裏の八、回復の目覚め
ザアーーーーー
俺は汗を流すためにシャワーを浴びていた。そしてさっきの自分の行動を振り返っていた。
(何だ……?何か触りたくなったけど……でも触ったら終わりな感じがして、とっさに手を上げてしまった……。)
俺は自分の両手をグーパーしながら動かした。でも考えても考えても、答えが出なかったので諦めた。シャワーを止めて、バスタオルで体を拭き始めていると、自分が考え事をしながら浴室に向かったので、着替えを忘れたことを思い出した。
「まぁ、寝てるからこっそり取ればいいか……。」
そう思った俺は腰にバスタオルを巻いて、脱衣場を出たら彼女も同じタイミングで部屋から出てきた。
「あ、起きました?」
彼女は一瞬俺を見て固まったと思ったら、みるみるうちに顔が真っ赤になって叫び始めた。
「なななっ……何で、何も着てないのっ!」
彼女はかなりテンパりながら話しかけてきた。
(この間、俺の上半身裸、見たよな……?何で、そんなに恥ずかしそうにしてるんだ……意味分からん……。)
「汗かいたからシャワー浴びたんすけど、着るもの忘れてて…………ってか、この間測定した時とあんま変わらないし……。」
「か、変わる!……全然違うっ!下着履いて!」
「…………はいはい。」
(……変わるんだ……変な人……。)
俺はそのまま通りすぎて自分の部屋で着替えた。
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「……青葉先輩、ありがとうございました。」
俺はキッチンでおかゆを用意してくれている彼女にお礼を伝えた。彼女は鍋を見たまんま、うん、どーいたしましてと軽く返事をした。俺がいつでも食べれるように用意してたのだろうか、もうすでに出来始めていた。ただの後輩に何でここまでしてくれるんだろうと、ふと疑問に思ったので聞いてみた。
「何で、来てくれたんすか?」
「……ん、?……辛そうだったから……。」
(まぁ、確かに辛かった)
「……そっすか。」
「それに神山って……頼らなそうだし……。」
「…………。」
「ぜーんぶ、何とか1人でしようとしそうだから……だから電話もすぐ切ったんでしょ……?」
(この人…あの電話でそんな事思ったんだ。)
「…………さすがに、看病は頼めないっすよ……。」
「別に頼って良いのに……これくらい。」
俺はその一言にそわそわした。初めての感覚で、よく分からなかった。ただ何かさっきの寝室と同じような気持ちが出てきて、とっさに隣に座って、相手の足に体重をかけた。何だろうな、安心するような、でもそれでいてそわそわする不思議な感覚。
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「うめぇ。」
「あと食べれなかった時用に冷凍庫にレモンとヨーグルトのシャーベット作ったから、それも食べたい時に食べて。」
「ども、何から何まで……。」
俺は食べながら横目にキッチンを見た。それ以外にも何か用意してくれていたのか、タッパーに何やらメモを貼りながら冷蔵庫の中に閉まっていた。朝比奈さんの言う通りの人だ。これだけ優しくて、可愛いなら、彼氏いないのが逆に不思議でならない。そんな事を考えながら、おかゆを食べすすめていると彼女が話しかけてきた。
「いいえ、じゃあ私は帰るよ……。」
(あ、帰るんだ…そりゃそうか、用事終わったもんな…。)
「……じゃあ、玄関まで見送ります。」
「え、いいよ、食べてなよ。」
俺はそれを断り一緒に玄関に向かった。彼女は玄関に着くとしゃがんで靴を履き始めた。その時に髪をまとめたまんまだったので、ちょうど綺麗なうなじが見えた。彼女は履きながら何かを話していたが、全然耳に入らなかった。それよりもまたさっきの衝動にかられていた。そして思わず彼女のうなじにそーっと手を伸ばした。しかし彼女が何かを思い出して振り返ろうとしたので、とっさにヘアクリップを取ってしまった。その行動にかなり驚いたのか、身体がビクビクとしたのが見えた。
「……なっ、何してんのっ!」
「あ、やべ……つい……。」
(確かに、俺、何してんだ……?)
「……つい?……何のイタズラよ……はい、返して。」
彼女は俺に手を差し出した。彼女は少しだけ恥ずかしそうに俺を見上げていた。その表情に思わずゾクゾクしてしまった。ヘアクリップをそっと彼女の手にのせた。
(手……やっぱ小さいし……細いな……。)
彼女がそれを掴もうとしたので、俺はそのままその手をヘアクリップごと握りしめた。彼女はまたビクッとして固まっていた。
「…………。」
「……あの~握ったら……貰えないんですけど……。」
(そうだよな……そうなんだけど……。)
「…………来週の日曜日、何してんすか。」
「……え?」
何かを話さなきゃと思い、何を思ったのか来週の予定を聞いてしまった。
「……何か予定あるんすか?」
「…………家で卒論……。」
「じゃあ、俺の家でもできますよね……?」
「で、できるけど……何?」
「今日のお礼させて下さいよ。」
「い、いいよ。気にしないで……勝手にやったこと――――。」
「来て。」
彼女が明らかに困っていたので、ついつい強めに言ってしまった。そしてさらにギュッとその手を握りしめた。
「…………わ、分かったから……離して……。」
そう言われたので、安心してそっと離した。
「はい、、、じゃあ、日曜日昼くらいに来て下さい。」
「……うん。」
「じゃあ、気をつけて。」
「じゃあ、お大事に……。」
彼女は手を振りながら去って行った。俺は心拍数が上がっている気がして、自分のおでこに触れた。すると熱かったので、まだ熱あるのかと思いながらリビングに戻った。