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確かめたがりの婚約者  作者: なの
1/2

1.



私にはとーっても優しい婚約者がいる。


優しくて、笑うと可愛くて、仕事のときはかっこよくてとにかく素敵な婚約者だ。


でも、だからこそ他の令嬢にも人気で婚約者の私は日々たいへんなのだ。


「エレナ、今度リリエンタール嬢がどうしても一緒に舞台を見に行ってほしいとお願いさせてしまって…

「だめです!行かないでください!私が断りの手紙を書くので行ってはだめですからね!」


「わかったよ。どうも強く言えなくてすまない。」


本当に本当に私の婚約者のカイン様は優しいのだ。

優しすぎてそこが私にとっては難点なのだ。



こんなやりとりは婚約してから何回もあった。

婚約してすぐの頃なんて今より頻度が多くて、毎回私が断りの手紙を書くものだからカイン様は婚約者に縛られてるなんて噂を流される程だった。


まあ私が毎回断りの手紙を書いているから周りの令嬢たちもカイン様にちょっかいを出しずらくなっているおかげで最近は頻度が減ってきた。


それでも私がご一緒できなかった夜会などで誘ってくる令嬢はまだいる。

束縛婚約者から優しいカイン様を救わなきゃみたいなことを言い出す令嬢もいるらしい。


「エレナありがとう。」


こうやってカイン様がふにゃとした甘い顔でお礼を言ってくださるだけで私は何度だって断りの手紙を書けるわと思う。



それでも少しカイン様はもしかして本当は私と婚約破棄したいんじゃないかとか頭をよぎる時がある。


だって婚約したいとカイン様に何度も言い寄ったのは私だったし、今回だって令嬢からの誘いを私にやんわりと見せて私が飽きてくれるのを待っているのかななんて弱気になるときもある。


でもカイン様が私に優しく接してくださるとカイン様を解放してあげようなんて思えなくなってしまうのだ。


こうして私が断りの手紙を書き続けるだけでゆくゆくはカイン様と結婚できるなら何枚でも書くつもりだった。




◇◇◇



でもある日


「実はクラベェル嬢から美術館に行こうと何度も言われていて………一度行ってきてもいいだろうか?」


いつもなら間髪入れずだめと言うのだが今日は言えなかった。カイン様が言う前に少し笑って見えたのだ。


私の勘違いかもしれない。


でもクラベェル嬢というのは公爵家のご令嬢ですごく華やかな人だ。

カイン様だってこんな栗毛の私なんかより公爵令嬢のほうが婚約者にするなら嬉しいに決まっている。


こんな格下の私よりカイン様に似合うご令嬢が好意を示しているのだ。カイン様を縛り付けるのも今日で終わろう。


今まで隣にいられるだけで幸せだったのにやっぱり人は欲張りになってしまうものなんだななんて感傷に浸ってしまう。


「あの方ならカイン様にすごくお似合いかと思います。カイン様どうか幸せになってください。」


最後は笑顔で言いたかったのだが涙が出そうでカイン様の言葉を無視して私は家に帰った。




本当はずっと苦しかった。


優しいカイン様がどんどん優しくなる度に我慢させているようでつらかった。


きっとカイン様も我慢するのが癖になってしまっていてつらかっただろうな。



私はこの日自室のベッドで泣き疲れるまで泣いた。


「はあ、お父様に婚約破棄の手続きをしてもらわなくては。」


部屋が暗くなってきたがなんだか色々とめんどくさくなってしまい、そのまま部屋を出た。


するといつもはふわふわの可愛い笑顔をふりまいているカイン様がなぜか血相を変えて私の屋敷にいる。


なんでいるのと狼狽えていると、カイン様が私を見つけてこちらに走ってくる。


慌てて自分の部屋に入ったが扉を閉めようとした時、強い力で扉を開けられカイン様が部屋に入ってきた。


「なんでここに……。」


後退りする私を逃がさまいとカイン様が抱き寄せる。


「なんで、なんでいつもみたいにだめって言ってくれないの?


もう俺に飽きちゃったの?


こんな気を引くようなことばかりするから嫌になった?」


頭が追いつかなくて一旦整理しようと距離をとろうとするがカイン様が更に力を強めてくるから全然冷静になれない。


「逃げちゃだめ。


俺がクラベェル嬢のところに行っても本当にいいの?


ねぇ、


………いつもみたいに引き止めてよ。」



カイン様が本当に私のことを好きなんじゃないかと思えてきてまた涙がとまらなくなる。


それでもやっぱりカイン様が大好きだからどこにも行ってほしくなくて背中に手をまわす。


「うぅ、行っちゃやだ。」


泣きながら本音をはくと、また一層カイン様は抱きしめる力を強めてきて


「俺のこと一生繋ぎとめててよ。好きだって、どこにも行かないでって何回も言って。」


「はい。カイン様は私のです。」


そう言うとカイン様は私に息ができなくなるくらいキスをしてきた。

今まで触れるだけのキスしかしたことがなかった私はカイン様につかまるだけで精一杯だったが心から幸せだと思った。




◇◇◇


「もうカイン様ったらいつも私を試していたんですか?」


「ごめんね。だって毎回だめって言ってくれるエレナが可愛くてどんな言葉よりも愛されてるなって実感できるんだもん。」


だもんとか言っちゃう辺り可愛い過ぎるがなんてずるい男なんだ。


「私だってカイン様に愛されてるって実感したかったんですよ?」


「ふふ大好きぃ。」


これで許されると思ったら大正解だよ。

可愛すぎて許しちゃうに決まってるよ。


はあ、私ってもしかしてカイン様に甘いのかしら。



[完]

次ページはカイン視点になります。

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