第5章 脱出編 その7 レクア防衛隊、総進撃! 後編
第5章 脱出編 その7 レクア防衛隊、総進撃! 後編
すしぃぃん……ずしぃぃん……。
重く響く足音ともに現れたのは、僕が呼んだゴーレム群だ。資源調査で見つけた砂漠の遺跡に残っていたんだ。以来何かと重宝しているけど戦闘に呼出すのは初めてだったりする。
「みなさん、援軍が来ました。だからあともう踏ん張りです!」
巨大なシャベルやハンマーを持った、10mほどの大きさの巨人は土木作業用ロックゴーレムだ。その後に続くのはクワとかカマとか持つ2mほどの農作業用ストーンゴーレム。どちらも10体ほどで、僕の魔力で契約・再起動した。
まあ、用途を決めて道具をつくったのも僕だけど。しまった。戦闘を考えてなかったから、持たせた道具はオリハルコンじゃなくて普通にファインセラミック製だ……ま、いいか。鋳鉄より固いし錆びないし、千切れて墜ちた分体相手なら充分だろ。ゴーレム、丈夫だし。
「これ援軍~?」
「思ってたのと違う~」
なんて声もあったけど概ね士気が上がった。
「シャルネさん、ゴーレムは地上に墜ちた分体の相手にまわします。いいですか?」
「はい、モーリ様。ありがとうございます」
しかしシャルネさんに笑顔はない。白いヒモに覆われたレクアの空を見上げるシャルネさん……腕を組んでるなんて珍しい。
「……モーリ様。いち早くエルダ様、エマ様を救出したいのですが」
「はい!」
「……ただ有効な手段が見当たりません」
シャルネさんと僕の魔法知覚で彼女らが捕まってる場所がわかる。だけど距離が遠い。かつ魔術は全て魔力として吸収されてしまう。人族の防衛隊は今も断続的に攻撃を続けているが、大型兵器では命中精度に不安がある。彼女らを直撃しない程度に周辺を狙撃するのは難しい。タングステン弾の直撃をくらってもエルダなら平気かもしれないけど、エマあたりにエ~ンエ~ンって泣かれるとたとえウソ泣きでも気が滅入る。
どうしよう?なにか手がかりを探して辺りを見渡して……ゴーレムと目が合った。
「ロックゴーレムでピラミッドをつくります。そして僕が直接エルダとエスリーを切り離します!」
人間と違って怖がって失敗しないとかないし、いい考えだって思うんだけど。
「モーリ様!絶対におやめください!」
って叱られた。なんで?10体のゴーレムでもうまく組めば届きそうなんだけど?魔法も使わないからサナダグンを刺激しないし?
「モーリ様のご提案に反対してるのではありません!そのような危険な任務は、わたくしにお任せください!」
作戦じゃなくて実行が僕じゃ失敗しそうってことか。それは仕方ないんだけど。
「ダメですよ。シャルネさんは司令として防戦の指揮をしなくちゃ」
なぜかシャルネさんが気絶しそうになってる?なんだろう?
「魔王様~バカですか~魔王と司令のどっちが重職かわかってます~?」
「モーリの野郎、相変わらずの大バカだぜ!」
「死ね」
「昔から自覚なしの死にたがりだよね~」
挙げ句にリュイシアさんだけじゃなく、遠くのジナさん、シアラさん、クラシアさんにまで罵られた。彼女らは小さくなったサナダグンの分体群と防戦中なのに余裕あるなあ。まあ、ストーンゴーレムを援軍に向かわせたから、そのせいかもしれないけど。
「いやいや、僕は死にたがりなんかじゃありませんよ」
バカなのは仕方ないけど、せっかくここに転生したんだから、ちゃんと生きるって天使さんに約束したし。
「あ~あ~シャルネ司令~。魔王様は全然わかってないって顔ですね~」
「リュイシア、魔導師のあなたには不本意の任務でしょうけれど……モーリ様を拘束しなさい」
「え?なんで?」
「あ~あ。魔導師に、しかも隊長をさしおいて副官に命令ですか~ま~仕方ないですね~」
「責任はわたくしがとります!」
英士隊副官のリュイシアさんは隊長ジナさん直轄で、正式には司令の命令系統からは外れる。つまりシャルネさんに命令権はないんだって。
「組織って面倒ですね。そもそもこのロープ、どこから出したんです?」
「魔王様~魔導師のローブの下には~いろいろなものが隠れてるのです~」
任務云々はさておいて、リュイシアさんは熟練の手練で僕を縛り上げた。要領よすぎ。
「……モーリ様はこのままゴーレムにピラミッドを組むようご指示ください」
「それはいいんですけど。でも司令のシャルネさんが昇るのは賛成しません」
「魔王様の仰せも正論ですけど~ただ実行者としての能力なら一番適任かと~」
「それはそうでしょうけど……」
実際のところ、人族は論外。そして魔族の中でも身体能力、判断力、戦闘力、責任感。この5年間レクアにいた僕だけど、どれをとってもシャルネさん以上の適材を知らない。
前世でも今時は危険で禁止になった人間ピラミッドを、大型のロックゴーレムで組む。城壁を支えている地面は安定してるし、重量があるのは必ずしも悪くない。慎重に組み上げる。
