた。
先程まで自身の保身だけを考えていたダリーだが、エレナと接することで芽生えた正義感に心地よさを感じていた。
「じゃー。エレナ嬢。メガロの死角から回ってエレベーターに向かってくれ」
覚悟を決めたエレナは、小さく頷くと、身を低くしながら、エレベーターホールに向かった。
(さてと、ひと芝居うつか……)
懐から拳銃を取り出したダリーは、リボルバーを回し、その残りの弾数を確認した。
(1発か……。これは死にに行くようなもんだな……)
唇をかんだダリーは大きく息を吸いこむと、通路から飛び出し、メガロの元に向かって走った。
「メガロ様! ご無事でしたか?!」
「ダリーか。良いところに来た。その銃でそこの刑事を撃て」
「メガロ様。侵入者ですか……」
「ああ。早くしろ!!」
打開策を探していたクライス刑事は、ダリーの登場ですべてを諦めてしまったようだ。虚ろな視線でメガロの方を見ていた。ダリーは銃口を静かにメガロに向けた。
「……。ダリー。どう言うつもりだ……」
「メガロ様。すみませんね。裏切ることにしました」
その言葉を聞いたクライス刑事の顔に一気に生気が戻った。床に置いた銃を素早く掴み銃口をメガロに向け、その引き金を引いた。
その動きに気付いたメガロは、身体を捻り弾丸を躱すと、後方に跳躍した。
「ダリー!! 貴様。いい度胸だ!」
「メガロ! あんたを殺してここから出る!」
「ん? あー。そう言う事か……。何かミスをして、ワーグナーに殺されることになり脱走した。と言った感じか?」
「……」
沈黙を答えとしたダリーは、メガロに向けた拳銃に『こだわりエネルギー』を流し、その弾丸の威力を上げた。
クライス刑事は、この一瞬の間にハンスの元に駆け寄り、その肩を揺らした。
「ハンスさん。動けるか?」
「……。私は執事失格です……。エレナお嬢様を危険にさらしてしまいました」
「そんな反省会は後でやってくれ! エレナさんを救出しに来たのだろ?」
「……。そうでした……」
ネクタイをキュッと絞めたハンスは、クライス刑事の肩を借り、刺された足をかばいながら立ち上がった。
「クライス刑事。ありがとうございます。エレナお嬢様を助けに向かわなければ」
「その意気だ」
ネクタイに『こだわりエネルギー』を流したハンスは、その先端でサーベルを持つと、剣先を前方に向け構えた。
額の汗を拭ったクライス刑事は、超高分子量ポリエチレンの製の盾を前方につきだしつつ、拳銃を構えた。
ダリーの構える銃にも狙われ、3人と対峙することになったメガロだが、その顔には笑みがこぼれていた。
「フハハハハハ。久しぶりの緊張感だ。生きている感じがして実にいい!!」
「メガロ。流石のあんたでもこの3体1では、分が悪いだろ? 諦めたらどうだ?」
ダリーはエレナがエレベーターに辿り着く時間を稼ぐために、メガロを挑発する。
エレナは受付カウンターの裏から回り込み、後少しでエレベーターホールというところまで来ていた。
「ダリー。貴様、勘違いしていないか?」
「何? 何のことだ?」
「フハハハ。俺は『こだわリスト』だぞ? 俺はまだ何も能力を使っていない……」
「その変装が能力ではないのか?」
「これは、ワーグナー博士の作品だ。まー。俺の能力とは相性がいいが……」
(しまった!!)
ダリーは、『メガロが何かをする前に動かないと』と、慌てて引き金を引いた。『こだわりエネルギー』を帯びた弾丸がメガロに向かって飛ぶ。メガロはそれを簡単に躱すと、ネックレスに手をやり、一番左にあるボタンを押した。
ネックレスから、顔面に向かい薄い膜が飛び出る。膜はメガロの顔面を包むと瞬時に硬化していく。メガロの顔面は、ピエロのような不気味なマスクに覆われた。
「いやー。実にいい……。エネルギーが満ちてくるのを感じます。このマスクを付けた時、快楽殺人の『こだわリスト』の能力が開花するのです……」
そう言ったメガロは、ダリーの視界からフワリと消えた。
「ぐはっ!!」
ダリーの鳩尾に、メガロの拳がめり込んだ。ピエロのマスクをつけたメガロの身体能力は、飛躍的にあがっているようだ。くの字になったダリーの腹部に次の打撃がめり込む。
メガロが放った打撃の連続でダリーの身体は、宙に浮く。
エレナは叫び出したい気持ちを堪え、このダリーが作ってくれた時間を無駄にしない為に走り出した。
(私がここから逃げださないと! 皆も!)
エレベーター前に辿り着いたエレナは、すぐにボタンを押した。『カチ……』小さな機械音が鳴り、エレベーターが動き出した。
「カチッ? だと?」
ダリーの意識を奪ったメガロは、そのわずかな音に反応し、視界をエレベーターの方に向けた。
「なんだ? エレナがいるだと? エレベーターから逃げ出す気か? 逃がすはずがないだろ!!」
「お嬢様!!!!」
メガロの言葉でエレナの存在に気付いたハンスは、今も出血が続く大腿に力を込めた。
(私の足などどうなってもいい!! エレナお嬢様を!!)
歯を食いしばりながら跳躍したハンスはエレベーター前に着地した。
「エレナお嬢様! ご無事で!」
「爺や!」
「お嬢様。エレベーターが到着しましたら、すぐにここから逃げて下さい。わたくし、命に代えてでも、この場を死守いたします」
「爺や! あなたも逃げて!」
「いえ、わたくしが不甲斐ないばかりにお嬢様を危険にさらしました。けじめは取ります!」
命をかける覚悟をしたハンスはネクタイにありったけの『こだわりエネルギー』を流した。
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