三十二、忙がしさの思いやり
師走の12月。日々は一気に過ぎ去っていく。私は内定した会社でインターンシップが始まっていた。私が勤める予定の会社は健康な食事と運動を日々の生活にというテーマの会社で、電機機器の取扱い、ジムの運営、食堂、宅配弁当サービスなど幅広い業種をやっている企業だ。私は今その中の工場見学も兼ねて、宅配弁当の製造工場で働かせてもらっていた。アルバイトやパートの人に混ざりながら、野菜などを切って切って切りまくっていた。
「青葉さーん、休憩入りなー。」
私は工場長に呼ばれて、はぁいと返事をして、周りの方々にペコペコしながら工場を出た。ここで働けて何よりありがたいのは、社員食堂を利用することができること。しかもインターンシップだろうと無料で一食食べれるのが、学生の私には感謝でしかない。私はルンルン気分でメニューを見た。また栄養バランス、カロリーバランスが完璧で嬉しい。いつか彼の食事で作れたらなと思い参考にたまに写真やメモを残してる。
「毎回、悩むー………。」
「まぁた青葉ちゃんは、メニューとにらめっこしてるの?」
私が後ろを振り返ると、食堂のおばちゃんが腕を組みながら笑っていた。
「だってどれも美味しいんですもん!」
「そりゃあ、私が頑張って作ってるからねぇ。」
おばちゃんは腕に力を入れてニカッと笑った。工場の人も、食堂のおばちゃんもみんな優しくて本当に良いところに就職できたなと思った。
「今日はしょうが焼きにしな!」
「えぇ、勝手に決めないで下さいでよ。」
「私がすすめたら間違いないんだから!」
「あはは、じゃあそれでお願いします。」
私は注文をした後食事を受け取り、水をコップに入れて席を探し始めた。周りはまぁまぁ人で席が埋まっていたので、どうしようかなとうろうろしていると遠くで手を振っている人がいた。
「青葉ちゃーん!こっち来なよ~!」
一緒に野菜のカットを担当しているおばちゃんが、隣の席を案内してくれた。
「ありがとうございます。」
「いいのよぉ~。一緒に食べましょう?」
「ぜひぜひ!」
私は座っていただきますと手を合わせ、お味噌汁を冷ましながらすすった。
「ねぇ青葉ちゃんはクリスマスどうするの?」
「……クリスマス、ここにいますかね?」
私はモグモグしながら正直に答えた。あちらはリーグ戦中だから会うのは無理と分かっているので、普通にインターンシップを入れていた。
「青葉ちゃん、彼氏いるって言ってたじゃない?!」
「いますけど……あっちは社会人で繁忙期なので……。」
「えぇえ!?色気無いわ~、おばちゃん、つまんない。」
「あははは、すみません。」
「キュンキュンする話聞きたかったぁ。」
「なに青葉はクリスマスぼっちなの?」
背後から声がしたので振り返ると、同期の澁谷海音がお盆を持ちながら立っていた。
「澁谷君みたいに沢山彼女いないから。」
「おい、語弊がある言い方すんなよっ。」
「キャー!澁谷君はモテモテなのね!」
「ふ、そうなんすよ、惚れちゃダメっすよ?」
澁谷はわざとらしく言ってきた。私はシカトして食べ続けたが、おばちゃんはキャー困ると彼の冗談にしっかりと返していた。
「大体青葉見せてくんねぇじゃん、彼氏の写真。」
「……見せられないって言ってるでしょ。」
「本当はいないんじゃね?!」
「別にそれでいい。」
私はまたスキャンダルに繋がるようなことは避けたいし、それが私からもれて、彼の生活の邪魔になるのは嫌だった。
「……ふぅん、じゃあ、夜に友達と俺らのクリスマスパーティーでもくる?」
「いかない。」
「即答かよっ!」
「それなら卒論すすめる。」
「ノリわる、若さねぇ。」
「もうほっといてよ。」
「へいへい、さーせん。」
そう言いながら、澁谷は手を振って去って行った。
「ねぇ澁谷君って、青葉ちゃん好きとかないの?」
「ないです…あいつ本当に好きな子が、振り向いてくれなくて遊んでる、残念なやつなんです。」
「澁谷君も、青葉ちゃんも、寂しいわねぇ。」
「………………。」
私はモグモグしながら澄の事を考えていた。あちらが忙しいのは分かってたことだけど、今後毎年過ごせないのはちょっとは寂しい。でも足を引っ張りたくない。今年は優勝にかなり近いとこまでいってるから、このまま順調にいけばかなりいい成績がとれる。
「……いっそ一緒に住むとかもありなんだけどな……。」
「え?青葉ちゃん何か言った?」
「何でもないですよ!それよりこの間のお孫さんの話聞きたいです。」
私は何もなかったように話題を変え、食事の時間を楽しんだ。
インターンシップ、卒論、大学の講義、前からやっていたバイト。私は1日があっという間に終わるスケジュールに、曜日感覚が無くなっていた。私は自宅に帰るとベッドに倒れた、色々やらなきゃいけないことはあるが、睡魔が私を襲っていた。
「……澄に……返事、かえ……して……。」
私はスーッと夜の世界に吸い込まれた。
――――――――――――
最近全然連絡が返ってこないと思い、ランニングマシーンでスマホを確認しながら俺は走っていた。忙しいのは聞いてたが、ここまで連絡がとれないのは初めてだ。でも逆の時はこちらがほぼ返さないので、いつもこんな感じに待ってくれてたのかと気付かされた。
「神山おつー!」
朝比奈さんが隣のマシーンをピピと触りながら走り始めた。
「お疲れっす。」
「試合が続くと気が抜けないよなぁ。」
「そっすね。」
「そうだ、俺さー、、。」
「はい。」
「仁美にプロポーズしようと思うんだわ。」
「はい。」
「…………え?!それだけ?!」
「……だって、結婚したいって、言ってたでしょ。」
「だ、としても、もうちょっと反応ほしいな。」
「さーせん。」
俺は今日のノルマが終わったので、マシーンを止めて近くの飲み物とタオルを手に取った。
「いつするんすか?」
「やっぱりクリスマスだろ!」
「あぁ、もうすぐっすね。」
「……なに、神山、その日、青葉と会わねぇの?」
「あっちインターンシップなんすよ。」
「かーっ!君は相変わらず鈍男君ですねぇ。」
「……なにがっすか。」
「わざとに決まってるだろ。」
「…………そう……なんですか?」
「青葉の性格考えろよ……わざと入れたに決まってるよあいつ。」
俺はまた気付いてないのかとショックを受けた。逆に忙しいならしょうがないくらいにしか思ってなかった。
「え、俺、やらかしてます?」
「普通の彼女ならブチギレ案件だけど、青葉だからなぁ……お前が第一優先なんだろ。」
「……はぁ。」
「おやおや?……どうしたの神山君?」
朝比奈さんはわざわざマシーンを止めて近づいてきた。
「あの人……想像越えてくるんすよね。」
「想像……?」
「なんか俺の中で、恋愛って面倒で、煩わしくて、疲れるイメージだったんすけど……。」
「うわ、それ雑誌とかで言うなよ。」
「……自分のことも必死でやりつつ、俺優先して、マジで敵わない……。」
「だからいい女だって言ったろ?」
「………朝比奈さん、よく好きにならないっすね。」
「あの、やめてくれる?……俺プロポーズするって言ってたの聞いてた?俺は仁美が最高に一番いい女なの!」
「じゃあ、一番好きなところは?」
「あの桃尻!」
「……うわ、最悪、聞かなきゃ良かった。」




