七十六、どきどきのお風呂
「すごーーいっ!ジャグジーのお風呂ってこんな感じなんだね!」
私は先にお風呂に浸かりながら、両手でお湯をすくったり、パシャパシャ水面を叩きながら、一人感動していた。そんな私をよそに、すぐ近くで彼はいつもどおり身体を洗っていた。澄は楽しそうで何よりですと私に言いながら、シャワーの蛇口をひねり泡を流し終わると水を止めた。
「えーーー、もっとさぁ、せっかくなら感動しようよ。一生に一度かもしれない経験で、これから先、泊まれるか分からないんだよ?」
「…………香奈がここでまたプロポーズされたいなら、喜んでみんな用意してくれるんじゃね?」
「なッ!!、またその話?!」
なんでこの人は何回もこの話を淡々と普通の会話みたいに話してくるんだろう。私は疑問だと思いながら困惑していると、彼もゆっくりお風呂に浸かり始め、はぁーと言いながら髪をかきあげた。私は狭いかなと身体一つ分くらいをあけて横に少しずれた。しかしその行動をしたとたんに、彼がじっとこちらを不服そうに見つめ返してきた。
「……なんでだよ……こっちこいよ。」
「え、なんで、広いから、広々入ろうよ。」
「やだよ、広くても近くにいなきゃ意味ねぇよ。」
「なに、意味って?!……一緒に入る以外に意味ってなくない?」
「あぁ、そう……おれがそっちいけばいいの?」
私はその一言で諦め、そろそろ~と彼の隣にいった。
「……え、そこ?」
私はさっきまで居たところにいればいいのかなと思ったので、逆に驚かれるのがよく分からなかった。
「え、、、さっきと場所一緒じゃん。」
「ちがう、ここな。」
彼はそう言いながら、人差し指で自分の前を指でさした。
「そこは……ちょっと……。」
「なんで。」
「………だって……。」
「なに。」
「………………わかった……………。」
私は渋々彼の前に座ると案の定私を引き寄せて、後ろから抱き締めてきた。そして予想通り私は背中に全神経がいってしまい、気になって仕方なくなった。
「…………もうちょい、せめて離れようよ。」
「さっきから、なんなんだよ。」
彼は耳元で不満そうにそう言ってきた。私はあんまり言いたくないのにと思いながら正直に話した。
「…………あた、あたってるの気になる。」
「生理現象だからしょうがなくね?」
「わっ、分かってますよ!……でもだからと言って気にならない訳じゃないので!」
「……じゃあ、こっち向けば?」
彼は私の頬をツンと指差しながらそう言った。
「それはそれでおかしいでしょうよ!」
「めんどくさ。」
「ひど。」
私はもういいよと諦めて、左手をぷらぷら彼にふった。すると私の左手首を急に彼がつかんできた。
「なっ、なに!今度は!」
「何号?」
「は、なにが!?」
「薬指、何号?」
「……………………えっ!?」
「わかんねぇの?」
「いや、分かるけど、分かるけども!」
「いくつ?」
「…………9……です。」
「わかった。」
「………………………………ホントに買うの?」
「いつかな。」
「びっくりした……明日とか言うかと思った。」
「明日ほしいの?」
「……………………………………………………。」
「聞いてる?」
私はそう聞かれた瞬間、顔だけ彼のほうに向けた。急に振り向いたので彼はかなり驚いた様子だった。
「澄くん、一ついいですか?」
「なんですか、香奈さん。」
「この話題系、いったんやめましょう?」
「………………やだった?」
「ちがう、嫌じゃない……けどお互いの場所で頑張るって決めた決心が………………少し揺らぎそうになるから。」
「………………。」
「……自分で決めたのに、澄についていきたくなっちゃう自分がでてきそうで…………嫌なの……。」
私は真剣にゆっくりと彼に本心を伝えた。彼も真剣にこちらを見つめて、ゆっくりとわかったと答えてくれた。私は少し安心してはぁと言いながら彼に身体を少し預けた。
「のぼせそー。」
「確かに、ちょっと休憩しよう。」
彼はそういうとザバっと湯船から、立ちがあがり、浴槽の縁に座った。
「…………ふぅ……、あっち……。」
「………うわー相変わらず、いいからだしてるよね。」
「なにそれ……急に仕事目線?」
「…腹筋触りたいかもっ!」
「今さら…………どうぞ。」
私はそろりと近づいて、彼のお腹をさすり始めた。
「おぉ!……やっぱ素晴らしいね!」
「どーも。」
彼は何やら複雑そうな顔をしていた。そして私は腹筋を触っている手を少し足にずらした。
「…………それ、今、どういうつもりで触ってんの?」
「…………ん?……だめ?」
「好きにすれば。」
「…………………………。」
私はそっと指先で足を全体的に撫でてみた。すると彼の身体が若干ピクッとした。
(あー……なんか、私も何だかんだ、我慢してたんだなぁ…………。)
私は少し悩んだ末、そのまま顔をそっと近づけた。
「…………ちょっ!……かな!?……んっ!」
「……ん…………ふ……。」
「…………うっ…………うわ…………ち、ちょっとまってって……。」
「んぐ……ん…………ん……。」
「………………まじ……で…………やば……っい。」
私はチラッと彼の方を見上げてみた。恥ずかしそうに我慢してる顔がたまらなかった。焦ってるような、苦しそうな、でも少し嬉しそうな、そんな人を可愛いって思ってしまうくらいにずっと見ていたくなった。
「…………んんっ、んぐ。」
正直この行為事態が若干苦手ではあった。けれどなぜかさっきの表情といい彼の新しい一面が垣間見れる気がして止められなかった。
「んんっ……んっ、ん。」
「っつ!!……そ、、、それいじょっ…は…………っん!……。」
「んん!」
私はすぐに口をおさえて、湯船から出て、蛇口から水を流して、口をゆすいだ。
「……けほっ。」
私は口の回りを手の甲で拭い、落ち着いたところで振り返ると、若干涙目をして、困惑した顔をした澄がこっちを睨んでいた。
「…何で……急に……。」
「………………………………してあげたくなったから。」
「……こっちが耐えてんのに?」
「耐えなきゃいいじゃん。」
「……その言葉、忘れんなよ。」




