七十五、ふたりのじかん
案内され入った瞬間に私の想像を越えた部屋だった。まず部屋が広すぎた。今までの人生で一番の広さの部屋だった。そして絶景とはこの事だといわんばかりの夜景だった。私はアワアワしながら立っている中、澄はベルスタッフの方の説明を聞いて、ありがとうございますとカードを受けとるとスタッフの方も会釈してその場を離れた。私はスタッフの人がいなくなるのを扉の音で感じた瞬間、荷物をほっぽり澄にすぐしがみついた。
「ととと、澄?!」
「わかってるから、落ち着いて、たぶん勘違いされた。」
「か、勘違い?!」
「姉貴がオーバーに話したから、たぶんプロポーズの部屋だと思われたっぽい……。」
「……………………。」
「…………おい、聞いてる?」
「そういうことかっ!……じゃあ、変えてもらお?!」
「は?」
「だ、だって……そんなつもりじゃなかったでしょ?!」
「変えねーし、姉貴が勝手にしたんだから、もうこれでいいじゃん。」
「えーっ!で、でもっ……これはさすがにやりすっ…………んんっ!」
私がうるさいと思ったのか、澄はいきなりキスで私の口をふさいできた。しかもガッツリ私の腰を両手で引き寄せてるので、全然後ろにひけない。私は彼の胸元をパシパシ叩いて何とか止まってもらった。
「…………んっ、ぷはっ!」
私は長めのキスから何とか解放され、ゆっくり呼吸を整えた。そんなことはどうでもいいのか、携帯などをテーブルに置き、彼はこちらにまた戻ってきた。
「ジャグジーあるらしいけど、一緒に入る?」
「……じゃ、、ジャグジー?」
「うん、泡風呂もできるらしい。」
「すご……。」
「……………………………………で?」
「………………っ!」
私はまた身体を彼にホールドされながら、今度はそのまま頬を撫でられた。何日かぶりの本当の二人っきり、かつ特別な空間というのが相まって、興奮と緊張のドキドキが止まらなかった。そして好きな人がまっすぐこちらを見つめている。
「……ぅ……えぇ…………。」
「なに、その声。」
「……そんなの戸惑ってるからに決まってるでしょ。」
「じゃあ、押し切るか。」
「おし……?……うわわっ!」
澄は私の身体をそのまま抱っこして、まっすぐ浴室に向かい始めた。
「ちょ、ちょっっとまっ……。」
「待ってる時間が惜しい。」
そしてそのまま洗面台のふちに座らせられ、私の身体を間に挟むように澄は両手をついた。
「どうする?先に、はいる?」
「どうせ途中で入ってくるんでしょ?」
「わかってんじゃん。」
「強引なひと………………。」
「……これでもだいぶ我慢してる。」
「はい?」
「本当はもう今すぐしたい。」
「……っちょ?!何言ってんの?!」
「いや、どれだけお預け状態だと思ってんだよ。」
そう言いながら、彼は私の首すじをスーッと触れるか触れないかくらいで触ってきた。私はその行動に思わず身体が小さくビクンと動いた。
「………………でも、嫌っしょ?仕事終わりだし。」
「…………っん、………………。」
彼はまたそう言いながら、今度は指先で私の鎖骨をツーっと触れた。ひとつ、ひとつ、何かを確かめるかのように、肌を、骨を、反応を、感じるように触っているようだった。
「なんなら……身体は、俺が……洗おうか?」
「……………………ん。」
そして手が私の胸の中心に止まった。
「………………心臓の音…………はやい。」
「わ、わたし……だけ……?澄は…………違うの……?」
「…………触ってみれば?」
私はゆっくり彼の洋服の上から左胸あたりに手をおいた。彼の心臓も力強く、私に答えるかのように鳴り響いていた。
「……………………はやい。」
「だろうな。」
「……次は…………?どうするの…………?」
「…………………………………脱がせてい?」
「いいよ。」
彼はゆっくり私のシャツのボタンを下から上にむかって外し始め、全てとり終わるとシャツを肩から下におろした。そして着ていたキャミソールの中に手を入れて、ブラジャーのホックを外し、肩紐を左、右と、ゆっくりおろして床に下着だけ落とした。
「………………じゃあ、どうする…………こっから。」
彼はわざとそう聞いてきた。
「……聞くのそれ……。」
「………どうしたいの……?」
「……………………わざと聞いてんでしょ?」
「うん。」
「…………澄の……好きにしたら。」
その私の一言を聞いた瞬間、彼は私の顎をぐいっと持ち上げて激しいキスをしてきた。水気のある音とお互いの吐息だけがしばらく響いた。私も自分の身体を支えていた両手をゆっくり彼の肩に移動させた。
「んっ、、んん……は……。」
彼の片手が胸あたりに、もう片方の手は腰あたりに触れた。私はゆっくりまた手を動かし、彼の首に腕を回した。彼の吐息も混じって、私も高揚しているのを自分で感じた。彼はキスをやめて、そのまま私の首や肩に愛撫をし始めた。
「……と、………んんっ、とおる。」
「んー、なに?」
「洗面台……降りたい。」
「………………ん?」
「降りちゃダメ?」
「……え……あー、どうぞ。」
彼は少し離れて手をさしだしてくれたので、私はゆっくり手を持って、降りた。そして何も言わずに、自分でスカートをするりと床に落とし、そのまま彼に対して背を向けた。
「え……?は……?」
私はここで言うのがかなり恥ずかしくて、少しだけ彼のほうに顔を向け、うつむきながら伝えた。
「………………持って………………ないの?」
「………………なにを?」
「……前に風呂場には必要って…………言ってたから……。」
「…………え、……それ……って……。」
「っく………………口にださないと…………だめ?」
「……………………………………1分待って。」
そう言うと彼は一度その場を離れ、荷物があったほうからガサゴソ音がしてた。そしてそれであろう箱を取って戻ってきて、一瞬何かを考えて、私に近づいた。そしてまさかのそれを投げ捨て、私の腕をひっぱり、急に私を正面から抱き締めた。
「え……っ、とおる?」
「……………………やっぱ、風呂入ろう。」
「お、おふ……ろ?」
「……なんか、ダメな気がする。」
「え、?あ、そうなの?そう…………かな?」
「ここで、いきおいはやめよう……。」
「おぉ……?そ、そうなの?」
「ちゃんと、丁寧にあっちで、香奈に触れたい。」
「…………っ!」
彼は私の頬に手を添えながら、とても愛おしそうに見てきた。こんな表情をいつの間にかするようになったんだなぁと私もまじまじと真っ直ぐ彼を見つめ返した。
「うん、じゃあ…………お風呂入る?」
「うん。」
「…………ホントに洗うつもり?」
私は少しもじもじしながらそう聞くと、彼はクスクス笑いながらどっちでもいいよと自分も服を脱ぎ始めた。




