第七話【七年後の再会】
「おーい、戸締りは確りやっとけって、オジサン何度も言ったよなぁー?…まぁ、好いけど。おじゃましやーすぅ」
通してもいないのに、勝手にズカズカと家の中に入ってきた訪問者が誰なのか見当がついているのだろう。ウサギは顔を歪め、ハァ…、と溜息を吐いた。
「……さっきの嬢サンが言い掛けてた事か?」
「!」
「図星、か」
男は背中に背負ってる女を器用に降ろすと、畳の上にそっと寝転がす。起さない様に。そんな彼の配慮に、此の人顔は恐いけど実はとても良い奴なのかも、と思った。時折垣間見る、女を見る男の眼差しは、長く連添った奥さんに対するソレ。
男はウサギの視線に気付いたのか、バツの悪そうな顔になり、パッと顔を逸らし咳払いを一つすると、言った。
「……まぁ…、其の、礼と言っちゃあなんだが、…俺は何をすれば好い?」
「……は?」
男の意図が読めず、ウサギは首を傾げる。
「あの図々しい奴を家から追い出したいんだろ?……協力する」
「え……」
一瞬、ほんの一瞬。男の瞳がキラッと光った。其れは昔、物心がついたばかりの時、父が見せたあの瞳だった。
あれ?と思って、手の甲で目をゴシゴシと擦ると、ピントが合ってるのを確認して、男を見据えた。やっぱり、父なんかじゃない。そう改めて確認すると、ガックリと肩を落とす。
「……オイ」
「すみません……なんか、その…」
―――ガシャアァァァァン!
『!?』
「……あ…アリスッ!!?」
考えるよりも早く、ウサギは居間を飛出し、物音がした方へと向った。男の呼止める声を右から左へ受流す感じで聞きながら、思考は、嫌な予感が当ってない事を祈る想いで埋め尽くされていた。
――だが、彼の想いも空しく、予感は当っていた。
視界に映るのは、見覚えのある様な無い様な大きな背中。其の背中の持ち主の御尻の下から覗く、よく知った幼い足。
ウサギは、全身のありとあらゆる血が、脳へと向って逆流していくのを感じた。
「何してるんですか、…オジサン」
“オジサン”と呼ばれた男は肩をビクッと揺らし、ゆっくり此方に振返った。彼はウサギ達の叔父にあたり、現在独身である。其の男の下敷きになってる少女に目を移すと、ウサギの米神に青筋が浮かび上がった。
「……何してるんですか、エロジジイ」
「おいおいウサギ君。エロジジイは酷いんじゃない?オジサン、御前等ガキ二人が心配で、態々遠い処から来たのにさァ」
「頼んだ覚えなんてありません。サッサと出てってください。警察呼びますよ」
だが、男は出ていく処か再びアリスの方に目を向けると、少女の服に手を掛け始めた。嫌ッ!!と、アリスの悲鳴が部屋の中に嫌に響く。
「テメェ…っ!」
何かがプツリと切れるとともに、ウサギは男に飛掛かった。
――いや、飛掛かろうとした瞬間だった。体を構え、顔を上げた時には標的であるオヤジは前へと吹っ飛び、背中から壁に叩き付けられる。そんな光景が映った。
自分の後方から伸びた脚。其れを目で追い、誰のモノなのか確認する。
「……アンタ…」
「おいオッサン。心配しなくても、此処に住んでんのは此奴等だけじゃねぇ。俺、ディーク様も住んでんだわ。保護者代理としてな」
そう言うと、ディークと名乗った男は、壁に叩き付けられたせいで気を失ってるオヤジの襟首を掴むと、彼をズルズルと引き摺りながら物置部屋を後にした。
残された少年と少女は、ディーク達の姿が消えた方向に目を向けた侭、暫く放心状態だった。
「……何アレ?」
「さぁ?…でもまぁ、僕は、こーゆう展開を望んでたのかも」
「は?」
「あー…何でもない。まぁ、気にしないでよ」
「アンタ、頭でも打った?」
「……………」
上体を起したアリスを一瞥し、ウサギは盛大に溜息を吐くと、いやぁ楽しみだね、と問い掛けてるのか其れとも独り言なのかどちらとも取れる声音で、此れから起きるであろう出来事を思い浮べ、ククッと子供らしからぬ笑い声を上げた。
「……アンタ、ほんと大丈夫?病院行った方がよくない?」
「………ハァ…」
アリスの心配そうな顔を視界に捉え、ウサギはもう一度溜息を吐いた。
其の後、少女の怒号が飛んだのは言うまでもない。
後書き
何とか話が進めれた気がします。。あれ?しない?うん、しないかも…((え?
そして、やっと「男」から「ディーク」という名前が出てきました。。いやぁー長かったぁ
第三話で既に名前が出てる「女」なのですが、視点がウサギ&アリスなので、何と無く出せない…((いや、そろそろ出そうぜ。だってややこしいもの
次回こそは……では、また(^o^)丿
初出【2012年6月16日】