第九話【保護者代理】
保護者なんて、簡単なものだと思っていた。
でも、やって分った。
嗚呼……拝啓、空の上で御過ごしのパパとママ。今迄、迷惑掛けてばかりですみません。そして、有難う。親って、凄く大変なんですね――空を仰ぎ見て、エンジュは誰にも聞えない位小さな声で溜息を一つ洩らした。
――三日前。
此の家に住む双子の親族だと名乗る男と一悶着が起き、其の時、ディークは咄嗟に双子の保護者代理人だと発言した。
丁度其の時其の場に居合わせてなかったエンジュは、知らぬ間に自分も保護者代理人にされ腹を立てたが、双子を見てしょうがないかと腹を括り、其の時は――保護者代理をやってやろうじゃない。そう意気込んでた。
あくまでも、其の時までは、だ。
だが、実際やってみると大変というヤツで、ウサギの方はそんな手は掛らないから好いのだが、アリスは全くといって好い程自由奔放で、何というか一言で片付ければ“手が付けられない子供”だった。
「……ハァー…」
子育ての苦労はやってみなきゃ何とでも言える。誰かがそう言ってたなぁ…、誰だっけ?と、そんな事を考えながらボーっと空を見ていると、悲鳴が聞えてきた。
またか。そう思いながら重い腰を上げ、声がした方へと向って走る。
案の定、此方に背中を向け、膝を折って女の子座りして俯いてるアリスと、其の横にしゃがんで、彼女を宥めるウサギの光景を視界に捉え、スピードを上げ其方へと急いで向う。
「…ハァ…ハァ……ど…、如何した、の?」
走ったせいで少し息切れ気味に問い掛けると、「自業自得ってヤツですよ」と、質問に合った答えになってる様ななってない様な返答を少年がした。
「自業自得?何が?」
「煩いっ!アンタには関係ないれ゛しょ!!其れからウ゛サギ!そもそもアンタが悪いんじゃら゛ない!!」
今度は少女が答える。いや、罵声を浴びせてきたといった方が正しいだろうか。兎に角、どちらの言い分も相手が悪いといっていて、話は平行のまま。エンジュは如何すれば好いか頭を悩ませた。
「……えーっとぉ…、何が、喧嘩の原因なの?」
「アリスが、僕の本を勝手に読んだ挙句、御菓子を食べながら読んでいたみたいで汚したんです!」
「大体御菓子食べながら読んだって好いじゃない!其れの何処が悪いわけ?!」
「そんな事言ってんじゃない!!……………ハァ……もう…、好いや。何か、めんどくさくなった…」
「ちょっ、何よ!私の何処がめんどくさいって!?あぁんコラァ!?」
「…………一応解決した、んだよね?」
結局、どんな原因であれ、此の二人は自分達で問題を解決する。多少、周りを巻込む様ではあるが。多分其れが、両親が居なくなってから、二人が培ってきた暗黙ルールであり、最善の解決策なのだろう。
エンジュは二人を交互に見遣り、少し胸が痛くなるのを感じた。
☆★☆
「やっと…、寝た」
「御疲れさん」
「!……でぃっ!?ディーク――んっ」
「(馬鹿、起きる)」
耳元でそう囁かれ、体中が熱くなるのをエンジュは感じた。口元を男の骨張った掌で覆われ、上手く酸素が吸えない。抱締められてる――とまでは言えないが、二人の体は密着していた。
つい先程、やっと寝付いてくれた双子を視界に入れ、心臓を落着かせようと試みるが、背中に感じる男の体温が、耳に触れる男の息遣いが厭でも意識して、落着く処か更に暴れ出す。
「(ど……何処行ってたの?二人の面倒押付けて…っ!)」
「(おいおい押付けって…、そんな事二人が聞いたら泣くぞ)」
「(……っ、御免なさい…)」
「や、俺に謝られても……まぁ、好い。ほら」
ディークはエンジュの隣に腰を下ろすと、手を前に突出し、紙袋を渡してきた。エンジュはソレを受取る。見た目とは違い、ズッシリとした重さに顔を引き攣らせ、思わず其の袋を乱暴に畳の上に置いた。
――ヤバい!起きるッ!!
二人はバッと双子の方を見る。少年と少女は、規則正しい呼吸を繰返していた。起きてない。そう確認した二人は、ハァ…と、安堵の溜息を洩らした。
「(……何、コレ?)」
「(開ければ分る)」
再び視線をディークに向け、考えた末、思い切って袋の中を見る。中に入っていた物を見て、エンジュは目を見開いた。
「……如何したの…、コレ…?」
中身は本――育児本だった。其れと、小学生向けの本が数冊。
ディークの方へ視線を戻すと、彼は双子の枕元まで歩み寄り腰を下ろすと胡坐を掻いた。二人を見詰る彼の横顔はとても優しく、まるで本当の父親の様だった。
後書き
もう、グダグダですね、うん…
ってか展開早くね?そんな気がしてなりません(>_<)((うん。実際早いよ
育児本……どんな雑誌とか本にすれば好いのか分らず、取敢えず一括りにしときました((曖昧だなぁオイ
ディークが何処に行ってたのかとか、どうやって本を入手したかは皆様の御想像にお任せします((きたアァァァ!!一番、やってはいけない逃げ方!!
初出【2012年8月2日】