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一、偶然の再会

 何故こんなところに来てしまったんだろうか…。私は盛り上がっている周りを横目にチラ見した。どこのペアもお酒の力を借りてなのか、話が弾んでいて楽しそうに会話をしている。

「やっぱ合コンの代わりなんて受けるべきじゃなかった……。」

 私は大学4年の青葉香奈(あおばかな)。私が何故この合コンに参加することになったのかと言うと時間を遡ること4時間前――――。

「かんちゃんっ!お願いっ!どうしても1人足りないの!」

「……やー、ムリムリ。私、合コンってどうも苦手で……。」

 私が断りながら首を横に振ると、同じ学部の池橋美咲(いけはしみさき)がそこを何とかと頭を深く下げなら手を合わせて迫ってきた。

「だって今日くる予定だった子が風邪ひいちゃって……どうしてもピンチヒッターが必要なのよ!」

「…私じゃなくても、他にいるでしょうよ……。」

「これが急すぎていないんだって!一生のお願いっ!大学4年の最高の夏の思い出作りよ!」

「美咲の一生のお願い、何個聞いてるか分からないんだけど……。」

「いや、でも今日は香奈にとっても魅力的なはず!」

「……魅力的……?」

 私が不思議そうな顔をしながら首をかしげていると、美咲が耳かしてと小声で言いながら手を私の耳元に添えた。

「…………え、マジ?」

 私は驚きの内容に美咲に聞き返すと、美咲はマジですと真剣な顔をして頷いた。

「いや、バスケットプロチームと合コンなんて、どうやってこじつけたのよ……。」

仁美(ひとみ)経由……ま、仁美の彼氏経由か……。」

「あー、なるほど。高校から付き合ってるもんね。」

「……だから、いいでしょ?仁美も、その彼もかんちゃん知り合いなんでしょ?彼は今日サポートでいるからさ!」

「まー、私も高校同じでクラスも一緒だったから……そうだけど……。」

 (というか彼女の仁美はよく参加も含めて許したものだ。どれだけ懐が広いんだ。)

「ね!いいでしょ!何とか調整してくれた機会(チャンス)だから!」

 私は言われるがままにじゃあ大学の勉強に繋がるならと、渋々オーケーをしたのだが、合コンの場でそんな質問ができる雰囲気がある訳も無く、ただ角でお酒をゆっくり飲むという現状だ。しかもあっち側は1人遅れてるとかで、結局足りていないので私は居ても居なくても良かったのでは……と思った。

「青葉、久しぶりだな。」

 私がビールを1人でゴクゴク呑んでいると、噂の例の彼が隣に座ってきた。

「……朝比奈(あさひな)、久しぶり。いつも活躍テレビで観てるよ。すっかり有名なアスリートじゃん。」

「っお!マジでー?ありがとーな!青葉はもうやってないのか?」

「サークルでならやってたけど、今は大学の卒論とかで忙しいし……。」

 私がそう返すと、彼はまだいけそうな気がするけどなと笑いながら返してきた。久しぶりに会う彼は高校の時とは全然身体の造りが違っていて、さすがプロだなっていう体格のよさだった。朝比奈陽翔(あさひなはると)は高校の同級生かつ、お互いバスケットボール部に所属してたのもあってわりとクラスの中でも話すほうだった。彼女の仁美は男子バスケのマネージャーで、よくある部活内恋愛で今でも続いてるから素晴らしい。仁美は人柄も良く、女子バスケのメンバーとも交流があった。まさか大学も一緒になって、こうして朝比奈も含めて縁が続くとは思いもよらなかった。

「ってか、青葉が参加するなんて思わなかったわ。」

「まー、成り行きで……ところで最近のアスリートはどんな食事管理をしてるの?」

「どした、急に……。」

「大学の資料に使いたくて……。」

「あー……確か栄養管理士とか目指してるんだっけ?」

「そう。就職先は決まってるんだけど、最近は理学療法士の資格もとろうかなって……まーだから今日プロの話聞けるかと思ったけど……場違いでした。すみません。」

「なるほど、それ目的か。でも先輩達、大分酒はいってるから無理かもな……。」

「だよね~。まぁあわよくばだからいいんだけどさ……。」

「あ、でもあいつなら聞けるかも……。」

「あいつって……?」

 私が誰か聞こうとしていたら、後ろから個室の襖が開く音がした。私は顔を見た瞬間、誰か分かった。だって彼もまた同じ学校の後輩で、朝比奈と同じプロチームの神山澄(かみやまとおる)だ。朝比奈と同じくテレビではいつも観ているが、学生時代には特に関わりもなかったし、どちらかと言うと寡黙なイメージが強い。ただビジュアルが綺麗というのもあってファンも多く、影でよく王子って呼ばれてた記憶がある。ただ学生の時から誰かと付き合ってた噂が無さすぎて、男の子が好きなのではと言われてもいた。

