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失踪

ある日、妻が失踪した。

事の発端は前日。「ごめん今日飲み会で遅くなる、冷蔵庫に昨日の残り入ってるから、温めて食べてきて」というメッセージが来たため、俺は久しぶりに1人で夜ご飯を食べた。

次の日には大事な会議があったので、ぱぱっとお風呂も済ませて早めに布団に入って寝たのだが──次の日になっても、妻は帰ってこなかった。

急いで電話をかけたが、「おかけになった電話番号は、携帯の──」というメッセージしか流れてこなかった。

俺はいてもたってもいられなくなり、普段着に着替えようと思い思いとどまる。

今日は外せない大事な予定がある。ここで俺が何かをしたところで状況が良くなるとは限らない。

しかしもう会議まで時間が無い。捜索願いは終わったあとにすることにし、身に覚えのない洗面所についている土を流し、俺は家を出た。


捜索願いを無事に出し、なんとか家に帰ってきた。なんとか会議は乗り切れたが、その後は気が気じゃなくてとてもじゃないが仕事に集中できなかった。家に帰っても何もやる気が起きない。食欲もわかない。

もう繋がらないのはわかってるはずなのに、さっきから何度も電話をしてしまう。しかし、もちろん結果は変わらず。俺はスマホをベットに放り投げ、仰向けになりこれからのことを考えようとする、が...

脳に完全にフィルターがかかってしまっていて、何も考えることができない。できることは、ただ家の天井を永遠と眺めているだけ。

しかし不安と絶望で眠気が完全に飛んでしまい、寝ることもできなくなってしまった。

だが明日も会社があるため、今は寝なければいけない。俺はそう思い、布団で目を瞑り──


翌朝。俺は目が覚めると1番でスマホの画面を開いた。もちろん、妻からの着信が入っているかを調べるためだ。しかし俺の願いは叶わず、着信やメッセージは入っていなかった。あるのはどうでもいい広告だけ。俺は深い深いため息をつき、天井を見上げた。その時──

テーブルの上に1枚の紙が置いてあるのが見えた。昨日は何もせず寝たので、そこにあるはずもない。怪訝に思い紙を見てみると...


『あまり余計なことはするなよ』


という、パソコンで印刷したであろう文字がそこには書いてあった。

瞬間、俺は血の気が引いていくのを感じた。比喩ではなく、本当に。

そもそも、鍵はかけていたはずだ。しかもここはマンションの5階。窓から侵入するなど不可能な高さである。

膝の力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。どう考えてもありえないこの状況。そこに前日からの疲労も積み重なり、俺はその場に倒れた。


──何時間くらい、ここにいたのだろう。俺は電話の音で意識が急激に戻るのを感じた。スマホを見ると、会社からの不在着信があった。

そういえば、まだ休みの連絡をしていなかったな...

しかし、今は折り返しの電話をかける余力は残っていなかった。

こうしてその場で寝転ぶこと小1時間。段々と脳が動き始め、思考が回ってきた。

今最も考えるべきはあの手紙のこと。あの手紙の内容を見るに、俺の妻は──


──既に、死んでいる。


この結論を頭の中で出した時、悲しみ、よりも憎しみが勝った。

気づけば台所にある包丁を掴み、それをリュックの中に入れ、部屋着に着替えて家を飛び出していた。

あの手紙はどうやってあそこに置いたのか、そんなことを考える気力も猶予も俺には残されていなかった。

ただ、頭の中にあるのは憎しみだけ。その気持ちだけで無意識に体を動かしていた。

そして街中を走り回ること5時間──

当然、見つかる訳もなく。残ったのは、とんでもなく重い疲労と、どうしようもない絶望感のみ。

そもそも冷静に考えて、犯人に出会えたところで特定できる術がない。しかももう夜になってきてしまい、犯人を見つけるのは不可能になってしまった。

とりあえず今日できることをして、また明日考えよう。

こうして俺は、ホテルにチェックインし、眠りについた。

──明日、必ず死体を見つけてやるという決意をして。


──────


起きると、俺はスコップを持って土を掘っていた。

何かをしようとしても身体が勝手に動いてしまう。

そして何かが当たった感触があり、その上の土を剥ぐと

そこには、妻の死体が──


俺は飛び起きて目が覚める。とんでもない夢を見てしまったせいで手足が震えて、汗も止まらない。脳の酸素が薄くなり、過呼吸になってしまうのを自覚する。

何も考えたくない。何も考えられない。なんとか水分だけでもと思い、立ち上がる。

そしてそこには1枚の紙が置いてあった。また過呼吸になりながらも、その紙をめくる。

そこに書いてある紙を見て、俺は──


自首をした。

逃げたかった。とにかく、逃げたかった。全てから、逃げたかった。

けど、これでもう終わるんだ。全てが、終わるんだ。


翌朝、俺が起きることはなかった。

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