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六十一、サプライズのお風呂

「疲れたなぁ~…………。」

俺は車の中で信号待ちをしながら1人呟いた。長い試合が終わった後にミーティングもあったので、わりとそこそこな時間になってしまった。何人かにご飯に誘われたが、移籍の準備がまだ全然整ってなかったので申し訳なかったが断った。それに近々香奈とは遠距離になるのが決まってるので、なるべく一緒に過ごせる日は過ごしたい。しばらくして信号が青になったと思ったら、そのタイミングを見計らったかのようにその一緒に過ごしたい彼女から電話がきた。

「……もしもし、どした?」

 俺はスマホをスピーカーの状態にして電話にでた。

「あ、澄、お疲れ様‼️あと、どれくらいで着くかな?」

「んー、わりと道すいてるから、あと20分かと……なんかあっ……。」

「っなるほど!わかったー‼️じゃあね。」

「……え、それだっ…………。」

 彼女は俺が話しきる前に忙しそうに電話を切った。

「……なんだ?」

 何で電話をしてきたのか少しだけ気になったが、まぁいいかとそのまま真っ直ぐ自宅に向かった。そして予想よりも早めに着いてしまったが、気にせずに自分の家に着き、そのまま鍵を開けて中に入った。俺の扉の音で気づいたのか、お風呂場からバタバタとこちらに小走りでエプロン姿の彼女が走ってきた。

「は、早くない⁉️」

「あぁ……意外と早く着けた、ダメ……だった?」

「ダメとかじゃっ……あぁ、でも、どうしようかな……。」

 そう言いながら、目の前の人は何かを悩み始めた。

「…………?」

「んーと、じゃあお風呂先に入るでも良い?」

「一緒に?」

 俺はわざとそう聞きながら、車の鍵をいつもの場所に置こうとした。すると想定外な返答がきた。

「そう‼️一緒にだよ‼️私も準備するから先に行ってて~。」

「…………は?」

 俺は驚きのあまり床に鍵を落としてしまったが、彼女はそんなことも気にせずにリビングに戻ってしまった。家の風呂はいつも断られてきたのに、急なあちらからのイエスという返答に頭の中の疑問が止まらなかった。

(…………慰めようと…………いや、違うか……なんだ?)

 頭の中でモヤモヤ考えて、心がソワソワしながら寝室に向かい、お風呂の準備を手に取り浴室に向かった。その途中であちらがリビングでバタバタしてるのが見えた。

「…………おれ、風呂入るけどー。」

「どーーーぞーーーっ‼️」

「………………。」

 一応声だけかけたがそのまま声のみの返しだったので、若干複雑な心境のままお風呂場に足を踏み入れた。そしていつも通り頭を洗い、身体を洗っていると扉をコンコンとノックする音が聞こえた。

「……はい」

「もう湯船つかってる?」

「……あと流せば浸かるけど……。」

「わかった‼️」

 彼女は俺の返答を確認すると脱衣場から出て行ってしまった。なぜかあちらは俺が帰ってきてからずっと世話しない。返答通り身体の泡を流して、しばらくお風呂に浸かっているとまたノックの音がした。

「入った?」

「入った。」

「オッケー!じゃあ失礼します!」

「……どうぞ…………って、え?なんで?」

「……ん?」

 浴室に入ってきた彼女はまさかのタンクトップに短パン姿だった。

「………………洋服着て……はいんの?」

「まさかっ!違うよー、じゃあ、あっち向いて頭だけちょうだい。」

「は?」

「いいから、いいから。」

 俺は意味が分からないまま、言われるがままに彼女に背中を向けた。首の後ろにバスタオル置くねーっと言われ。後ろでガチャガチャ音がしたと思った瞬間、急に耳元にシュワっと何回か聞こえ、パチパチ音が鳴り始めた。そして彼女は頭を揉み始め、急にヘッドスパを始めた。

「………………こういうことか。」

「ん?なにが?」

 彼女からしたらなんら疑問はないのだろう。

「……いや、…………何でもない。」

「そう?、あ、最近ね、職場でジムとスパの併設を検討するってなってさー。それで試験的に商品開発と体験やらせてもらったんだよ。」

「なるほど。」

「で、せっかくなら澄にやってあげようかなって、スパの専門業者の方に教わっちゃった~……どう?」

「すげー、上手。」

「わーい。」

 頭の上の彼女はすごく嬉しそうに笑った。そして今日一日を振り返り、なんとなく試合の結果を思うといたたまれなくなった。

「……………………ごめん。」

「え?」

「いや、せっかく試合来てくれたのに、勝てなかったし。」

「んー、そうね……でも次、勝てばいいじゃん。」

「……え。」

「あ!でも沖縄でやるとかなったら行けるかなぁ~。しかも今度は仁美も美咲もライバルじゃんね、1人は若干寂しいなぁ~。」

「…………はぁ~、……香奈ってそういう人だよね。」

「なに⁉️」

「一生勝てん。」

 俺はそう言いながら、片手で顔を隠した。そして何かが吹っ切れたのか目から少しだけ涙が出た。たぶんあっちも気づいていたと思うが、知らないふりをしながら鼻歌まじりに頭をそのまましばらくほぐしてくれた。

「そろそろ流すね~。」

 そう言いながらシャワーで優しく泡を流してくれた後、新しいタオルで彼女は頭を拭いてくれた。そして拭き終わった後にそっと彼女のほうを見上げると、さっきと変わらず俺に優しく微笑んだ。

「スッキリした?」

「した。」

「よしっ‼️じゃあ、夕飯のしたくするから、あっちで待ってるね。」

「待って。」

「…………ん?」

「ん…………。」

「ん?」

 俺は身体を起こして、彼女のほうに身体を向け、手まねきした。浴室の外に向かおうとした彼女はこちらに戻ってきて、首をかしげながらその場にしゃがんだ。

「なに?」

「…………きてくれねーの?」

「え‼️」

「サービス、終わり?」

「……や、、あの、まだご飯の準備が……。」

「一緒にやるから。」

「え……っと、でも……うぎゃっ⁉️」

 俺は自分が濡れたそのままで彼女を抱き寄せた。

「ちょっ……濡れてる‼️」

「わざとに決まってんじゃん。」

「こらっ‼️」

「ふは、お母さんみたい。」

「もう、ふざけてないで、はな…………あっ‼️」

 彼女が反論している間に俺はエプロンのリボンを外し始めた。

「取れた。」

「……取ったんでしょ?」

「……………………。」

「……はい、もう、離して。」

「えーー、、、まじ?」

「どんどん夕飯遅くなって、明日に響くよ?」

「……明日お互い休みじゃねーの?」

「………………休み。」

「………………。」

「……あっちょっ、どこに手、入れて‼️」

「聞こえない。」 

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