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セレフィナ、召喚される⑨



エリスが光の中に消えた瞬間、玉座の間には一瞬の静寂が訪れた。しかし、その静寂を破るのは、カリス王の驚きの声だった。


「……まさか、本当に帰還させたというのか……?」


その言葉には、信じられないという感情が色濃く滲んでいた。王は視線をセレフィナに向け、彼女の冷静な表情にさらに驚きを深めた。


「ば、ばかな……!」

宮廷魔術師が震える声で叫んだ。彼は目を大きく見開き、まるで自分の知識が根底から覆されたかのように動揺していた。


「 確かに勇者召喚のように異世界間の移動は人間でも可能だ。しかし、召喚と帰還は全く別次元の話だ! 魔力の収束と次元の安定化、それに帰還者が元の世界へ安全に戻るための魔術式……その全てを一人で行うのは、到底我々の力では不可能だ!」


彼の言葉に、玉座の間にいる他の人々も動揺を隠せない。これまで彼らが信じていた常識が、セレフィナによっていとも簡単に覆されたのだ。


「こんな魔術が本当に可能だというのか……!」


彼の言葉は玉座の間にいる全員の心中を代弁していた。勇者召喚ですら国家規模の儀式を必要とする、極めて高度な魔術だとされている。だが、それと「帰還魔術」では根本的な理論が異なる。



勇者召喚とは、他の次元から対象をこちらに引き寄せる片道の魔術だ。術者側で召喚する対象の次元座標を指定し、一方的に干渉することで成立する。あたかも、異世界の誰かに向けて「引き寄せるロープ」を投げるようなものだ。その際には国家規模の魔力供給が必要であり、数多くの術者が一丸となって儀式を支えるため、個人の負担は分散される。



だが、帰還魔術はそれとは比べ物にならないほど複雑だった。次元間の移動を「送り出す」ためには、相手の次元の座標を正確に特定するだけでなく、帰還先の次元そのものに直接干渉しなければならない。召喚が「引き寄せるロープ」だとすれば、帰還は「新たに橋を架ける」作業だ。その橋は、次元の法則、空間、時間の歪みに耐え、元の世界との完全な調和を保たなければならない。



さらに、帰還魔術は術者が単独で行う必要がある。対象者と密接にリンクした魔術式を用いるため、他者の手を借りられないのだ。膨大な魔力と緻密な制御力が必要であり、人間には到底実現不可能な領域だとされてきた。



だが、それ以上に帰還魔術を困難たらしめているのは、「存在力」という見えない壁だった。次元間の移動には莫大なエネルギーが必要とされる。召喚では術者たちがエネルギーを分担することで成立するが、帰還は術者単独でそれを賄わなければならない。



だが、その「不可能」を目の前の少女――セレフィナは、あたかも呼吸をするように簡単に成し遂げてみせたのだ。それは、彼女が持つ力がいかに常軌を逸したものであるかを物語っていた。



「しかし……それを、たった一人でやってのけたというのか……?」


宮廷魔術師はセレフィナを見つめながら、恐怖と尊敬の入り混じった表情を浮かべた。その反応に、セレフィナは冷めた口調で応じた。


「ふん、人間の魔術理論なんて、その程度のもんだ。我にとっては、ただの基礎作業だよ。」


その言葉は簡単に言い放たれたものだったが、玉座の間にいる全員には重く響いた。特に魔術師たちにとっては、自分たちの限界を思い知らされる瞬間だった。


「それにしても……」

ゼルナが口を開き、にやりと笑った。

「セレフィナ、お前は本当に容赦がないな。これだけの魔術を見せつければ、人間どもはますますお前を恐れるだろう?」


「恐れるかどうかなんてどうでもいい。我はただ、約束を守っただけだ。」

セレフィナは無表情のままそう言い放つが、その瞳にはどこか満足したような光が宿っていた。


カリス王はしばらく何も言えなかったが、やがてセレフィナに深々と頭を下げた。


「……セレフィナ殿。あなたの力は、我々の理解を超えたものであることを認めざるを得ない。だが、それでも私はあなたに感謝したい。エリスを無事に帰還させてくれたこと、心より感謝する。」


その言葉に、セレフィナは一瞬だけ目を細めたが、すぐに顔を背けてそっけなく答えた。


「礼なんていらない。我はただ、自分がやるべきことをやっただけだ。」


リュカはそのやり取りを黙って見つめていたが、やがてぽつりとつぶやいた。


「セレフィナさん……本当に、すごい人なんですね……」


「人じゃないけどな。」

セレフィナは肩をすくめて軽く答えた。


その場の緊張が少しずつ和らぎ始める中、宮廷魔術師がなおも興奮気味に王に向かって進言する。


「王よ、これは……この力を国のためにどうにか利用すべきです! 彼女の知識と魔術理論を取り入れれば、我々の魔術は数段階進歩する可能性があります!」


セレフィナはその言葉に眉をひそめると、冷たく一言で切り捨てた。


「ふざけるな。我が教える気にならない限り、何も得られると思うな。あんたたちが必要なのは、我の力じゃなく、自分で考え、自分で進む力だろう。」


その毅然とした言葉に、王も魔術師も返す言葉を失った。そして、セレフィナはリュカに視線を移し、静かに命じた。


「リュカ、そろそろ行くぞ。これ以上ここにいても時間の無駄だ。」


「……わかりました!」


リュカが力強くうなずき、二人は玉座の間を後にした。その背中を見送るゼルナは、ふと意味深な笑みを浮かべる。


「さすがだな、セレフィナ。お前の存在が、この国にどれだけの影響を与えるか……楽しみだ。」


こうして、エリスの帰還を終えたセレフィナとリュカは、新たな道を歩み始めるのだった。玉座の間に残された者たちは、いまだセレフィナの力とその意味を噛み締めていた。





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