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八十六、お酒の席

「笹木野さん、先月から食事のバランス、ひじょーーにいいですね。」

『えー、やぁね、青葉ちゃんが簡単メニュー沢山知ってるからでしょ?』

 そう言いながら、笹木野さんは私の肩をバシバシ叩いてきた。私は力強いなと思いながらも、あははと笑ってごまかした。

「笹木野さん、また来月まで一緒に頑張りましょうね。」

『もちろんよっ!娘の結婚式までに綺麗になるんだから。』

 私達はえいえいおーっと言いながら、お互いに鼓舞しあった。

 カウンセリングが終わり、私はバックルームに戻ろうとするとカウンターにいる楓さんが口パクでランチと言ってきたので、私は軽く会釈してロッカールームの荷物を取りに行き、休憩室に向かった。私は軽く扉をノックして中に入ると、一番二人きりになりたくない元カレも休憩に入っていた。

「……………………お疲れ様です。」

「お、お疲れ様。」

 私は彼が座っている席に一番遠い、対角線上の場所に座った。

「……遠くない?」

「近くで休憩とる義務ないんで。」

「……………………。」

 私は包みをほどいて、電子レンジでお弁当を温め始めた。その間にマグカップにみそ汁を入れて、お湯を注いで、自分の席に戻り、テーブルにマグカップを置いた。

「………………。」

「……………………。」

「……………………あ、あのさ……。」

「……はい。」

「たまたま…………?」

「何がですか?」

「……………………この、会社は……。」

 私は電子レンジのチンと響いた音と共に、は?と言ってしまった。

「それは私が?……浮気した?……元カレを追いかけて?って言ってるんですか?」

「……うぅ、そう言われちゃうと……。」

 彼は持っていたプロテインシェイカーを握りしめながら、困り果てた顔をしていた。私はそれを見て、はぁと溜め息をつきながら電子レンジのお弁当を取り出した。

「…………たまたまです。」

「そ、そうだよねー……ははは。」

 私は椅子に座り、いただきますと手を合わせて、お味噌汁をすすった。しばらく沈黙が続いたが、さすがにこれから一緒に勤務するのにこの関係性は厳しいかと思い、あきらめて、何故かモジモジしてる彼に話しかけた。

「…………海外勤務、行けたんですね。」

「えっ、あ、、覚えてたの……?」

「耳にタコなぐらい、散々言ってたじゃないですか。海外転勤できる企業で働くんだーって……。」

「そうだっ……たか。」

「夢叶って良かったですね。」

「…………ありがとう。」

 私はご飯を食べながら淡々と話し、時計をちらっと見た。いつもならあっという間の休憩が今日は長く感じるなと思いながら、またみそ汁をすすった。

「……香奈ちゃんも……。」

「さすがに青葉にしてもらっていいですか?」

「あ……ごめんね、青葉ちゃんも、栄養管理士の資格取れたんだね……おめでとう。」

「…………ありがとうございます。」

 私はなんなんだこの時間と思いつつも、自分から始めた手前やめるにやめられない謎の報告会でお腹がいっぱいになりそうだった。

「………………あ、青葉……ちゃんは……。」

「はい。」

「………………いや、大丈夫。」

「………………?はい。」

「…………あ、俺戻るね。」

「お疲れ様です。」

 彼は残りのシェイカーに入ったプロテインを一気に飲み干して、給湯室で洗い物をささっとして、歯をみがき、バタバタと部屋を出ていった。

「…………なんなんの…………。」

 私は首をかしげて、残りのお弁当を食べ始めた。


 ――――――――――――――――

「何で…………?」

「ん?何が?」

 隣で居酒屋のメニューを楽しそうに鼻歌を歌いながら、料理を選んでる澁谷君はいつもの調子で答えた。そして目の前には談笑しながらお酒を飲む楓さんとなるべく避けたい元カレがいた。