「……遅くなりました。さーせん……。」

 彼は淡々とそう言うと私の目の前に座った。朝比奈は彼の側に行き、首を軽く絞め始めた。

「神山おっせーよ。」

「……いや、だって朝比奈さんが急すぎなんすよ。」

「なんだよー、先輩に口答えすんのかよ!」

「いてて……ギブです……マジ止めてください。」

 そう言いながら、彼は朗らかに微笑んだ。私はそのやり取りを見て、当時の彼から笑顔なんて一度も見たこと無いので内心驚いた。もしかしたら部内では見せてたのかもしれないが、校内、校外問わず黄色い声援が耳に届いてないんじゃないかくらいドライなところしか見たことない。そんなことを考えながら見ていると、急に彼がこっちに目線を送ってきたので私はヤバいと思い咄嗟に会釈した。

「……青葉、先輩でしたっけ?」

 彼は急に私を見ながらそう聞いてきた。

「…え、何で知って……。」

 まさか私の顔と名前を覚えていたなんて信じられず、私は驚きが隠せなかった。

「スリーポイントがいつも綺麗だなって思って…。」

「……っ!」

「……あー、あとゴール下のディフェンスも上手でしたよね……よくファウル取ってましたし……。」

「……あ、ありがとうございます。」

「……あー、どういたしまして?」

 彼は何故私が自分にお礼を言っているのか不思議そうにしながら返答した。正直男子バスケは全国大会常連なくらい強かったが、女子バスケは県ベストとれればいいほうなレベルだった。だから足元にも及ばない私なんかの記憶があるなんて恐れ多い。

「なー、神山さー、最近個人トレーニングとか悩んでるって言ってなかったか?」

 私達のやり取りをガン無視するように朝比奈が全然違う話題をぶっこんできた。

「そうっすね。色々、相談はしてるんですけど……。」

「じゃあ――――。」

「朝比奈さぁ~ん!さっき言ってたお店教えてくださいよ~!」

 朝比奈が何かを言い切る前にさっきまで話してたグループの1人から声をかけられた。すると朝比奈はおーと返事しながら戻って行ってしまった。

 (おいおい……いきなり二人きりにするなよ……。)

私は心の中でそう言いながら、気まずいのをごまかすようにビールをまたグイグイ飲み始めた。そこで相手が何も手をつけてないことに気付き、メニュー表を手渡した。

「ごめん、気が利かなくて……どうぞ。」

「あざす……じゃ、ルイボスティーで。」

「……え、ルイボスティー?」

「駄目っすか。あんま夜にカフェインとりたくないし、俺あんま酒は強くないんで……。」

「へー、やっぱ身体に気を遣ってるんだね……さすが。」

「明日トレーニングの予定があるんで………。」

「それなのに、合コン来たの……?」

「これ合コン何すか?」

「……知らないで来てるんかい。」

「ただの飲み会だと……あと飯食えるならいいかなって。」

 彼は事実を知っても焦る様子もなく淡々としていた。私はこんなご尊顔をお持ちなのに相変わらず恋愛は興味ないんだなと残念な気持ちになった。彼が到着してからすぐ近くの女子が話しかけたくてウズウズしてるのにも気づいてないのだろう。私も私でそれ目的で来てないからさすがに譲るべきなのかなと思い、すくっと席を立った。

「私お手洗い行くからさ、ついでに店員さんにドリンク注文してきてあげるよ。」

「ども。」

 彼は軽いお礼を言うと、食べ物のメニューを見始めた。本当に食事しに来ただけなんだ。そんな彼を横目に私はそのまま個室を出た。廊下の途中で店員さんに会ったので、どちらでもいいようにホットとアイスを頼んでおいた。飲まないほうは私が飲めばいい。化粧室で用事が済み、また先程の部屋に戻ると何故か彼は変わらず1人で部屋の角にいた。さっき話したそうにしてた女子は、盛り上がっていたグループで楽しそうに話していた。

「……何で、1人なの?」

「青葉先輩が居なくなるからじゃないですか?」

「いやいや、そういうことじゃなくて……。」

「……?」

 私は小声で彼に問いかけた。

「あのロングヘアーの子に話しかけられなかったの?」

「あー、話しかけられました。」

「……で?」

「少し話して居なくなりました。」

「…………は?」

「……何すか。」

 私は盛大に大きい溜め息を吐いた。神山って天然なのか、それともどうでも良すぎて分かってないのか。どうにしても世の中の女子達が不憫すぎる。

「イケメンの持ち腐れって言われない……?」

「……言われたことないっすね。」

 (それすらも気づいてない可能性あるな、この人) 

「お待たせしましたー!ルイボスティーのホットとアイスです!」

 さっきの店員さんが個室に入ってくるなり、私達にドリンクを置いて戻って行った。

「……どっちが、俺ですか……?」

「どっちがいいの?」

「…………じゃあ、冷たいのを貰います。」

「身体冷やしたくないならこれに氷入れたら?」

 そう言いながら、私は自分の空のジョッキグラスを彼の前に差し出した。

「……ども。」

 そう言うと、彼は何個か氷をグラスに移動させた。私は彼が飲まないであろうホットを自分のほうに引き寄せた。飲み会の最中にホットなんて、ましてやルイボスティーなんていつぶりだろうか。日頃は熱燗くらいしか飲まないなと思いながらゆっくりと口に運んだ。久しぶりのルイボスティーは落ち着く味がした。

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