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セレフィナ、召喚される①



セレフィナはダンジョンの奥深くでケルベロスを討った後、冷静にその場を見回す。彼女の足元には、倒れたケルベロスの残骸が横たわっている。周囲の静けさに、リリィとグレンを連れて戻る準備を進めるが、ふと、足元の地面に異変を感じた。


「……何だ、これは?」



魔法陣のようなものが、彼女の足元に現れ、ゆっくりとその周囲に広がっていく。セレフィナはその存在に気づくと、眉一つ動かさずに足を止めた。


「まさか、私を召喚するための魔法陣か……?面倒なことになったな。」


リリィがその魔法陣に気づき、慌てて声をかける。


「セレフィナ様、その魔法陣は……!」



セレフィナは軽く手を振り、リリィに落ち着くよう促す。


「心配するな。お前たちはここで待機していろ。私がどうするべきか決めるから。」


彼女の声には、どこか楽しげな響きがあった。リリィとグレンが目を見交わし、セレフィナに従う。


「街でゆるりと待つことにするよ、セレフィナ殿」


セレフィナは二人を転移で安全な場所へと送り出すと、その瞬間、足元の魔法陣が一気に輝き、光に包まれる。


「ふん、拒むこともできるが、面白そうだな。」


その言葉が消えたと同時に、セレフィナは魔法陣に飲み込まれ、眩い光の中に消え去った。



* * *



セレフィナは、アルマリア聖王国の地下神殿に足を踏み入れたまま、静かに目の前の状況を観察していた。彼女の周囲には、聖なる魔法陣が青白い光を放ち、幾人もの神官たちが祈りを捧げる声が響いている。その中で彼らの目線は、突如として現れたセレフィナに集中していた。


彼らが召喚しようとしていた人物とは明らかに異なる者が現れたことに、神官たちの間には動揺の色が広がる。


「神官長様……これは……一体……?魔法陣に予定外の干渉が……?」


「落ち着きなさい。まずは、この方が何者なのか確かめるのが先決だ。」



神官長は目の前に立つ異様な雰囲気を纏う人物をじっと見据えていた。その姿は一見して人間であるように見えるが、ただ立っているだけで周囲の空気が変わったかのような、説明のつかない威圧感を感じさせる。


(この者は何者だ……?ただの人間ではない。いや、そもそも人間であるかすら疑わしい。あの圧倒的な存在感は……まるでこの場を支配しているかのようだ……。)


神官長の手は知らず知らずのうちに胸元の聖印へと伸びていた。指先で聖印を握りしめることで、自分を奮い立たせようとしているのだ。しかし、その握力が強まるほどに、心の奥底から沸き上がる不安を完全に抑え込むことはできなかった。


(だが、恐れてはいけない。我々は神の御名の下に、この国を守る神官団。ここで怯えるようでは、民を守る盾とはなれない。)


神官長は内心の動揺を抑え込むように深呼吸し、あえて穏やかで柔らかな声を作り出した。相手の真意を探るには、まずこちらが礼を尽くすべきだと悟る。


「……突然のご無礼、お許しください。我らはアルマリア聖王国の神官団に属する者です。」


言葉を口にしながら、神官長は相手の反応を細かく観察していた。わずかな仕草、微かな表情の変化、そして目の奥に宿る意図のかけら――それらが次の判断の材料となる。


(敵意は……今のところ感じられない。しかし、油断は禁物だ。この者が味方か敵か、あるいはそれ以外の何かか……慎重に見極める必要がある。)


「恐れながら、あなた様はどのようなお方でございますか?」


相手の沈黙が妙に重い。神官長はその場に立つ信徒たちが困惑し、不安に揺れる気配を感じ取った。しかし、彼自身の声だけは揺らがない。


「どのような経緯でこの場に現れたのでしょう?」


その問いかけには、敬意と警戒が交錯していた。相手を刺激せず、しかし真実を聞き出さねばならない。その使命感が、神官長の目に微かな鋭さを宿らせる。


(この場を混乱させるわけにはいかない。何としてでも、冷静さを保ちながら、相手の意図を探らねばならない。)


神官長は、相手がどう出るのかを見極めるため、静かに答えを待った。


セレフィナは、目の前の恭しい態度をわずらわしく思いつつも、あえて興味を引く態度を取ることにした。腕を組み、軽く微笑みを浮かべる。



「ふむ、そちらが聞くのか。だが、召喚したのはそっちだろう?我はセレフィナ。ただの旅人だ。少しばかり興味を引かれてな、流されてみただけだ。」


その何とも掴みどころのない返答に、神官たちは困惑の色を浮かべた。神官長は彼女の発する不思議な威圧感に気付き、軽率な言葉を避けるべきだと判断する。


「……セレフィナ様と仰るのですね。お答えいただき感謝いたします。しかし、この場にいらっしゃったということは、我々の召喚術に何らかの干渉があった可能性が高いかと存じます。失礼ながら……お力をお持ちの方でいらっしゃいますか?」


セレフィナは小さく肩をすくめて笑う。


「さぁな。力を持っているかどうか、そちらで勝手に想像してみたらどうだ? まぁ、召喚魔法を拒むこともできたが、面白そうだったからな。たまには流れに身を任せるのも悪くないだろう?」


その飄々とした態度に、神官たちはさらに困惑を深めた。


そもそも、彼らの召喚術ごときでセレフィナのような存在を呼び寄せることは、本来不可能なはずだった。いかに複雑な術式を組もうと、どれだけの魔力を集めようと、人間の限界では到底及ばない。仮に高位魔獣や精霊を多数犠牲にしたとしても、彼女を縛るには到底足りないのだ。それにもかかわらず、彼女は何の抵抗もなく現れ、あまつさえ「流された」と言ってのける。その余裕に満ちた態度は、神官たちに計り知れない隔絶を痛感させた。



「……かしこまりました。ですが、もし可能であれば、この後の儀式に少しだけお付き合い願えませんか?実は、魔王ゼルナ討伐のため、真の勇者を召喚する儀式を執り行っている最中なのです。」


その説明を聞いたセレフィナは興味深げに祭壇を見やり、淡々と答える。


「ふむ……勇者召喚か。魔王討伐なんて話は、そう頻繁に聞けるものじゃない。いいだろう、少し様子を見てやる。」


神官たちはセレフィナの許可に胸を撫で下ろし、儀式を再開するべく準備を始めた。



祈りの声が再び高まり、祭壇の魔法陣がより強く輝き始めた。神官たちの呪文が高らかに響き、空間に緊張が走る。やがて、魔法陣の中央が揺らめき、異世界からの裂け目が現れた。


その裂け目から現れたのは、金髪の青年――リュカだった。彼は軽装ながらも鋭い目つきと引き締まった体つきを持ち、驚きと警戒の入り混じった表情を浮かべている。


「……ここは……どこだ?何が起きてるんだ?」


神官長はすぐにリュカに歩み寄り、丁寧に説明を始めた。


「リュカ様、ようこそこのアルマリア聖王国へ。あなた様は、魔王ゼルナを討伐する使命を持つ勇者としてお招きいたしました。この世界は今、あなたの力を必要としております。」


リュカは状況を理解しきれず困惑している様子だったが、同時に使命感に目覚める兆しが見えた。セレフィナは一連の流れを冷静に見守り、内心で小さく笑みを浮かべる。


セレフィナ(異世界から勇者を呼ぶ、か。面白い話じゃないか……だが、この勇者がどこまで役に立つのか、少し様子を見てみるとしよう。)


セレフィナはその場の進行を邪魔せず、一歩引いた位置で展開を観察することにした。

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