土台の4体。その上に3体。四つん這いになったゴーレムたちの上にさらに2体。そして最後の1体は立たせたままで、なんとかサナダグンに届きそうだ。
そこで援護射撃をいったん止める。
「モーリ様、ご安心ください。国妖精様、街妖精様は不肖、このシャルネが必ずお救いしてみせます!」
均整のとれた肢体に背中の翼が、お尻の上の尻尾が似合う。シャルネさんは凜々しくも張り切ってロックゴーレムの上に昇っていった。腰に下げられた青い鞘の長剣が光ってる。
「気をつけてください、シャルネさん!」
彼女は一度だけ振り返り、そして再び昇っていった。ロッククライングよりは昇りやすそうではあるけれど、頭上にはゴールではなく敵が、怪獣が待っている。
「魔王様~そんなに心配しなくても、シャルネ司令なら大丈夫ですよ~」
少なくても、僕なんかが昇るよりは確率が高いのはわかってる。わかってるけど、心配は心配だ。
「そんなに心配なさるんなら、少しはあたしらが魔王様を心配する気持ちも察してください~」
「……いつもごめんなさい」
「いつもって自覚はあったんですね~」
言い方は軽いけど、けっこうマジで溜まってるヤツみたいだった。
その間にも、ジナさんたちは地上に墜ちた敵の分体と戦ってる。魔族得意の魔術は使えない相手なのでジナさんも慎重だ。
「あそこにはせっかく品種改良した大麦を植えたばかりなのに……」
10センチほどにも育った麦たちの上を、一反木綿みたいな群れが踊ってる。緑の麦がみるみる枯れて、しかも踏まれて。
うまく収穫できたら、大麦でパンを焼いて、それを使ってビールをつくるつもりだったのに!僕の怒りは頂点だ!まだ縛られたままだけど。
「ストーンゴーレムたちは敵の分体を攻撃!……ジナさん!うまく連携してください!」
「へっ!仕方ねえ。低脳ゴーレムじゃ、壁役がせいぜいだからな!任せやがれ!」
言葉の通りジナさんたちは、ゴーレムを壁に見立て、自分たちは連弩での中距離攻撃、ジナさん自身は腕の立つ精鋭を率いて分体群の側背に回り込み、ゴーレムへ追い込んでいった。さっきから魔導師としての出番がない副官リュイシアさんが僕に解説してくれる。
「魔王様~これは包囲・殲滅戦ですよ。ジナ隊長もなかなかでしょう?」
腕利き隊員たちがオリハルコンの剣で一反木綿を切り裂いていく。と言っても簡単に死ぬ相手じゃない。しかし、反対方向から弩矢が飛び、或いはストーンゴーレムの農具が振るわれる。この時点でさすがにタフな分体もだいたい生命力が消えて消滅。残った分体はかなり小さく無害になり、英士が掃討していく流れができてる。
こっちはもうジナさんたちに任せていいだろう。
僕はロックゴーレムピラミッドを見上げる。その頂上に立つずんぐりした1体の頭上にまたがるシャルネさんを。手には黄金色の長剣が握られてる。
「届くかな?落ちたりしないよね?」
一度は光壁を吸収しレクア全体を包み込みそうなサナダグンだったけど、局所的に猛攻撃を受けて今は動きが止まってる。逆に言えば、向こうから近づかなくなったから、こっちから昇らなきゃあそこに捕まってるエルダとエマを助けられない。
「魔王様~大丈夫ですよ~もう司令に任せるしかありませんよ~」
リュイシアさんは、まるで子どもに言い聞かせるように言う。実際見かけによらない年長者だから、いいんだけど。
長大な白い紐状生物。仮にも江○区くらいはあるレクアを包み込むんだからどれだけ長いのやら。そんな怪獣のすぐそばにいるシャルネさん。今は防具すら身につけてない。
「大丈夫かな」
「だから~大丈夫ですよ~あんまり司令の心配ばかりしてると、ジナ隊長が気にしますから~指揮に影響します~」
「……なんで?尊敬する司令の身が危険だからって?」
「ま~そ~ゆ~のもあるかもしれませんけど~。あ~あ。隊長も不憫です~」
ハテナしかないな。名実ともに十代の魔族っ子ならともかく、見かけは二十代、中身は聞いちゃいけない大ベテランのリュイシアさんがこういう不明瞭な言い方するなんて。
「うるせえぞ、リュイシア!俺は余計な心配なんてしてねえ!」
うわ、絶賛殲滅戦中のジナさんが聞いてる?どんな聴覚してるんだ?とはいえ大麦畑の戦場は、「もはや掃討戦に移行してるようです~」だって。ああ、もう激戦じゃなくなったんだ?軍事用語は難しいね。でもいい加減、このロープ、ほどいて欲しい。
ロックゴーレムの頭の上に立ったシャルネさんが黄金色のオリハルコンソードを閃かせた!それでエルダとエマが落ちてきた。まだ白いヒモが残ってるけど、それもシャルネさんがきれいに切り剥がしていった。ああいう作業、確かに僕じゃできなかったな。
降りてきたシャルネさんは、まずエルダ、続いてエマをゴーレムから受け取った。二人とも意識がない。グッタリしてる。魔力を相当吸われたんだろう。存在が危険なレベルなのか?
