引っ越し先は、ボロ小屋です
この世界において、離婚は許されない事だった。なぜなら、結婚は神様との神聖な契約であり、それを人間が破棄するなど、誰であっても許されざる行為だったのだ。
その世界にあるアネモネ家が統治してる領地は小さかった。領民は1000人に満たず、特産品も無い。あるのは北側にそびえる山から採れる石と、森から採れる木だけである。
そしてアネモネ家の当主コレラは優柔不断だった。
もちろん、本人は自分を優柔不断だとは思ってない。むしろ、なんでも決断できる立派な領主だと思っていた。
その実態は、領民から不平不満の声が聞こえれば、確かにやり始めるが直ぐに中断する。優先順位を決めれば、直ぐに変更する。と言ったもの。
結果、いつまでたっても領民は満足出来なかった。
それでも、なんとか統治してられたのは、アネモネ領の周囲が北の山を除き、全てパキラ領と面していたからだ。
現状、この強大なパキラ領との通商関係を維持していくことが、そのままアネモネ領にとって防衛の要となっていた。
「この一大事にコレラ様はどこにいる。今度ばかりはしっかり決めて貰わねば困るぞ」
一部の領民がアネモネ家に押し寄せていた。
「申し訳ありません。夫は……不在です」
妻のパスは領民に頭を下げながら答える。
「だから、どこにいるのか聞いてる」
「……わかりません」
「は? ふざけてる場合ではない。パキラ家が東西に分断し、互いに戦争する構えなんだぞ。どちらの陣営につくのか決めて貰わねば困るのだ」
そう言われてもパスには答えられなかった。なぜなら、夫のコレラは突然姿を消したのだから。妻であるパスになんの相談もせずに。
「……申し訳ございません」
パスには謝罪することしか出来なかった。
「もしかして逃げたのか。わしらのことを見捨て、自分だけ助かろうと逃げたんじゃないか。だとしたら……許せねーな」
その声に同意するように、集まった領民たちは声をあげる。
「わしらは散々我慢してきた。だが、もう限界だ。アネモネ家に任せられん。悪いがあんたにもこの屋敷を出ていってもらう。これからは、わしらでなんとかする」
「お願いです。私には他に行くあてがありません。どうかこのまま、住まわせてもらえませんか?」
「ふん……それなら外れに家を用意してやる。そこに住めばいい」
「はい。ありがとう御座います」
パスは領民にお礼を言う。
そして領民が用意した家に引っ越した。
そこは領地の中心から離れた不便な場所だった。パスの他に数軒しか家がない寂れたところ。
そして家というか粗末なボロ小屋で、パスは生活することになった。