八十三、彼の気持ち
「よしよし……。これで大丈夫でしょう。」
私は一通り掃除機がかけ終わり、部屋を全体的に見渡した。最近バタバタだったので、正直寝るだけのような日々だった。なので散らかったままの干して畳めてない洋服、捨てるタイミングを逃し続けた空き缶などを片っ端から片付けた。ダイニングテーブルに会社の書類が少し山積みだったけど、それは一旦すみにまとめることにした。
「さて、掃除機もかけたし、テーブルも片付けたし、寝室も整えたし……多少はあれだけどいいでしょう!」
私は掃除機を片付けながら、壁時計をチェックすると仁美と別れてから2時間は経っていた。たぶんそろそろ着く頃な気がすると思い、そのまま浴室に向かい、湯船にお湯を張り始めた。そしてタイミングを見計らったように玄関から扉が開く音がした。私は湯船に蓋をして、一瞬鏡で自分の姿をチェックして、小走りでそちらに向かった。
「っお、おかえりなさい!」
やはり土地柄的に焼けてしまうのだろうか久しぶりの彼は少しだけ日に焼けて見えた。あと前よりも体格がいい気もする。
「ただいま……っていうか、何で仁美さんと待ってないんだよ。」
「え、あ、いや~………………実は部屋が散らかりすぎてて……。」
「いや、それは聞いたけど……別に一緒に片付ければいいじゃん。」
彼は不満そうにそういうと、大きいボストンバッグと紙袋を持ちながらこちらに近づいてきた。
「いやいや!それは違うよね?だって私がただただ部屋を汚してたんだから、澄にやらせるなんてっ……。」
「……なんだよ……………。」
「…………?」
「早く会いたかったの………………おれだけ?」
「…………え?」
そう言いながら彼は私に近づき、頭をポンポンと撫でながら寝室に向かってしまった。私はその一言で一気に自分のことしか考えていなかったことに気づいた。そもそも今回の帰宅もわざわざちゃんと連絡してくれていたのに、それを見落としたのは自分だった。それが無ければ先に家に向かうなんて発想にもならなかったはずだ。私はさっきまでの達成感が一気に恥ずかしくなった。そしてさっさと荷物を置きに行ってしまった澄にどう顔向けすべきか頭の中でグルグル考え始め、どうしようと困って立ち尽くしていると、すぐに寝室から彼が出てきた。
「……っとお、る……ごめ…………。」
私はとりあえず謝ろうと、一歩踏み出すと、いきなり小さめの花束を渡された。
「…………え!」
「………………。」
「あっ……え……?…………おはな?」
「山茶花って……知ってる?」
私は花束を受け取りながら、困惑していてしまい、さざんかとただオウム返しをするしかなかった。私はそこまで花に詳しくはないので、見た感じ椿かなくらいに思ったくらいだった。しかも和風な花束って珍しいなとさえ感じた。
「今日、仁美さんにバラの花束渡して、プロポーズしたらって言われて……。」
「は!?」
「……で、それは無いわってなった。」
「あぁ、そうね。」
「……だけど、花あげるのは喜ぶかなって……思ったんだわ。」
「う、うん。」
「……で、朝比奈さんに花屋に寄ってもらって……見てたら、店員さんが花言葉で選ぶのどうですかって。」
「……………………はな……こと……ば……。」
「そう…………ちなみに……意味は、困難に打ち勝つ。」
「………………え?……意外と力強い。」
私は思わず渡された山茶花の花を見て、てっきりありがとうとか、せめて頑張れくらいと思っていたので、この子すげーなと言う目でさらにまじまじ見つめてしまった。
「……………………あと…………。」
「あ、まだあるんだ……。」
「……………………ひ、…………。」
「ひ?」
「……………………………………。」
「……………………………………。」
すると彼の顔がみるみるうちに赤くなっていってるのがすぐに分かった。
「……とおる?大丈夫?」
「~~~~っ!くそっ、これ普通言うもんなのか!?」
彼はそう叫びながら両手でいきなり顔を隠し始めた。
「……え、そんな恥ずかしい花言葉なの!?……あ、いしてるてきな?!」
私はちょっと自分で言うのが正直恥ずかくなり、またしても手に持ったその子達を見つめた。手に持った花も彼と同じくらい赤かった。
「ちげーわ………………ああー…………まじではずい。」
「…………そ、そんな無理して言わなくても……あっ、私、スマホで調べるよっ!」
私はそのまま隣を通りすぎようとした瞬間、腕を引っ張られて、後ろから抱き締められた。
「大体香奈が悪いんだからな。」
「え、はい、それはそうです。ごめんなさい……ろくに返信もしてなくて……。」
「だから違うって。」
「え?先に行っちゃったから?」
「………は?…………だから………はぁあ……………………。」
「ち、ちがった?」
「…………………………ひた……む……き。」
「なに?」
彼はまた言いにくそうに何かを言い始めた。
「ひ……たむきな…………愛……らしいです。」
「へ?」
私は何がなんだか分からず、ただ耳元に響く彼の声に耳を傾けた。
「……赤い…………山茶花……は……。」
「………………うん?」
「…………………………あなたが……。」
「うん。」
「…………あなたがもっとも……美しい……だそうです。」
「へ!?」
私はまさかな言葉を聞いた瞬間、一気に全身の毛穴から火が出そうなくらい恥ずかしくなった。
「……………………。」
「…………………………。」
「なんか……言えよ……こら、……。」
「な、なんかって…………私のほうが……恥ずかしいんだけど……。」
私が素直にそう返すと、しばらく気まずい沈黙が流れ始めた。すると彼が一息ついた後にまた話し始めた。
「……色々あったんだけど……花……。」
「そうだよね。」
「凛としてる…………花が似合うなって。」
「…………………………。」
「かわいい……のじゃなくて、綺麗っていうより、凛としてるカッコいい花……がイメージ。」
「………………………………。」
「そしたら香奈ぽくて、目に止まったのが……それ。」
私はそう言われた後に手に持った花束を見つめ、ギュッとさらに力強く抱き締めた。
「……………………ズズッ。」
「……え、泣いてる?」
「嬉しいんだもん……そう思って選んでくれたのも、意味もちゃんと伝えてくれたのも……。」
「……そう……っすか。」
「うん、ありがとう。」
「…………………………どういたしてまして。」
彼はそう言うと私をさらに強く抱き締めた。