「……ねぇ、もしかして恋愛の相談のための会って、うそなの?」

「は?沢山の意見あったほうが、俺に学びが大きいだろ?」

「……………はぁ、最悪、、、、じゃあ私は教授する側なので、この刺身大トロ入り八点盛り頼むしかない。」

 私はそう言いながらタッチパネルをポチポチして、彼に了承を得る間もなく、注文確定ボタンを押した。

「ぇえ?!高すぎねぇかこれ。」

「…………金額の制限は聞いてませんが?」

「まじで、かわいくねー…楓さぁん、青葉がいじめてきます~。」

「あははー、そんなことより澁谷君の相談はー?」

 楓さんがそう言うと、隣の澁谷君がえぇもっと労ってくださいよ~と言いながら、泣き真似をしていた。それを見かねた傑先輩はまぁまぁと言いながら、彼の頭をワシャワシャしながら笑いかけながら話しかけた。

海音(かいと)、早く話せよ~、みんな帰っちゃうぞ?」

「実は……彼女……できたんす。」

「へぇー、あのずっと片想いの……?」

 私はつまみのフライドポテトを食べながら、そう言うと彼は一気に顔を気まずそうにした。

「……………………ちがう。」

「え?」

 私は思わず飲みかけのグラスをその場に置いた。あんなに他の子じゃ嫌だって言ってたので、正直かなり驚いた。

「……………………川口。」

「え?!……同期の?しず?」

「そう……あの飲み会からわりと頻繁に連絡とるようになって…………流れのまま……。」

「……………………で?澁谷君はいま、幸せなんじゃないの?」

 楓さんがそう言うと、さらに気まずそうに彼は口を開いた。

「…………順調……だったんです……昨日までは、、、。」

『………………?』

「ずっと片想いしてた子から、、連絡きて……しかもやっぱり付き合いたい…………って……。」

「は?」

 私はつい飲んでたグラスを強めにテーブルに置いてしまい、目の前の先輩方2人をビクッとさせてしまった。

「…………いや、それ、都合良すぎない?……だって、澁谷君がいままで、何回思いを伝えたことか……。」

「海音、そんなにコクってんの?」

 傑先輩が驚きながら、そう質問するとかれこれ10回はと恥ずかしそうに澁谷君は答えた。私と傑先輩はただ沈黙していると楓さんがパチンと手を叩き一言つげた。

「うん、やめな。」

「やっぱそうっすか……?」

「澁谷君、タイミングが合わなかったのなら、違うんだよ……本当に運命なら、今の子と別れた後にも絶対にあるし、ないなら違うんだよ……それくらい今じゃないと思うよ。」

 楓さんは言い終わると残りのビールを一気に飲み干した。私はその姿にカッコいいと見つめてた。すると今度は傑先輩が、口を開いた。

「……まぁ、でも海音の気持ちも……わかるよ……それくらい忘れられない……というか揺らぐ気持ちがあるんだろ?」

「そ……そうなんです……もちろん、今の彼女が好きじゃないとかではないんですけど……でもずっと好きだった故に揺らぐ自分もいて……。」

「そうだな……忘れられない人っているよな……。」

 傑先輩はそう呟いた後、なぜか私のほうを真っ直ぐ見た。私は急な真剣な眼差しにふいに目線を外した。

「澁谷くーん、一旦、とりあえず、断りな、で、しばらく時間置いて、それでもって言うなら、今の彼女に説明した上で別れなよ。」 

 楓さんはタッチパネルをポチポチしながら、そう彼に伝えた。

「そうっす…………ね、はぁーー、もうなんていうタイミングなんすかねっ!青葉もそう思わない!?」

「他の子選んだのはじぶんでしょ?」

「え、冷たっ。」

「知らない子より同期のが大事だから。」

「いや、俺も同期なんだが。」

 私は彼にきっぱり言いながら、つまみを食べ始めるとまた元カレが何故かこちらをまじまじ見ていた。

「なんですか?冷たい人間に見えました?」

「……え!……いや、別に……。」

 私の急な言葉に彼はうろたえ始めた。私は軽くため息をついて、残りのビールを飲み干し、さっき頼んだ刺身を食べたら帰ろうと心に誓った。  

  

 

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