第三話【七年後の再会】
『――エンジュちゃんの事好き!大好きだよ!!』
嘘吐き。嘘吐き嘘吐き嘘吐き…。
如何して私の大切な物を奪ったの?
嫌な夢を見て、目が覚めた。目頭が、熱い。何で、あの時の夢を見てしまったのだろう?
七年前の悪夢。人々の悲鳴。何人、何十人の犠牲が出た。身内として慕ってたセバスチャンや執事やメイドの命が簡単に消え、未だに蘇える憎しみという感情。
「駄目…。そんな気持ち抱えたって、何も解決しないわ!!」
自分に言聞かせて、体の上体を起す。起きないと、パパ達に「次期女王になるのに示しがつかない」とまたどやされる。眠たい目を擦り、欠伸を噛み殺すとベッドから下りた。
「エンジュ様、お早う御座います。…あの、どちらへ」
「墓参りしてきます。パパ達には内緒にしてくれませんか」
「あぁ…はい、分りました」
「有難う、テン君」
羊みたいにふわふわなくせ毛の金色のショートヘアーをした少女は切なげな表情で笑い、軽く御辞儀すると目的の場所へと向って走出した。小さくなっていく其の背中を暫く見詰め、少年は「もう、七年かぁ…」と呟いた。
雲一つない澄んだ空。旧教会の前を通り掛った時、自然と足が止った。七年前の傷痕が今も痛々しく残ってる。其の中に居た人一人残らずが、ヘブンゾーンへと導かれた。
「…っ」
見るのが辛くなって目を伏せる。止まっていた足を再び動かし、霊園へと急いだ。
ヘブンゾーンへは何度か出向いた事がある。セバスチャン達に会わせてもらう為に。
だけど、サークスさんとかいう此の国を管理するお偉いさんが、「其れだと幽体となった人物が現世にずっと留まる恐れがあるから禁止」だと言って、私の申し出をあっさり断った。
確かにそうかも知れない。会わない方が、セバスチャン達には良い事なんだ。分ってる。頭では分ってるのに感情は真逆で、会いたい会いたい会いたいと願ってしまい、何度も出向いてしまっては、丁重に帰されるの繰り返し。
「セバスチャン…、皆」
生温かい風が肌に触れる。もうすぐ春が来るのだと知らせているかの様に。
エンジュは、〈セバスチャン〉と刻まれた墓石に触れる。涙が出そうになるのをグッと堪え、唇をギュッと噛む。口内に鉄の味が広がった。血が出るまで噛んでいたらしい。
「……御免、なさい…。私のせいで…私が……」
ふと、気配を感じた。肩越しに振返る。漆黒のロングヘアをした少年と目が合った。其の時、何故か懐かしい感じがした。先に我に返った少年は背を向け走出す。一瞬だけ、少年の背中に黒い羽根が服の下から覗き見えた。
「ま…待ちなさいッ!!」
頭より先に体が動いた。確信はなかったが、多分少年は悪魔であると思った。
エンジェル界での次期王女となる者として、境界線を破って此の国に勝手に侵入してきた悪魔を捕らえる為、追掛ける。暫くの鬼ごっこが続いた。
「…っ」
少年の足が止った。其れをチャンスと思ったエンジュは、彼を思いっ切り抱すくめた。其の直後、ミシミシと何かが崩れ出す音が聞えたかと思うと、体が宙に浮く感覚がした。嫌な予感がして、ゆっくり下を向く。
足元には青空に浮かぶ真白な雲が一つ。でも其れは、自分が知る様な人工的なものじゃなくて自然に出来た様なもので。少年が溜息を吐いた声が聞えた。
「嫌あぁぁァァァァ!!?」
「………ッ!」
二人は雲を突き破ってどんどん落ちていった。
後書き
何とか本題へと進めた気がします((え?じゃあ、一話と二話はプロローグだったの!?
私の中でエンジュは、私がもっとも苦労するタイプのキャラを目指してます!
素直で誠実で女の子らしさ満載っていう設定。。。描けるかなぁ?うん。多分、描けるよね!
初出【2012年3月19日】