うしおんな
それは昔々のことでした。
不真面目な若い農夫が畑を耕していると、岩陰から一人の女がひょっこりと姿を見せました。女は若く、見たことも無い衣を纏い、派手な装飾と髪をなびかせ、ゆっくりと農夫へと近付いてゆきました。
「おとうさん、何か手伝える事はありますか?」
農夫は異な女に驚きましたが、その美しさから目を逸らす事が出来ず、言葉を失い唯々ジッと見つめるばかりしか出来ませんでした。
「……あ! おとうさんのズボンに毛虫が!」
女は衣をハッと脱ぎ、農夫についた毛虫を払うと、ニコッと笑いかけました。衣の下に現れた、牛柄のそれも実り豊かな桃源郷を眼下に見下ろした農夫は、その妖しさにすっかり心を奪われてしまいました。
「瞬きするのがもったいねぇべ……」
「──くるみちゃん! 何やってんの!? その人男優さんじゃないって! ガチ農家さんだよ!」
「……え?」
サングラスをした髭男が女を止めましたが、既に農夫は意識が桃源郷の土の中でした。
「いっけなーい! 間違えちゃったー♪」
「そう言ってこの間も素人さん五人くらい食べちゃったでしょーが!!」
「……てへ♡」
髭男と女は、そのまま何処かへと去り、残された農夫は畑に横たわったまま動くことが出来ませんでした。
「…………おっかぁ。天国はココにあったべ」
それから若い農夫はすっかり真面目に働く様になりました。