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魔王 vs 亜神④



セレフィナが放った一撃が亜神の胸を直撃し、亜神はその場に膝をついた。苦悶の表情が浮かぶも、その口元には不気味な微笑みが広がる。彼の顔は汗に濡れ、その息遣いは荒くなっているが、敗北を受け入れる兆候ではなかった。


「さすがだ、セレフィナ……だが、これで終わりと思うな。」

彼の声は低く、どこか歪んだ満足感を含んでいた。


その瞬間、亜神の体から黒い霧のようなエネルギーが立ち上り、空間そのものを歪ませ始めた。そのエネルギーは人知を超えた異質なもの――この世界の理を逸脱した虚無そのもののようだった。彼は手をゆっくりと掲げると、空間の狭間をこじ開けるように力を解放する。


「これが……我の存在の証明だ。」


そう呟いた亜神の声には、どこか孤独と焦燥が混じっていた。彼の胸の奥深くに潜むのは、単なる力の誇示ではない。その行動の根底には、己の存在が果たして「価値」を持つのかという疑念が常に張り付いていた。


アルケイン・エーテリアルとして、亜神はかつて神々に仕える橋であり道具だった。しかし、何千年にも及ぶ存在の中で芽生えた「自己」という概念は、彼に耐え難い渇望をもたらした。――ただ役割を果たすだけの存在ではなく、自らの意志で新たな道を切り開くこと。


「我は神々の操り人形ではない……その証を、この戦いで刻むのだ。」


彼の思考は過去の記憶に瞬時に引き戻される。かつて霊界と物質界を繋ぐ役割を果たしていた時代――そこに疑問を抱くことすら許されなかった、無意識の奉仕の日々。その後、他のエーテリアルたちが淡々と役割を全うし消えていく中で、彼はなぜか生き残り、そして違和感に気づいたのだ。


「ただ役目を終えて消える? それが我々の存在の意味だというのか……!」


その疑念はやがて彼を異端へと導き、自己を超越するべく進化を遂げた。だが、「亜神」としての地位を得た後ですら、心の奥底に巣食う空虚さは消えなかった。いくら力を得ても、その力が何のためにあるのかを証明できなければ、彼の存在は虚無と変わらなかったのだ。


「セレフィナ……」


目の前の魔力の化身を思わせる彼女を見据えながら、亜神の瞳に一瞬だけ迷いが宿る。この者を打ち負かせば、果たして自分の存在意義を証明できるのか――その問いが脳裏をよぎるたびに、彼は更なる力を解放せざるを得なかった。


「我を打ち負かすことなどできない……できるはずがない!」


彼の声が荒々しく響き渡ると、虚無のエネルギーは一層激しく渦巻き始めた。空間の裂け目が拡大し、異次元の闇がセレフィナを包み込もうと迫る。だが、その瞳の奥に潜むのは恐怖ではなく――自己を否定されることへの激しい拒絶だった。



「これが我の本領だ。」亜神は冷ややかな笑みを浮かべながら低く囁いた。「お前の力がどれほど強大だろうと、この次元の狭間に囚われればおしまいだ。」


彼の言葉に合わせるように、セレフィナの足元から不気味な裂け目が広がり始める。その闇は彼女を飲み込もうとするように渦を巻き、異空間の引力が空間全体を侵食していく。


亜神の瞳には狂気にも似た高揚感が宿り、自らの勝利を確信する光が輝いていた。「無駄な抵抗はやめろ、セレフィナ。この狭間に囚われたが最後、永遠に彷徨うことになるだろう。」


だが、セレフィナは冷ややかな微笑を浮かべたまま、亜神を見据えていた。どこか余裕を感じさせるその表情に、亜神の心にわずかな焦りが生じる。


「そんな小細工で私をどうにかできると思っているの?」セレフィナの声は静かだが、その一言一言が鋭い刃のように亜神の耳に刺さる。「あなたの考えは、あまりにも単純ね。」


彼女が手をゆっくりと裂け目に向けると、その手から放たれる魔力が裂け目の闇に触れた瞬間、空間が激しく揺れた。その波動は周囲の闇を逆流させるほどの力を秘めており、次元の裂け目が徐々に制御を失い始める。


「これは……!」亜神は驚愕の表情を浮かべる。彼は懸命に狭間の力を維持しようと試みるが、セレフィナの魔力の前では次元の構造そのものが崩壊し始めていた。


「お前は本当に……異常だ。」亜神は言葉を絞り出しながら、その視線をセレフィナに固定する。そこには怒りや恐怖だけでなく、理解を超えた存在に対する畏怖と、どこか尊敬に似た感情が入り混じっていた。


「何を恐れているの?」セレフィナは静かに歩み寄ると、亜神の目をじっと見つめた。「あなたが私に勝てない理由は単純よ。私は、自分の力に溺れていない。使うべき場所と方法を知っているだけ。それが分からない限り、あなたはいつまでも足掻くだけ。」


その言葉に、亜神は再び微笑を浮かべた。しかし、その笑みは先ほどまでの嘲笑や狂気とは異なり、どこか寂しさを伴っていた。「……確かに、我は力に溺れていたのかもしれないな。」


亜神は立ち上がり、かつての堂々とした姿を取り戻そうとするように背筋を伸ばした。彼の背後にはまだ微かに裂け目の残滓が漂っていたが、それも次第に消えていった。


「だが、覚えておけ。今日の敗北は、一時のものだ。」彼は冷たく言い放ち、セレフィナに背を向ける。「次に会う時は、この私を軽んじたことを後悔させてやる。」


「何度でも挑みなさい。」セレフィナの声は揺るぎなく、それが亜神の足を一瞬止めさせた。「ただし、その時も私はお前の前に立ちはだかる。それが私の選んだ道だから。」

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