五十五、引っ越しの蕎麦
旅行から帰ってきてからの私は毎日が慌ただしかった。急な引っ越しになったので、荷造りや家具などの処分もありてんやわんやだった。同棲するとなると両親にも言わないといけないなと思い、母に電話をすると二つ返事で了承をすぐに得られた。父は少し複雑そうな感じな声だったが、最後は社会人なんだから何にしても自己責任、色々と二人で頑張りなさいとだけ言われた。そして澄の両親はわりと放任主義のようで、特に問題ないと言われたとのことだった。
「……ふぅ、ついに明日か~……。」
私は掃除が終わり床に寝転がりながら天井を眺めた。しかしまさか急に彼と同棲するとは思わなかった。それに彼が他のチームへ移籍し、今の家を離れてもそのまま住んで大丈夫と言われたが、1円も払わないのはさすがに嫌だったので、今まで払ってきた家賃と食費くらいは受け取って貰うことにした。その時の彼の嫌そうな顔は忘れられないが、結婚するわけではないし、頼りっきりなのも嫌だったので自分なりのけじめとしてそうすることにした。私がそのまま伸びをしていると段ボールの上に置いておいたスマホが鳴り始めたので、私はコロコロ転がりなから近付き、そのまま電話にでた。
「もしもし?」
「香奈、蕎麦、何がいいの?」
彼は私が電話にでると唐突にそう言ってきた。
「え、頼んでくれるの?」
「だってさすがに引っ越してきてすぐに料理は大変だろ。」
「えぇ~、優しい~、さすが神山くーん。」
「はいはい、ありがと、で、何がいいの?」
彼はいつも通りのテンションでまた注文を聞いてきた。
「んーー、鴨蕎麦……でも、天ざるもいい……。」
「…………わかった、天ぷら、別に注文すればいい。」
「え、贅沢すぎない⁉️」
「別にこれくらい……それに俺のわがままでこんなバタバタにさせちゃってるんだからいいよ。」
彼は少し申し訳なさそうにそう言ってきたので、私は身体を起こして彼に素直な気持ちを伝えた。
「…………澄に合わせた訳じゃないよ、私も一緒に居たいから行くんだよ?」
「……………………ありがとう。」
「……うん、じゃあ、蕎麦は頼みますよ?」
「うん、じゃあ、また後で。」
「お礼はちゃんとするからね?」
「わかった、わかった。」
私はバイバイと一言伝えると電話を切った。やっぱり私が無理してるって多少は思っているのだろう。確かに決断するのに迷いはあったけど、彼とちょっとでも長く居れるのは嬉しいことだ。そんなに気にしなくていいのになと思いながら、カーテンがなくなった窓から見える青空を見つめた。そんなことを考えていると部屋のインターフォンが鳴り、約束の時間にきた引っ越し業者を部屋に迎え入れた。
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「……以上で、荷物全て終わりました。」
「はい、ありがとうございました。」
私は引っ越し業者さん達にそう言いながら、お礼のペットボトルのお茶を数本渡した。玄関のドアが閉まり、私がリビングに戻ると、引っ越し蕎麦とさっき電話で話した澄がダイニングテーブルで待ってくれていた。
「お待たせしました~。」
「お疲れさまでした。」
私達はお互いにそう言いながら、軽くぺこっと頭を下げた。
「お蕎麦美味しそう‼️」
「だな。」
「じゃあ、いただきます。」
「いただきます。」
私は朝からの肉体労働でお腹がペコペコだったので、ルンルンで箸を取り、お蕎麦をすすった。
「んー‼️美味しい~。」
私はモグモグしながら天ぷらも箸で取り、口にいれようとすると、彼が食べずにこちらを見ているのに途中で気がついた。
「…………え、な、なに?」
「ん?」
「いや、澄も食べなよ。」
「食べるよ。」
「………………じゃあなんで、こっち見てるの?」
「美味しそうに食べるから。」
「……美味しいもん。」
「うん、見てればわかる。」
「………………あの、食べづらいよ……。」
「……ん?あぁ、そっか。」
彼は私の言葉に納得すると再度いただきますと言いながら蕎麦をすすった。
「……なんで、見てきたの?」
「ん?や、ふと、美味しい物食べてる時の反応、やっぱ可愛いなって思って。」
