八十四、まったりからの急変
「ふふ、。」
私はテーブルに置いた花瓶に入った山茶花を眺めていた。花瓶は前に買ってしばらく使ってなかったのを奥の方からひっぱり出した。心底とっておいて良かったと今日心の中で思った。
「…………そんなに…………嬉しい?」
ソファでテレビを観ながら横に座ってる彼に私はそう言われて、素直にうんと頷いて彼の肩に頭をよせた。その反応を見て、彼は少し照れ臭そうに前を見つめたまま、そうですかと小声で呟きながら繋いでいた手を少しぎゅっとした。さっきの花言葉の一件もあり、相当恥ずかしいのかさっきから全然目が合わない。でも私も伝えられるときに伝えなきゃと思い、ゆっくり彼の耳元に手を添えて口を開いた。
「あと……ね。」
「……ん?」
「………………久々に澄を側で感じれて嬉しいです。」
私はそう言いながら反対側の繋いでいる手をさらに私からもギュッとした。すると彼は、んんと言いながら咳払いをした。
「なに…?」
「……………………まじで…………なんなの……。」
「なにが?」
「………………おれ……さっき、仁美さんに浮気を疑われたり……俺がふるんじゃないかとか言われたんだけど……?」
やっと彼がこちらに目だけを向けた。
「え……あぁ~……言ってた……かもね。」
「だから、日頃伝わってないのか……ってなってのこれなんすけど…………?」
澄は目の前の山茶花を指差してから、私の頬にグリグリその指をさしてきた。
「……ご、ごめんて……たぶん忙しくて、気持ちがネガティブ気味でした……本当にすみません。」
「…………伝わった?」
「もちろん!」
私はそう言いながら、あいてる手で親指をたててグッドですよと片手で表した。
「…若干、疑わしいけど、まぁいいや。」
そう言うと、彼はまたテレビに視線を戻した。たぶんもう諦め半分な感じなんだろう。するとテレビの向こうのアナウンサーの人が、急に慌ただしく、嬉しそうに速報ですとこちらに向かって話し始めた。
『…………たった!今ですね、すごく素敵なニュースが入ってきました。俳優の○○さんと○○さんに新たな命が誕生したとのことでした――――――』
去年のヒットドラマでW主演を勤めたカップルのおめだい速報が急に始まり、私もおーっと言いながら拍手した。
「ついになんだね!おめでたいね!」
「ふぅ~ん……有名?」
「えぇ!?知らないの?今年のビックカップル誕生だって話題になってたじゃん?」
「…………知らね。」
彼はたんたんとそう答えながら、ちょっと水とりいくと言いながらその場を離れた。私はまぁそうでしょうねと思いながら、はいはいと返事をして、再度テレビ画面に注目した。この俳優さん達は昨年のドラマ共演がキッカケで、世間ではかなり盛り上がった人達だった。しかもかなりのスピード婚で、トントン拍子に話が進んでいった中、さらに妊娠出産となり、話題がどんどん盛り上がる形になった。
(……たしか、私とあんまり女性は年齢変わらないんだよなぁ……スゴいなぁ~……………子供かぁ、、、澄に似たら………………。)
「…………可愛いよなぁ……。」
「そんなにファンだったの?」
「………………っ!」
いつの間にか澄が隣に座っていた。私は急な声かけに驚いて、口をパクパクしてしまった。
「……なに?…………その反応。」
「え!?いや!?……何もないよ!!」
「……………………もしかして、俺に似た子供産まれたら可愛いかなとか想像した……?」
「………………………………。」
私は彼の問いかけが図星過ぎて黙ってしまった。たぶん冗談のつもりで彼は言ったみたいなので、気にせずに水を飲みながらテレビを見ていた。しかし私が何にも反応がないのに気づいたのかしばらくしてこちらをチラッと見た。
「……あ、わり……冗談が過ぎたか…………。」
「……………………。」
「……………………怒ってる?」
「怒ってるわけないじゃんっ!!」
「え?声でか…………………………なに、その顔。」
私はその一言で両手で顔を隠した。するとふーんと言いながら、隣でソファのきしむ音がした。見なくても分かる、彼は身体の向きをこちらに向けたはずだ。長い沈黙が続いた。私は耐えきれなくて自分から話し始めた。
「…………な、なに?」
「なにが?」
「……………………こ、こっち向いてない?」
「向いてる。」
「い、いいから!テレビ見なよ!」
「やだ。」
「やだってなに!?」
「……俺の子、産んでくれんの?」
「ななっ、なんちゅー質問してんの?!」
「自然の流れじゃない?」
「自然!?どこが!?」
「……先に想像したのそっちじゃん。」
私の頬にまた彼が指をぷにぷに指してきた。
「俺は香奈に似てほしいんだけどな。」
「………………は、話続けるの!?」
「香奈から始めたじゃん。」
「は、始めたつもりじゃ…………ない。」
「香奈に似た……………… 女の子がいいかな。」
「え!?」
私は意外な発言に思わず、両手をおろして、彼に近づいた。
「そんなに驚く?」
「てっきりバスケ一緒にできる男の子とか言うかと思ってたから…………。」
「あーー……いや、初めはそうだった。」
「………………?」
「今のチームに子供3人いる人がいて、3歳、5歳、8歳……全員男の子らしいんだわ。」
「た、大変そう……。」
「んで、聞いたら毎日奥さんの取り合いなんだと…。」
私は頭の中で男の子3人がやいやい言ってるのを想像した。たぶん毎日が戦争なんだろうなと思った。ましてやアスリートの旦那さんを支えながらなんて、さらに大変そうにしか思えない。しかしそれで澄が女の子がいいっていう発想に繋がるのは意外だった。
「………大変そうだから?」
「は?何が?」
「いや、男の子は大変そうだから?」
「……………………取られんの嫌だから、だって……俺のでしょ?」
彼はそう言いながら、手を私のうなじに添えて、自分のおでこをコツンと私のおでこに当てた。
「……………………っ!!」
「ははっ、ずっと顔が赤い、可愛い。」
「~~~~~~っ!?」
「はー、触れられるって幸せだな。」
そう呟くと彼はさらに私を抱き寄せて、私の肩に顎をのせてはぁーと深く息を吐いた。
「…………今日はやたらと……口が達者で……。」
「伝わってないようなんで……。」
「……うっ、何も言えない……です。」
「だろうな、じゃあ素直に抱き締められててくださいよ。」
私はその彼の一言に久しぶりの安心を感じた。




