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七、突然の訪問

 彼とのやりとりはあっという間に1ヶ月経っていた。そしていつの間にか私は彼とのやりとりが習慣化されつつある業務となった。朝起きたら一番に確認し、お昼ご飯のアドバイス。昼の休憩かもしくは授業と授業の合間にはパソコンへデータ入力。同じように夜の食事のアドバイス。バイトから帰ってきたらまたデータ入力と卒論をすすめる。私はこの1ヶ月これの繰り返しで夏休みを終えようとしていた。

「そろそろ測定もしたいなぁ……彼と会わないとだよなぁ……。」

 私はノートパソコンのキーボードから手を離し、彼にアポイントの相談をしたくて、スマホのチャットで連絡をした。夜も遅かったし、明日は土曜日だからどうせ返事きても教授には会わないしねと思いながらスマホをすぐに伏せた。

 しかし待てど待てど、彼から既読すらつかず、翌日の昼を過ぎても音沙汰が無かった。なんなら1ヶ月続いた報告すら急に来なくなったので、さすがにおかしいなと思い電話をした。けど電話も繋がらず、留守番電話サービスになってしまったので渋々切った。私はたまたま練習が忙しいか、雑誌とかの撮影かなと思い、家でテレビを観ながら引き続き卒論をすすめた。私はスマホを確認してはノートパソコンに向かうという作業を何往復も続けた。

「さすがに遅い……。」

 私は時計の針がもうすぐ夜の7時をさそうとしてるを確認した。彼の事だから遅れるなら遅れるで連絡はくれる気がする。しかし再度チャット画面をデータ更新のスライドもしたが、最新バージョンで、やはり既読にすらならない。私は嫌がれるのを承知で彼にもう一回電話した。

「……これで出なかったら、諦めよう。」

 プルプル鳴り響いてる音がそろそろ途絶えそうだと思った時、電話の相手が出たような音がした。

「……もしもし?神山?」

「………………。」

 私は耳から離してスマホの画面を確認した。通話の秒数が一秒ずつ動いていた。やはり繋がってはいる。

「もしも~し?……聞こえてる?」

「…………ません。」

「……か、神山?」

「……ゴホッ。すんません。」

「もしかして……夏風邪引いてるの?」

「…………大したこと……ないんで…………じゃあ。」

「……あっ、ちょっ……。」

 彼はブチッと電話を切ったようだった。風邪をひいてるのに電話させてまずかったなと思ったが、相当辛そうに感じた。

「…………大丈夫……かな?」


 ――――――――――――――――

「あぁ…………つら……。」

 俺はベッドの上でうなだれた。近くにあった体温計で計ると39度に熱が達していた。何年ぶりかの風邪はなかなかに辛い。喉も少し痛い気がする。さすがに何かを口にしないとまずいかなと思い、壁に体重をかけながらゆっくりとキッチンに向かった。冷蔵庫を開けるとヨーグルトがまだひとつあったのでそれを手に取りキッチンに座って食べ始めた。

「はぁ……青葉先輩に申し訳なかったな……。」

 毎日送るデータが途絶えてしまった。卒論の提出ってそういえばいつか聞き忘れてたけど、しばらく連絡できなかったらまずいだろうか。キッチンで何とかヨーグルトを食べ終わり、身体の汗を何とかしようと今度は風呂場を目指して歩き始めた。無駄に広い家が今日は腹立ってくるなと思いながら、一歩一歩廊下に向かっているとエントランスのチャイムが鳴った。

「…………なんか、頼んだか……?」

 俺はゆっくりリビングに戻ってモニターを確認した。

「………………は?」

 さっきまで会話してたはずの人が映っている。驚きながら見つめていると、また鳴らしているようだったので通話ボタンを押した。

「……はぃ。」

「あ、開けてくれる?」

「……何……してんすか……青葉先輩……。」

「そういうの良いから開けろって言ってんのっ。」

 (たまにキレてくるの何なんだろうか……。)

