八十五、過去の一人
あれから数日間二人で過ごした後、また澄はチームの本拠地に旅立って行った。離れてる間は長く感じる時間が、一緒にいるとなんでこんなにも早いんだろうか。私は部屋にあった山茶花を見て、手を振りながらいってきますと言って玄関に向かった。
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「おはようございます。」
私は先にロッカールームで着替えていた楓さんという先輩に挨拶した。私より入社1年しか変わらない先輩だけどとても頼りがいのある先輩だ。
『お、青葉ちゃんおはよう!……あっ、ねぇビックニュースあるよ?』
「なんですか?」
私はロッカールームで衣服を着替えながら、職場の先輩に答えた。
「ふふふ、実はやっと我が店舗、インストラクター増えることになりました!」
「え……?やったー!そうなんですね!突然の異動とかあって大変でしたもんね~。」
ここ最近新店舗オープンが多く、続々と人がそちらにとられてしまい、人員不足が重なりバタバタしてしまったのも忙しかった理由の一つだ。私は元々食事管理インストラクターがメインだったが、パーソナルジムで指導員がいないんじゃ話にならないので、急遽兼任を短期だけした。とはいっても私は月2回程度の緩やかにやりたい人達だけだったので、あまり大したことはしてないと思ってる。
「青葉ちゃんには色々負担をかけちゃったよね……本当に助かりました!ありがとうございます。」
「いえいえっ!先輩から引き継いだ方々が優しかったので、逆に私がお客様に助けられてました。」
「あ、そうそう、二人の内の一人は青葉ちゃんの同期だよ。」
「……………………え、まさか。」
「澁谷君だよ。」
「わー、うるさいやつきたー。」
「いいじゃん!明るくてさ!」
私は楓さんにそう言われて、それはよく言えばの話ですよと笑いながら伝えた。確かに毎日澁谷君がいれば現場は明るくはなり、店舗の雰囲気はいいかもしれないけれど、同時に私は澄を知られてしまっている手前面倒だなと思った。とりあえず、職場では彼を身内で通してること伝えないとな。
「あともう一人は…?」
私はそう言いながら自分の支度が終わり、ロッカーを閉めた。先輩も同様に準備が整ったので、お互いにロッカールームの扉に向かった。
「ずっと海外支店に行ってた人なんだけど、爽やかな優しい人だよっ!」
「へー……。」
私達がちょうど通路に出ると、奥にある事務所の出入口で男の人が二人立っていた。
「あ、あれじゃない?!」
「あー、そうですかね…………………………え。」
「おーいっ!澁谷くーんっ!傑さーん!」
「あ、おはようございます。」
「おは……………………え、香奈ちゃん……?」
「………………すぐ……る……先輩…………。」
私はまさかの元カレとの再会に過去の色々が一気にフラッシュバックした。大学時代に澄以外で唯一付き合った人、宮野傑が何故か今、目の前にいる。私は一瞬固まったが、職場だったことを思い出して、我に返り挨拶した。
「お久しぶりです、食事管理インストラクターをしてる青葉です。よろしくお願いいたします。」
「え、青葉、傑さんと知り合いなの?!」
澁谷君は私と傑先輩を交互に見ながら、驚いた様子で聞いてきた。
「そう、大学時代の同じ学部の先輩と後輩、でも1年くらいしか関わりないけどね、そうですよね?宮野さん?」
「………………あ、そ、そうだね。」
「楓さん、私、今日の予約確認してきますね!」
私は二人に失礼しますと言って、その場をすぐに離れた。一刻も早く、私は少しでも気持ちを落ち着かせたい一心だった。
「青葉ちゃん。ありがとう!澁谷君……は一回、配属されてたから分かるかな?」
「そっすね、青葉とオープン作業しますわ!」
「そ、じゃあ、よろしく~、傑さんは私が場所色々教えますね~。」
「…………あぁ、頼むわ。」
「じゃあ、俺も失礼します!」
そう言って、澁谷君もその場を離れた。
「……傑さん、私、一回荷物置いてくるんで待ってもらっていいですか?」
「…………なぁ、佐野。」
「なんですか?」
「………………か…………青葉さん……って彼氏いる?」
「えぇ!いきなりすぎません?!」
「あ……わり、…………そうだな、仕事中だったわ……。」
「ん~……たぶん、いないですよ?たまに家族の弟さんが心配して迎えに来てくれてましたけど……青葉ちゃんって社畜なくらい仕事大好き人間で、恋愛の話してるより今日のお客様がどうだった~とかばっかりなんで。」
「……………………そ、………………そっか。」
「傑さ~ん……もしかして、大学から好きだった……とかですか?」
「……あ、あぁ、そうなんだわ……片想いで。」
「マジー!?…………運命じゃないですか!」
「…………そ、そうだよな……俺も正直そう思ったわ……。まさかまた、再会できるなんて……。」
「やば楽しい……あ、ダメダメ仕事しなきゃ……切り替えましょ!」
「はは、わりーな、お願いいたします。」
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「青葉ーっ、俺も作業するなー。」
「澁谷君、分かってるよね?」
私はパソコンなどを起動させながら、彼をじっと見つめた。
「………………どうせ彼氏だろ?分かってるよ。」
「弟設定なんで。」
「は?彼氏でいいじゃん、誰か言わなきゃいいだけで……。」
「…………前に週刊誌大変だったの……。」
「ひー、さすがの有名人。」
「ば、バカ!静かにして!」
「はいはい、わかったよ、聞かれたら弟君ね。」
澁谷君は手をヒラヒラさせながら、マシーンをどんどん設置、準備、し始めた。
「じゃあ、その代わりさ~…………。」
「………………?」
「今日、仕事終わったら一杯付き合ってくれよ~。」
「なにそれ。」
私は予約確認でキーボードをカチカチしながら、飽きれぎみにパソコンに向かって返答した。すると遠くに居たはずの澁谷君がパソコンの後ろからニョキっと生えてきた。私はびっくりして思わず、ヒッと叫んだ後に、近くにあったバインダーで軽く彼の頭を叩いた。
「いってー、んすけど……。」
「そ、そっちが急に顔だすからでしょ?」
「いいじゃーん、相談にのってくれよ~……。」
「なんの?」
「恋愛。」
彼はわざとらしく胸元に両手でハートマークを作り、首をかしげてウィンクしてきた。
「…………きも。」
「さっきからひどくない?……頼む!奢るから!教えてくれよー、付き合える方法ー、プロだろ?」
「は?プロなワケあるか…………まぁいいや、いいよ。」
「っしゃあーっ!!残業すんなよ!?」
彼はそう言いながらモップをとりに走っていった。私はこれはこれで気がまぎれていいのかもと澁谷君の存在に感謝した。
「…………澄に言わなくて、いいっか。」




