三十四、彼の勘違い
「ちょっと、香奈ぁ?実家にいるからってダラダラしすぎよ?」
「んー、いいじゃん、年始くらいさぁ~。」
私はこたつの中でゴロゴロとしながら、テレビを見ていた。年末から実家に帰省し、久しぶりの我が家を満喫している真っ最中。インターンシップもバイトも、年末年始は休みになるし、卒論もなんとか形になったので帰ることにしたのだ。来年からは社会人にもなるし、最後のゆっくりできる冬休みだから、ここぞとばかりに外には一切出ていない。彼も帰省するかなと聞いてみたら、彼は正月の特番の撮影や、雑誌インタビューなど相変わらず忙がしいとの連絡がきた。なので一緒に帰省は諦め1人で帰ってきた。
「姉ちゃん、そんな食っちゃ寝してると牛になるよ。」
「うわー、うざー、あんただってずっとぬくぬくしてるじゃん。」
「姉ちゃんと違って、俺は自主的にちゃんと動かしてますぅ~。」
一緒にこたつに入っていた弟の青葉尚は地元でスポーツインストトラクターをしている。我が家は両親も含めてスポーツ大好き人間。弟は野球、空手をずっとやり続け、スポーツトレーナーの専門学校に通い、今やプライベートジムの店長をしている。若いのに立派なことだ。だからかなりの筋肉マッチョマンかつ真っ黒焦げ。ここ数年は職場のボディビル大会もたまに出るらしい。だから澄とは正反対の見た目をしていた。
「ゴツゴツマッチョマン、アイス買ってきて~。」
「なんでだよ、ゴツゴツマッチョマンって……自分で行けよ。」
「もー!!あんた達掃除の邪魔だからどっちも行きな!」
『はぁ~~ぃ。』
私達は母に叱られたので、渋々こたつを出て着替えに向かった。今日は晴天だったのでポカポカして気持ちのいい天気だった。
「うぅ、さみぃ。」
「え、ポカポカして気持ちいいじゃん。」
「筋肉は冷えるんだよ。」
「あぁ、脂肪無いもんね。」
私はそう言いながら彼の身体をぷにぷに触った。筋肉だらけの身体は固かった。
「……なんか前より固い?でかい?」
「おっ、分かる?最近、ダンベルの重さ増えたんだよ!」
「へぇ~、スゴいなガチガチじゃん。」
「そっちもジムやれば?」
「ムリムリ、私ただ鍛えるってどうしても飽きちゃう。」
「それだけタッパあるなら鍛えがいあるのになぁ。」
そう言いながら弟は私の肩に手を回した。剛力といいマッチョは肩に手を回したくなるのが習性なんだろうか。
「ってか、姉ちゃんさぁ、彼氏できたっしょ?」
「え、急に何?!」
「こっち来てからスマホでよく電話してるし、電話してるときの顔が女~って感じ……見せてよ。」
「うぅん……彼がいいなら……ね。」
「なに?厳しいやつなの?」
「や、厳しい……っていうか……バレると色々大変かな。」
「なに?芸能人とか言わないでよ?」
「芸能人……ではない。」
私が濁しながらそこまで言うと、私から離れ立ち止まった。
「……なに?」
「も、もしかして……!」
「……?」
「陽翔君?!」
「やめてよ、バカ!朝比奈な訳ないじゃん!天と地が変わってもない!」
「んだよ、だよな、姉ちゃんより仁美ちゃんのが美女だよな。」
「失礼なやつめ。」
「………………ん?」
話している途中で弟は急に後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「なんか、視線感じた。」
「は?」
「野生のカン?俺の第六感?」
「もはや猿……オラウータン?」
「まぁ、いいや、行こうぜぇ~。」
「うん。」
私達はまたコンビニに向かって歩き始めた。
しばらくまた話しながら歩いていると、家から一番近いコンビニが見えてきた。
「あ、俺立ち読みしていい?」
「何読むの?」
「月刊ボディ」
「……名前ださ。」
私達はそのままコンビニに入り、雑誌コーナーに向かった。
「名前より中身が大事だろ、人も一緒だ、見た目より中身が大事だろ。」
「よく言うわ、彼女めっちゃほんわか可愛い女子じゃん。」
「あかりは中身も可愛いの!」
「ベタ惚れじゃん、まぁいいや私も何か読もう。」
「あ、姉ちゃん見てよ。この人の上腕二頭筋!」
「えぇ……私マッチョは興味ないんだけど……。」
私は仕方なく弟の雑誌を覗き込んだ。隣の男は興奮しながら説明してくれているが、全然意味が分からなかった。雑誌を見ていると私も何やら視線を感じた。そしてふと目の前を見てみると、ぎょっとした光景が広がっていた。彼が澄がこっちを見ながら指差して何かを話していた。ちなみに話してる相手は私ではなく、横にいる慌ててる朝比奈だった。それを何故かクスクス笑っている仁美がさらにいた。
「……な、何してんの……この人達。」
「ん?……あ、陽翔君と仁美ちゃんじゃん……ん?隣のやつ……あぁ!!」
弟は急に叫ぶと急に雑誌を置いて、彼らのほうに走り出した。
「は?……え、ちょっと!」
私はあまりのスピードに置いてけぼりを食らった。急いで私も外に出ると、何故か弟が澄の手をにぎりながらブンブン振っていた。私は慌てて近くに駆け寄った。
「マジで!嬉しい!ヤバーっ!!」
弟は興奮していたが、彼は明らかに困惑していた。
「尚!やめなよ!澄困ってるでしょ!」
「姉ちゃん、神山さんとも友達なの!?やべー!!」
「ちが、友達じゃない……ってか、手を離しなさいよ!」
「あ、興奮して思わず……すみません!!」
弟も私に言われて慌てて手を離した。
「いや、別にそれは……。」
「ごめんね!弟が!」
「………………おとうと?」
「うん、弟の尚。」
彼は一瞬固まった後、朝比奈を睨んでいた。私は何だろうと思いながら見ていると、仁美が話しかけてきた。
「香奈、明けましておめでとう~。」
「明けましておめでとう……いや3人で何やってるの?」
「ハルと初詣行こうとしてて、神山君も昨日から帰ってるって言ってたから香奈も誘って行こうって。」
「……で?」
「そしたらちょうど……ふふ、尚君と出てきて……ふ。」
仁美は何故か急にクスクスしながら話し始めた。
「ふふ……神山君が……あいつ誰だってなって……ハルが高校の先輩だって……あははっ!」
「仁美さん!黙って下さい!!」
珍しく澄が顔を真っ赤にしながら話を遮断した。
「朝比奈さんも!マジで許さない!」
「あはは!悪かったよ、だって信じると思わなくてさ。」
「神山君……可愛いっあはは!」
仁美が口を押さえながら笑うと左の薬指が光っていた。私は思わず仁美の手を掴んだ。
「ひ、仁美……これもしかして!」
「うん!プロポーズされましたぁ!」
私はキャーって叫んで仁美に抱きついた。私はその事でいっぱいになり、彼の事を弟に紹介もせず、興奮しながら仁美と話し続けた。