 俺は渋々エントランスを開けた。そしてゆっくり歩きながら、玄関の扉の施錠を外した。さすがにもう立ってられなかったので、玄関に座り込んで待っていると、勢いよく扉が開いた。

「…………か、神山っ!」

 そう言うなり、彼女は近づいておでこを触ってきた。

「あつっ……とりあえず、タオル取ってくるから待ってて!」

 彼女は小走りで走ってバスタオルを持って戻ってきた。そして俺の顔を拭き、Tシャツを脱がして、上半身をささっと拭いてくれた。そしてバスタオルで身体を包んだ後、ビニール袋からガサガサと何かを取り出したような音が鳴った。そして箱をベリベリ開ける音がしたと思ったら、おでこに冷たいのがペタッと貼られた。

「……つめた……。」

「神山、肩貸すから頑張ってベッド戻ろう。」

 彼女に言われるがまま、俺は肩を借りて歩いた。チラッと横顔を確認すると必死な表情が見えた。この人、朝比奈さんが言ってた通りの人なんだな。

「ふぅ、神山……ベッド、着いたっよっと……。」

 そう言われて軽く投げられるようにベッドに倒された。

「着替え出したいから色々開けちゃうよ!」

「……どーぞ。」

「あと私が部屋から出たらバスタオルでもう一回身体拭いて、下着も全部変えて!」

「……はぃ。」

 彼女は俺の返事を聞くと部屋を出てった。俺は言われた通り身体を拭き、着替えを済ませて、またベッドに倒れた。すると体力の限界だったのかそのまま眠気に誘われて意識が無くなった。


――――――――――――――――――

 私はそろそろ終わるかな、というタイミングを見計らって彼の寝室をノックしてみたが、返事がなかったのでそーっと開けた。彼はまたベッドですやすや寝ているようだった。私は起こさないように洗濯物を回収して、彼にブランケットをかけ直した。そして今のうちにと思い、洗濯物を洗って干して、おかゆの下準備を用意した。あとはスポーツドリンク、ゼリーを冷やしたり、氷を作ったり、バタバタとしていたらあっという間に一時間過ぎていた。そろそろ、さすがに薬を飲ませないとだなと思い、彼の部屋に向かった。さっきと同じようにノックしたが返事がなかったので、部屋にそっと入って神山を優しく起こした。 

「……神山?……」

「………………ん…………。」

「…神山……起きれる?」

「……………………んん、なに……。」

「寝てるとこ……ごめん……薬……飲めそう?」

「あー、、、うん、たぶん。」

「あとゼリー、一口タイプの買ったから一個食べて。」

「………………あ。」

 彼は目をつぶったまま口を開けた。たぶん、入れろということだろう。

「……入れるよ?」

 私はゆっくり彼の口にゼリーを入れた。彼はゆっくりモグモグして流し込んだ。するとまた口を開いた。

「……もう一個食べる……の?」

「………………あ。」

「…………はいはい。」

 私はペットのエサやりかと呆れながら、また口にゼリーをほうり込んだ。

「……うま。」

「良かったね……じゃあ、薬飲んで……。」

「……あ。」

「…………粉薬だけど……起きないでいける?」

 彼はコクコクと頷いた。私は水入れるよーと言いながら、口に注ぎ、薬も注いだ。

「はい、飲んで。」

 彼はそのまま一気に飲み込んだ。少し咳き込んだので横を向かせて背中をさすった。

「……大丈夫……?」

 彼は小さく頷いた。小さく丸まった背中が可愛く思えた。私はそのまま背中をさすって落ち着いてきたのを確認したので、代わりにとんとん背中を優しく叩いた。しばらくしていると彼の呼吸が穏やかになった。耳を立てるとスーと小さな呼吸が聞こえたので、寝たんだなと思い、彼を部屋に残して私は静かにその場を去った。

 

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