四十八、列車の夜
彼とそんなやりとりをした後に私達は各々のパジャマに着替え、寝台電車に揺られながら、ベッドの上で旅行雑誌を広げて旅行計画について2人で喋っていた。雑誌を真ん中に置いて見るが故に、彼と肩だけが触れ合っているので変に肩に力が入ってしまっていた。私は明日筋肉痛とかになったらやだなと思いながらも、とりあえず旅行についての話題で気を紛らわしたくずっと喋り続けていた。
「あ、あとね、出雲大社行ってみたかったから、楽しみなんだよね!」
「ふぅん……そうなんだ、良かったじゃん。」
「え、あれ?あんま興味ないの……?」
わりとメジャーな場所のはずなんだけどと言いながら私は彼の反応を待っていると、彼はうーんと言いながら返事を考えていた。
「興味ない訳じゃないけど……俺は温泉でゆっくり二人になりたいだけ。それ以外は、あとはそっちに合わせるつもりだったから。」
「っ!…………そ、そう。」
「うん。」
「あ、あー!でも出雲ってぜんざいの発祥?らしいから、食べてみたくない⁉️」
「へー、、、いいね。」
彼は私の提案に興味を持ったのか、雑誌をさらに近くで見ようと近づいてきた。私はさっきの着替えのやりとりもあって、さらに近くなった彼に心臓の鼓動が加速してしまった。なんか今日の彼はいつも以上に発言と行動が攻めの姿勢すぎて、私はずっとドキドキが止まらないでいる。私が意識しすぎてるせいでそう思ってしまうのだろうか。そんな私の気持ちなんて彼は知らず、もくもくと雑誌を見ている。その横顔を私はしばらく、じっと見つめた。付き合う前からモテていたのは知っていたけど、改めて考えてみると益々引く手あまたなこの人とよく付き合えたなと思ってしまう。あの夜に再会して、あの提案を受け入れなかったら、こうはならなかった。そう考えると人生ってどう転ぶか分からない。
「……ん?」
彼は私の長い視線に気付いたのか、雑誌から顔を上げてこちらを見た。私はさらに近づいた顔と目が合ったことで、ドキーンっと心臓が止まりそうになり、思わず固まってしまった。そんな私を見て彼はしばらく何かを考えると私の頬に触れながら聞いてきた。
「…………なに?キス?」
「ぇえっ⁉️」
私はビックリしてまたさっきみたいに叫んでしまい、また慌てて口をおさえた。
「…………そんな驚く?」
「ご、ごめん。」
「なんか今日すげぇ、おどおどしてんじゃん?」
「っあなたのせいなんですけど⁉️」
「……はい?」
「だだだ、だって……なんかさ……。」
「うん。」
「今日……の澄……。」
「うん。」
彼はいたって真面目な顔をして、私の言葉に返事をしながら頷いていた。なんでさっきから私だけこんなおどおどしなくてはいけないのだろうか。私はそう思いながらも話を続けた。
「その……。」
「うん。」
「………………せっ!」
「…………せ?」
「……せ……攻めてる!」
「あ?せめてる?」
彼はポカンとした顔をしながら、私の言葉の意味が分からないようで黙ってこちらを見ていた。
「だ、だって……言葉も行動もストレート過ぎて……。」「……はあ?」
「私……すでに心臓が……もたないんです……。」
私はそう言いながら、彼の視線がいたたまれなくて、彼の肩におでこをつけて目線を外した。
「……そう言いながらも、引っ付いてんのそっちだけど?」
「これは不可抗力!…………いいんです‼️」
「意味わかんねぇ。」
「だって!真っ直ぐこっち見るから‼️」
「……別にそれもいつもと変わらない気がするけど?」
「そんなことっ!?…………。」
私は否定しようととっさに顔を上げたせいで、急に目の前に彼の顔が近づいてしまった。そのせいで私は逆に今度は彼と目線が外せなくなった。
「…………。」
「…………。」
「……くち、あけて。」
「…………っ!」
私は彼のその一言で、初めて深いキスを自分からした日が脳内でフラッシュバックした。
「……あけて。」
「…………っ……!」
彼は真顔で私のつぐんだ唇に自分の親指を咥え込ませてきた。そして優しく力を加え、私の口を開け始めた。
「とぉ……とお……。」
「少し黙って。」
そう言うと彼は私の口の中に自分の舌を浸入させた。私は拒むことはできずそれを受け入れながら、目をつむって、彼の熱を口の中で感じた。あの日から何ヵ月も経った今、彼は前よりも舌使いが上手になってきた。むしろ私のつぼというか好きなポイントを把握しきっているように感じる。
「…ふ…………んん……はぁ……。」
私は逃げたいけど逃げたくない気持ちを隠しながら彼に答え続けた。けどだんだんとそんなことより、どちらかというと彼が欲しくなってきている自分がいた。私は我慢できず、逆に彼の口に自分からさらに口を押し付けた。すると彼はその瞬間、何故か急に離れてしまった。
「…………?」
私は息を整えながら、ボーッとした頭で彼を見つめた。
「…………どっち?」
「…………。」
私は彼の質問のいとが読めずに首をかしげたが、それを見た彼ははぁと溜め息をつきながら口をひらいた。
「…………さっきから……こっちは色々と、我慢してるんだけど……?」
「…………う。」
「…………でも……ダメなんでしょ?」
「……だって……。」
「だって?」
私は自分の気持ちを口にするのが、恥ずかしくて戸惑っていた。しかしちらっと彼を見ると、熱いまなざしを私に送ってきていた。そんな彼の視線を遮りたくて、一回枕に顔を思いっきり沈めた。
「……香奈さん?」
「………………こえ……我慢……できない…………もん。」
「………………。」
「……となりの部屋の人に、聞かれたら……。」
「はぁ~~~。」
すると彼は思いっきり息を吐いた後、私と同じく枕に顔を思いっきり沈め始めた。私はしょうもない理由で呆れたのかなと不安にしていると、枕から少しだけ顔を出してきた。しかしその表情は呆れている顔じゃなかった。どちらかというと、もどかしそうな、困らせているような顔だった。
「…………俺のこと、もてあそんでんの?」
「は!?」
「…………そっちこそ、殺しにかかってんじゃん。」
「ころ?!」
「…………はぁぁ……寝れねぇ~。」
彼はそう言うとまた枕に顔を伏せてしまった。よくよく見ると彼の耳がほんのり少し赤くなっていた。それを見た私は怒られるのを覚悟して、その愛しい人の耳に触れて指先で優しく撫でた。
「赤い……。」
「うるせ、さわんなよっ。」
「ふふ、口悪い。」
「誰のせいだよ。」
「わたし……だね。」
私はそんな彼のことをかまわず、耳を触り続けているとその手を彼が握りしめて止めた。
「…………まじで、そろそろ限界だからやめて。」
「…………。」
私はそっと彼の耳から手を離し、彼の頭に手を置いた。
「…………今度は頭さわんの?」
「澄?」
「なんだよ。」
「…………我慢…………して。」
「分かってるわ、今必死に我慢してっから。」
「……ちがくて。」
「なに?」
「……………………くち、おさえて……がまんする……から…………して?」
「………………。」
私がそう言った瞬間、彼は身体を私のほうにむけて、私の腕を引っ張り、自分の胸元に引き寄せ抱き締めてきた。
「……加減しろよ、さっきから。」
「何の?」
「…………もういいわ、俺が塞ぐ。」
「ふ?…んん!」
彼は言葉のとおり、私の口を自分の口で塞いで、私のパジャマのボタンを一個ずつ外し始めた。