「リュイシアさん!」
「はいはい。お解きしますよ~」
むずび目になにかのコツでもあったのか、僕を縛ってたロープは一瞬でほどけた。
「シャルネさん!お疲れ様です!ありがとうございした!おけがは?」
「いいえ、わたくしのことよりも」
「はい!」
シャルネさんは元気そうだし、僕はお言葉に甘えてエルダとエマを抱きかかえる。
「エルダ!エマ!大丈夫!?……目を覚まして!」
目は閉じられたままだ。長いまつげの、こうしていればよく似た二人。だけどエルダは言葉少なめのクール系で、そのくせいったん打ち解けるとさりげなく近寄ってきて。エマはまあ、だいたいウザいけど、誰にでも好かれるくせに自分が好かれたい相手にうざがられるって泣き虫で。どちらも今では僕の家族。年の離れたかわいい妹枠だ。白に限りなく近い淡い水色のショートカットと、リボンに埋もれた金髪ツインテをじっと見る。体温は暖かいし、生きてる。それを実感して泣きそうだ。
「……早く魔力を送らないといけないけど」
ふと見上げる白い空。あちこち穴が開いてる。
「そうですね~今は均衡状態ですけど~ここで魔王様が魔力を使ったら~状況が一気に動きます~」
今のままでも僕の体内で生成される生体魔力が余って体外に放出されて、僕に抱きかかえられてる二人はそれを接触面から吸収してる。しかし家妖精なら充分な量でも二人は国妖精と街妖精。それでは全然足りない。今のままでは魔力不足が深刻で……。
「モーリ様、いけません!モーリ様の魔力もそのお体も、魔物にとっては絶好の獲物と聞いております!今、ここでモーリ様が魔力をお使いになれば……」
「魔王様~しばしのご辛抱を~対策もないままこれ以上アイツの接近を許すわけには~」
……シャルネさんとリュイシアさんが僕の魔力供給を止めたがるのはわかるけど、でもこのまま二人が目ざめかなったら?魔力不足が続いて深刻な影響が出たら?
「いいじゃねえか!さっさと起こせよ!」
「ジナ!」
「隊長~そんな無責任な~」
掃討戦とやらも一段落したのか、ジナさんが城壁にやってきてた。副隊長のシアラさん、クラシアさんはいないから指揮を任せて来たんだろうか?
「ジナさん?」
ジナさんは、なぜか怒った顔で、僕を、エルダをエマをにらんでる。けっこう近い。
「……気に入らねえけど、お前にとっちゃ二人とも大事なんだろ?」
「まあ、家族みたいなものですから」
5年前に転生した僕には、いや、前世でも僕には家族がいない。そのせいだろう。この子たちは、エルダ、エマ、エスリーの三人は僕の大事な家族だ。まあ、上の二人は年の離れた妹枠でエスリーは娘枠だけど、そのせいで軋轢もあるけど「ヒーキ」じゃないぞ。
「だったら、さっさと魔力でも何でも使って起こしやがれ!面倒ごとはこっちでなんとかするさ!」
半ば以上僕を怒鳴りつけて、ジナさんは城壁から去った。何しに来たんだろうって一瞬思ったけど、僕の背中を押してくれたのかも……。でもジナさん、いつも怒ってるし違うかな?
「ジナのバカ」
「あの子、敵に岩塩を投げつけるタイプだからね~」
シアラさんとクラシアさんまでなんか言ってるし、やっぱり違うか?




