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セレフィナ、召喚される⑧



玉座の間の沈黙が続く。


カリス王は視線を落としたまま、しばし言葉を発せずにいた。


やがて、ぽつりと口を開いた。


「……わたしは、かつて“本物の魔王”を見たことがある。」


その一言に、空気が微かに震えた。


ゼルナが眉をひそめ、セレフィナがわずかに目を細めた。


「我々がまだ若かった頃、突如として現れた異形の存在。言葉も通じず、ただ破壊を繰り返す――まさに“災厄”そのものだった。たった数日で、三つの王国が地図から消えた。」


「……そいつは我の同族ではないな。少なくとも知性がある者ではない。」


ゼルナが低く呟く。セレフィナも腕を組んだまま、黙って続きを促すように顎を引いた。


「我々人類は、その時ようやく理解した。世界には、言葉も意志も通じぬ存在がいると……。その日以来、“魔王”という名は、人類にとって『理解不能な恐怖の象徴』となった。」


「……だから、お前たちは『理解できる魔族』すら同列に見た、というわけか。」


セレフィナの声には、苛立ちよりもどこか諦めの色が滲んでいた。


「だがな……」

カリス王はゆっくりと顔を上げ、セレフィナとゼルナを見据える。今までとは違う、王としての芯のある眼差しだった。


「だからこそ、“対話が可能な魔族”の存在を示せば、人類にとっては光となる。敵ではなく、共存できる可能性があると。」


ゼルナが目を細める。


「……ほう?」


「お前たちと敵対する気など、もとよりなかった。だが、人類は弱すぎる。今のままでは、魔に対抗もできず、対話することすら恐れてしまう……。だから、私は“勇者”という象徴を必要としたのだ。人々の心に抗う希望を灯すために。」


「つまり、“魔王を討つため”という大義は、表向きだった……と?」


リュカが呟いた言葉に、王は静かにうなずいた。


「すべては、人類を守るための“演出”だった。勇者が魔王を倒すという物語があれば、人々は魔に怯えず、立ち向かおうとするだろう……。だが、皮肉にも“本物の魔王”がこうして現れた今、その筋書きも無意味になった。」


重い沈黙の後、ゼルナが口を開く。


「……面白い考え方だな、王。お前、人間の割に随分と策士じゃないか。」


セレフィナは一歩前に出ると、真っ直ぐにカリス王を見た。


「ならば問おう。今ここで――『勇者が魔王を討つ』という物語を捨てられるか?」


王はほんの一瞬だけ迷った。そして――


「捨てよう。“物語”はもう終わりにしよう。現実を、選ぶ。」


静かに、そして確かに告げられたその決断に、玉座の間は静まり返った。


だがその沈黙の中に、かすかな変化があった。


リュカが微笑み、エリスはほっとしたように息をつき、

そしてゼルナも――満足げにうなずいた。


「ならば、人間の王よ。その現実に、我も関与してやろう。」


「我も同意だ。この契約、正式に締結としよう。」


セレフィナの声に魔力がこもり、玉座の間の空気が淡く振動する。

新たな誓いが、今この場所で交わされたのだった。




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