「は⁉️」
まさかの発言に私は天ぷらを食べようとした手を止めて彼を見た。
「な、なに言ってんの⁉️」
「え、普通に感想。」
「…………澄って、何でそんなに淡々と言うのよ。」
「聞いてきたから答えただけなんだけど。」
彼はそう言いながら、天ぷらをむしゃむしゃ食べ始めた。
「普通の人は恥ずかしくて言えないと思うんだけど……。」
「……ふぅん、そうなんだ。」
彼はまた淡々とそう言いながら、蕎麦をすすった。
「…………なんか、食べるの恥ずかしくなってきたよ。」
「なんでだよ。」
「はー、、、人の気も知らないで……。」
私はやれやれと思いながら蕎麦をすすると、彼が箸を置きながらこちらをまた見つめてきた。
「……香奈が可愛いのが悪いだろ。」
「…………っ‼️」
私は思わず蕎麦を噛まないでそのまま丸飲みしてしまった。
「げほ、ちょ、っと⁉️」
「……事実言っただけだけど。」
「…………やめてよ……初日から……心臓に悪い。」
「別にいいじゃん。」
「………………。」
「……言われんのやなの?」
彼はまた蕎麦をすすりながら、私にそう聞いてきた。
「……だから……恥ずかしいんだってば。」
「知ってる。」
「…………いじわる。」
「……それ、逆効果だからな。」
「え?」
「………………誘ってんの?」
「……誘ってないし、バカ。」
「バカって……まぁ、いいや、早く食べて片そう。」
「はぁ、そうだね。」
彼にそう言われて私も止めてた箸を動かし、蕎麦をまたすすり始めた。
家具家電はほとんどなく、ほぼ衣服だけだったので、段ボールが次々に畳まれていった。最後の数個をウォークインクローゼットに運んでいると、彼がまとめた段ボールを抱えてきた。
「俺、これ一回捨ててくるわ。」
「あ、うん、ありがとう。」
私は彼にお礼を言いながら目の前の段ボールを開けた。すると目の前に紺色の袋にピンクのリボンがついたラッピングがでてきた。
「あぁ、そういえばこれ何だろう?」
それはこの間の卒業式の後、美咲に頼まれて付いていったとあるサークルのビンゴ大会の景品だった。お酒が入っていたのもあって、無くすと困るからとりあえずバックに閉まったんだった。引っ越し準備の最中も一旦断捨離できそうな物だけ処分したので、これはそのまま持ってきてしまったのだ。
「……何だろう、なんか柔らかい?」
私はリボンをほどき、中身を取り出した。
「は?」
私はその手に取ったアイテムに身体が固まった。それはまさかのコスプレ衣装だった。また季節はずれなサンタクロースだったのと、あからさまに普通のサンタより布面積少なめなセクシーなコスプレ衣装だった。
「なに、これ、絶対にいらない奴が適当にいれたんでしょ。」
「……それ、着るの?」
私は後ろから声がした瞬間、手に持ったそれを思わず袋で隠した。
「な、なにが⁉️」
「いや、だから、それ、着るの?」
私が振り向くと扉の近くで腕を組ながら、壁に寄りかかって彼が立っていた。
「………………見た?」
「見た。」
「……着ないよ‼️」
「じゃあ、何で持ってんの?」
「これは‼️この間の卒業式の後の打ち上げで、たまたまビンゴ景品だっただけであってっ‼️」
「でもわざわざ持ってきてるじゃん。」
彼はそう言いながらこちらに近付いてきた。
「ち、ちがう‼️今の今まで知らなかったから……っ。」
「ふぅん、見せてくんないの?」
彼はしゃがんで私に、にこりと笑いかけた。
「はい⁉️見せないよ⁉️」
「じゃあ、お礼それがいい。」
「何の⁉️」
「電話でお礼してくれるって言ったじゃん。」
「………………っ‼️」
「お蕎麦、美味しかった?」
「………あ、悪徳業者みたいなこと言わないで‼️」
「見たいもんは見たい。」
そう言うと彼は私の頬をさすってきた。
「私が何着ても何でもいいって言ったの誰⁉️」
「…………何……あぁ、あれか。」
「忘れないんだから‼️」
「何着てても好きだから。」
「…………へ。」
「中身が大事。」
「………………。」
「香奈じゃないと興味ねぇわ。」
彼はそう言いながら、戸惑う私に笑いかけながらキスをした。




